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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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漢方薬の選び方…煎じ薬とエキス剤、保険適用か自費診療か?

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 今日は、漢方薬の煎じ薬も実は保険適用であるというお話です。本邦で保険適用となっている漢方エキス剤は約150種類あります。エキス剤とは、インスタントコーヒーのようなイメージです。インスタントコーヒーはお湯に溶かすと本当のコーヒーに非常に近くなります。同じように漢方のエキス剤もお湯に溶かすと昔ながらの煎じた漢方薬に近くなるのです。

 そもそも漢方薬の歴史は非常に古いのです。日本漢方のバイブルとも言われる傷寒論という「書物?」は約1800年前には出来上がっていたと言われています。日本では卑弥呼が登場する頃です。その傷寒論の中に現在の保険適用漢方薬の約半数が含まれています。 () えて「書物?」と記載したのは、1800年前には紙や印刷技術が普及していません。ですから当時は竹や木を糸で板状につなぎ合わせて、そこに墨や漆で字を記載したそうです。竹簡とか木簡と言います。そして保管するときはくるくると丸めて保管したのです。ですから今でも百科事典などは「○○巻」とナンバリングすることがありますね。そして一番重要な、そして力強いものは、一番上に置いたので「圧巻」という言葉が生まれたそうです。「圧巻」のくだりはテレビでご一緒した林修先生に教えてもらいました。さて、問題はその傷寒論の原本が 何処(どこ) にもないことです。現在ネットなどで「傷寒論」と検索して得られる画像の多くは、紙と出版技術が進歩した宋時代の写本です。1800年前に本当にあったかは実は疑問としても、宋の時代、約1000年前には漢方の知恵は確実に存在していました。

漢方は足し算、西洋薬学は引き算で…

 漢方は生薬の足し算の 叡智(えいち) です。現代西洋薬学は引き算の知恵です。何か薬効がある成分を含む生薬から精製分離という化学的知恵が生まれたのは約200年前です。僕は、「1804年に阿片からその主成分である物質が精製分離でき、それをモルヒネと名付けたので、そこから現代西洋薬学が産声を上げた」と講演会では説明しています。そんな引き算の知恵ができるようになる前は、足し算を致し方なく行ったのです。薬効がある生薬を足し合わせて、効果を増強し、副作用を減らし、そして新しい作用を生む組み合わせを創り上げました。そんな知恵が漢方です。

 生薬の多くは植物です。 (まれ) に動物、鉱物なども使われます。それらを通常は煎じたのです。お湯で煮詰めたのです。ですから漢方薬の多くは名前の最後に「湯」が付きます。一番有名であろう葛根湯もそうですね。この葛根湯も実は傷寒論に登場します。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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