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認知症ケア、避難所では困難…熊本地震、介助の手足りず
症状・体調悪化する人も
熊本地震の被災地では、避難所などで過ごす認知症高齢者への対応が課題として浮かび上がっている。
介助する人手や周囲のサポートが足りず、十分なケアが難しいためだ。認知症高齢者の避難現場を追った。
「ご飯はまだ?」――。おにぎりを食べたばかりの白髪の男性が、けげんな表情で尋ねた。「すぐ持ってきますね」。職員が笑みを返すと、男性は安心した表情で床に敷かれた布団に戻り、寝付いた様子だった。
避難所の一つ、熊本市南区の市立
施設では家具などが倒れて、余震が続いた。これ以上のケアは危険と判断し、職員とその家族が15日、入所者たちを車に乗せ、施設と学校を何度も往復。4時間がかりで体育館に移した。
介護とは無縁の学校ではケアが難しかった。食料や薬、介護記録や血圧計などを運び込んだが、職員も被災し、通常の約3割の10人ほどしか集まらず、おむつ交換やトイレの介助の頻度が減った。断水が続き、職員は「歯磨きや手洗い、着替えもままならず、衛生管理に苦労した」と話す。
こうした環境変化が追い打ちをかけたのか、日がたつにつれて、体重が減り、夜中に大声を出す人も目立ってきた。体調や症状の悪化を食い止めようと、大急ぎで施設内を片づけたが、ようやく施設に戻れたのは20日。5日間を要した。
長引く避難生活は、認知症高齢者の症状を悪化させる面もあるようだ。
「避難所に来て、本人が一層落ち着かなくなった。そちらに移りたい」
認知症デイサービスやグループホームなどを運営する同市東区のNPO法人「あやの里」には20日から、認知症高齢者の受け入れを求める相談が相次いだ。
利用者で、近くの教会に家族と避難していた80歳代の女性は19日、夜中に1人で外に出てしまい、警察に保護された。同法人は女性を含め、30人以上の高齢者らを新たに受け入れたが、岡元奈央・副代表は、「人手も足りず、全ての要望には応じきれない」と明かす。
介護が必要な高齢者らの避難先は、福祉施設などに設けられる「福祉避難所」も候補になる。だが、対応できる人手の不足などが原因で開設が遅れており、近隣住民と避難所で過ごすケースも目立つ。
熊本県宇土市地域包括支援センターの宮下麻衣子さんは、「認知症の人は具合が悪かったり、居心地が悪かったりしても、言い出せないこともある。日頃からその人をよく知る人たちが支えていくことが大事」と話している。
周囲の理解・協力必要
避難生活を余儀なくされる認知症の人や家族を、周囲の人たちはどう支えればいいのか。認知症介護研究・研修仙台センターでは、東日本大震災の教訓を踏まえて、支援のポイントを七つにまとめている=表=。
同センターが2012年度、東日本大震災で避難所に支援に入った介護事業所などから計621事例を集めた実態調査によると、認知症の人は、環境の変化に弱く、落ち着かなくなったり、
また、他人の荷物を自分のものと思って持ち去ったり、夜間に何度もトイレに行ったりして、ほかの避難者とトラブルになるケースもあった。昼夜逆転や大声などに対し、苦情も寄せられた。避難所に居づらくなり、倒壊の恐れがある自宅に帰った家族もいたという。
加藤伸司・同センター長は「避難生活が長引くと、認知症の人の対応などで家族が疲弊し、普段のように接するのが難しくなり、さらに本人が混乱する。周囲の理解と協力が不可欠だ。認知症の人を温かく見守ることによって、症状の悪化やトラブルを少しでも減らすことにつながる」と話す。
<福祉避難所>
災害時、一般の避難所で過ごすことが難しく、何らかの配慮が必要な障害者や高齢者、乳幼児らを受け入れるため、福祉施設などに開設される。内閣府の資料によると、2014年10月1日現在、全国で7647か所(791自治体)が指定されている。
(辻阪光平、野口博文)
(2016年4月24日 読売新聞朝刊掲載)
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