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外傷後成長(PTG)研究者の開浩一さん

編集長インタビュー

開浩一さん(1)逆境を経て、人生の意味が深まることがある

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逆境を経て、人生の意味が深まることがある 人生を揺るがすようなつらい体験を経て、人は人生の意味を深め、成長することがある。「ポスト・トラウマティック・グロース(Post Traumatic Growth、以下PTG、外傷後成長)」と名付けられて研究されているこの考えだが、振り返ると、このインタビュー欄で、そして医療取材を続ける中で、私はその具体例にしばしば出会ってきたと感じる。日本のPTG研究に携わり、自身も交通事故による 頸椎(けいつい) 損傷で車いす生活を送る長崎ウエスレヤン大学准教授(社会福祉学)の開浩一さん(46)に、苦悩の中で自らを支える希望の力についてお話を伺った。

◆◆◆

 インタビューの日程が決まった数日後、熊本地震が起きた。震度5弱を記録した長崎県諫早市に住む開さんに、慌てて安否を尋ねるメールを送ると、「無事です。地震になれてない九州人の私にとっては、とても怖く感じました」と返信があった。その5日後に、諫早市にある大学の研究室でインタビューをした。

 「地震が起きた時、やはりPTGのことが頭に浮かびました。それでも被災者のことを思うと、悩む。どう伝えるべきかと。東日本大震災の時も悩んで、今もまだ悩んでいるのです。このつらい経験もいつかは自分にとってプラスになっていくかもしれないとトラウマ体験をした人が知ることで、希望を持って前を向く力になるのではないかと期待し、伝えたいけれど、今は伝えるべき時ではないとも思う。今は苦しい時で、とりあえず生きていくために、水や食料や安全な場所、安心が何より必要な時です。被災者の方が落ち着いた頃に、何らかの関わりが持てないかとぼやーっと考えている状態です」

 逆境や挫折が人を育てるという発想は古くからあるが、PTGという概念の研究が本格的に始まったのは1990年代からだ。自然災害、犯罪被害、虐待など様々なトラウマ体験で表れるとされ、心理、医療、福祉など様々な分野で研究が進められている。

日本でもトラウマ体験の影響で起こる心身の後遺症、PTSD(Post Traumatic stress disorder、心的外傷後ストレス障害)については広く知られるようになってきたが、PTGの考え方はそれほど一般に広がっていない。開さんはPTGをどのようなものだと受け止めているのだろうか。

 「この概念を確立した米国の研究者、テデスキとカルフーンの考えた定義は、トラウマティックな出来事,すなわち心的外傷をもたらすような非常につらく苦しい出来事をきっかけとした人間としての心の成長を指します。そのきっかけになる出来事は様々で、今回の熊本地震のような地震や津波のような自然災害も含まれますし、事故、虐待、戦争体験などの、いわゆるPTSDを生じさせるような出来事だけではなく、がんの患者さんとか、HIVに感染された方にも、PTGは表れます」

 開さんはさらに、一般的にトラウマとまで世間では受け止められていない経験であっても、PTGは起こりうると指摘する。

 「学生らにインタビュー調査をすると、失恋や学業の不振、受験の失敗などでも起こり得ることがわかっています。客観的に見て、ものすごくつらいだろうと考えられる経験の重さも大事な要素ですが、もう一つ、体験したその人がその出来事をどう捉えるかということがすごく重要です。人生を揺るがすぐらい、あるいは、それまでの考え方や価値観が揺らぐほどの衝撃を受けたと本人が感じたなら、PTGのきっかけになり得ます。逆に、地震や津波など誰が見ても大変な出来事に巻き込まれたとしても、簡単に乗り越えた人にはそれが生じにくい。つまり、その人の人生観が揺らぐかがとても重要なんです。もちろん、簡単に乗りこえるに越したことはないし、その方がよっぽどいい。しかし、簡単には乗り越えられなくて、苦しんで、それまでの価値観が足元からガラガラと崩れることによって、PTGは起こる可能性があるのです」

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岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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