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佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」

コラム

身体拘束1000日超の患者も

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 患者の身体の自由を奪う行動制限(身体拘束と隔離)は、海外では1人の患者に何時間くらい続けるのだろうか。杏林大学保健学部教授の長谷川利夫さんが、2013年に出版した著書「精神科医療の隔離・身体拘束」(日本評論社)で取り上げた各国の比較を見てみよう。

身体拘束1000日超の患者も

 身体拘束の平均継続時間は、米国カリフォルニア州4時間、米国ペンシルベニア州1.9時間、ドイツ9.6時間、フィンランド9.6時間、スイス48.7時間。隔離の平均継続時間は、米国カリフォルニア州9時間、米国ペンシルベニア州1.3時間、ドイツ7.4時間、オーストラリア4時間などとなっている。いずれも、単位が「時間」であることに注目してほしい。

 日本はどうか。前回紹介した厚生労働省の調査では、継続時間は分からない。だが、新潟県の国立療養所 犀潟さいがた 病院(現在は国立病院機構さいがた医療センター)で身体拘束された患者が死亡した問題を受け、1999年に国の研究班が行った全国調査「精神科医療における行動制限の最小化に関する研究」のデータが参考になる。

 この調査によると、回答病院で身体拘束を継続的に受ける患者(768人)の約67%が、調査時点で1か月以上の拘束を受けていた。また、隔離を継続的に受ける患者(1798人)の約35%が、1か月以上隔離されていた。日本における行動制限は、海外のように「時間」の単位で表せるほど短くはなく、まさにケタ違いのようだ。

米国の600~1200倍の拘束時間

 異様な状況は今も続いている。国内のある学会が、一部の精神科病院を対象に最近行った調査を紹介してみたい。報告書の公表前なので、学会名や詳細な数字の記載は控えるが、回答病院の身体拘束の平均継続期間は約100日に及んでいた。時間に直すと約2400時間。日本(回答病院)の身体拘束の平均継続時間は、米国カリフォルニア州の約600倍、ペンシルベニア州の約1260倍ということになる。

 身体拘束を受ける患者のうち、拘束開始から1週間以内の患者は32%。この割合が増すことを願いたい。しかし、想像を絶するほど長い拘束を受ける患者が後を絶たず、平均継続日数の増加要因となっている。

隔離の最長は4.9年

 回答病院の中で、最も長く身体拘束を受ける患者の継続日数は、なんと1000日超。「単位を間違ったのでは」と疑う人がいると思うので繰り返すが、1000時間ではなく1000日だ。2.7年、2万4000時間……。言葉を失う。これは回答した時点での身体拘束継続日数なので、この患者は現在も拘束されているのかもしれない。

 一方、隔離の平均継続日数は約50日。最長は約1800日、4.9年だった。

 最近は、がんなどで大きな手術を受けても、筋力の衰えを防ぐことを重視して、すぐに歩かされる。その方が患者の回復を早め、医療費の削減にもつながるからだ。このような流れとは真逆にある精神科の長期拘束、長期隔離は、患者や社会のためになっているのだろうか。健康な人でも、1か月ほど手足を縛られ続ければ体は弱り、精神にも異常をきたす恐れがある。これが医療と言えるのだろうか。本当に治す気があるのか。

 何のための身体拘束、誰のための隔離なのか。残念ながら、今の日本には個々のケースを第三者が検証する仕組みすらなく、行動制限継続の必要性を検討する各病院の行動制限最小化委員会は形骸化を指摘されている。

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佐藤光展(さとう・みつのぶ)

読売新聞東京本社医療部記者。群馬県前橋市生まれ。趣味はマラソン(完走メダル集め)とスキューバダイビング(好きなポイントは与那国島の西崎)と城めぐり。免許は1級小型船舶操縦士、潜水士など。神戸新聞社社会部で阪神淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、2003年から医療部。日本外科学会学術集会、日本内視鏡外科学会総会、日本公衆衛生学会総会などの学会や大学などで講演。著書に「精神医療ダークサイド」(講談社現代新書)。分担執筆は『こころの科学増刊 くすりにたよらない精神医学』(日本評論社)、『統合失調症の人が知っておくべきこと』(NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ)など。

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