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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(31) 行路病院・ぐるぐる病院の「患者転がし」

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 生活保護の患者の入院を多数受け入れる民間病院があります。関西では「 行路(こうろ) 病院」と呼ばれてきました。行路は、正式用語ではありませんが、「ホームレス」と似た意味です。筆者が医療・福祉の関係者に聞いた結果を総合すると、その数は大阪府内と近隣の県で50か所近くにのぼります。関東にも同様の病院が相当数あり、「ぐるぐる病院」と近年、呼ばれています。

 なぜ「ぐるぐる」なのか。多数の入院患者が、病院の経営上の都合で1~3か月前後ごとに次々に転院させられており、回り回って、元いた病院へ戻ることも珍しくないからです。

医学的必要性も、本人の意思も関係なく

 背景にあるのは診療報酬のしくみです。一般病棟では入院が長くなると、病院に入る1日あたりの入院料が下がるため、転院させるのです。受け入れる側の病院は、それで空きベッドを埋め、再び高くなった入院料を得て、入院時検査も一からやる。期間がたつと、また別の病院へ転院させる。

 治療上の必要とも、本人の意思とも関係なく行われる転院は「患者転がし」と言うべきでしょう。そこには、退院して生活する場所がないために病院にいる「社会的入院」が、かなり含まれています。

 そうした病院の中には、まじめに医療に取り組む病院もありますが、療養環境や医療内容の水準が低い病院も少なくありません。過去には、ひどい劣悪医療と巨額の不正をしていた病院グループや、必要のない検査や手術をしていた病院も発覚しました。

 以上のような実態は、何よりも患者の人権・人格を傷つけるものです。入院なので費用がかさみ、転院時にかかる移送費も医療扶助ですから、財政面にも影響しています。医療扶助をめぐる大問題のひとつです。

次から次へ、転院を繰り返す

 度重なる転院の実態はどういうものか。首都圏の弁護士や司法書士らでつくる「医療扶助・人権ネットワーク」が14年9月、厚生労働省と千葉県に改善を申し入れたケースを、まず紹介しましょう。

 2007年10月にギラン・バレー症候群という神経の病気を発症した男性(当時50歳代)は、東大病院に入院しました。一時は自力呼吸もできないほどでしたが、しだいに回復に向かい、身体障害の認定を経て、09年1月に千葉県流山市の病院に転院したあと、生活保護を申請して認められました。

 ところが10年2月に同県我孫子市の病院へ転院して以降、4年半の間に20か所以上も転院を繰り返したのです。千葉、東京のほか埼玉、群馬、栃木の病院も含まれ、同じ病院に戻ったことも何度かありました。病気の回復に必要なリハビリを受けられない病院も多かったとのことです。

 元いた社宅は引き払っており、「退院して居宅生活をしたい」と生活保護や障害福祉の担当課に連絡しても、「前例がない」「(居宅を)自分で探せば支援する」などと言われるだけで、担当者が病院へ面談に来ることも2年以上なかったそうです。ネットワークが要望書を出した後の14年10月、ようやく退院が実現し、居宅保護に移行しました。

もともと住居のない人だけでなく、入院中に住居を失って、広い意味でのホームレス状態になった人も「ぐるぐる」から脱出しにくいこと、福祉事務所からの敷金支給で居宅保護に移行することは制度的に可能なのに、実際の退院支援がろくに行われていないことが、問題点として浮かび上がります。

 こうした転院の実態は、会計検査院が14年3月にまとめた「 生活保護の実施状況について 」という報告や、総務省行政評価局が同年8月に公表した「 生活保護に関する実態調査結果報告書 」でも指摘されました。総務省の報告書は、東京都内の3か所の福祉事務所で見つかった具体例も挙げています。

足立区の事例 3年2か月間に、12病院間で34回の転院(12年度医療扶助費724万円)
江戸川区の事例 6年11か月間に、16病院間で43回の転院(12年度医療扶助費826万円)
新宿区の事例 2年3か月間に、12病院間で25回の転院 (12年度医療扶助費857万円)

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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