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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

「何で自分を産んだのだ」と子に責められ…遺伝病、親や先祖が悪いのか?

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 「何でこんな病気になる自分を産んだのだ」

 親からの遺伝子を受け継いで病気になった子から、このような言葉を発せられたら、親はどうしてよいかわからなくなるでしょう。

 レーベル病で視覚障害に陥った子を持つ母親から、自分の種が悪かった、自分の責任だ、自分は生きていていいのだろうか、と泣きながらの相談を受けたこともあります。

 ミトコンドリアは細胞内の自家発電所のような小器官で、母親の卵子の遺伝子情報が伝わる仕組みなので、ミトコンドリアDNA検査は母系の鑑定にも利用されます。

 さて、レーベル病は、ミトコンドリアDNA変異が原因になる、母系遺伝の病です。

患者やその家族が、そのことを知ると、母親は責任を感じてしまい、患者である子供から冒頭のように難詰されたら、それこそ立つ瀬がなくなります。

 しかし、もしその病気が治るものであれば、そのことを笑い飛ばすこともできるかもしれません。ところが、今の医学は、病気のメカニズムは大分わかってきたものの、それを完全に治す手段は必ずしもそろっていません。

 つまり、医者はメカニズムの知識の提供はできても、それを克服する手段は十分には持っていないという、実に中途半端な条件下で診療しているのです。

 レーベル病もそうです。だから、患者は病を親や、先祖のせいにしたくなるかもしれませんし、親は 呵責(かしゃく) の念に (さいな) まれるという、不幸な状態を () き起こします。

でも、その捉え方は一面的にすぎるのではないでしょうか。

 ちょっと、視点を (ひろ) げてみましょう。

 1個の遺伝子変異が病因になるレーベル病でも、変異があるのに一生病気が出ない例もあり、また、出た場合でも重症度はまちまちです。つまり、遺伝子以外の未知の因子も病気に関与しているのです。

 ほとんどの病気や病気のなりやすさは、先祖から伝わってきたいくつもの遺伝子にかなりの部分が支配されていることは、まぎれもない事実です。ですが、同時に、病気の発症や重症度に関与しうる、化学物質、病原物質、生活環境などの遺伝外因子もまた、時代とともにどんどん変遷しています。

 そう考えると、遺伝子ばかりに責任をなすりつけるのは、理解が狭小に過ぎて、合理的ではない気がしてきます。

 それでもなお、親の責任だ、先祖の血が悪いと叫ぶ人はいるでしょう。

 でも、その当人が、一人の尊い人格としてそこに存在するのは、間違いなく先祖があるお陰ですよね。

 親や祖先から、病に関する負の遺産ばかりでなく、それよりはるかに大量の、健康な肉体や精神や知恵、そして人生のさまざまな宝物までも与えられているのだと気付いてみることは、できないものでしょうか。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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