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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

貧困と生活保護(29) 保護費のほぼ半分は、医療扶助に使われている

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国民健康保険・後期高齢者医療から外れる

 数は少ないのですが、生活保護の世帯でも、労働の時間・日数が多く、勤め人向けの健康保険(社会保険)や公務員・私学の共済に加入している場合は、自己負担の部分だけが医療扶助になります。保険証を持ったまま、保険併用の医療券が発行されます。

 しかし、国民健康保険や後期高齢者医療の場合は、生活保護を受けると、加入対象から外れます。このため、医療費の出所が全額、医療扶助になることが多いのです。

 ただし、ほかの公費負担医療を利用できるときは、そちらを優先して使います。次のような制度は、所得水準によって自己負担がありますが、生活保護世帯なら負担ゼロなので、保険から外れている場合、それらの制度の対象範囲の医療は、すべて公費負担になります。

障害者の自立支援医療(身体障害児の育成医療、身体障害者の更生医療、精神障害の通院)、指定難病の医療、感染症法の勧告や強制による入院(結核を含む)、小児慢性特定疾病の医療、未熟児の養育医療、結核の子どもの療育医療、精神保健福祉法による措置入院

 たとえば、身体障害の認定を受けた腎不全患者の人工透析は更生医療、精神障害による継続的な通院は精神通院で全額まかなわれます。なお、感染症法のうち、結核の通院医療は一律5%の自己負担があるので、その分は医療扶助から支出されます。

 また、以下の制度による医療は、生活保護に限らず、もともと自己負担がありません。医療費は原則として、これらの制度で負担されます。

労働災害、原爆被爆者援護、戦傷病者援護、公害健康被害補償、医薬品副作用被害救済、予防接種健康被害救済、学校保健安全法で定める学校病の医療(低所得世帯の子ども)

介護保険は65歳以上なら保険優先

 介護保険の場合は、65歳以上なら、市区町村に住所のある全員が加入します(1号被保険者)。生活保護を受けている人も介護保険料を徴収され、その額は生活扶助費を算定する際に加算されます(つまり介護保険料は生活扶助で出る)。介護サービスを受けるときは、一般の人と同様に費用の9割が介護保険でまかなわれ、1割の利用者負担分だけが介護扶助で支出されます。

 40~64歳は、公的医療保険の加入者しか介護保険に入れません(2号被保険者になれない)。このため、社会保険に入っていない生活保護の人が、加齢に伴う病気で介護が必要になったときは、介護保険と同じサービスが全額、介護扶助で提供されます。

 生活保護費のうち、介護扶助の総額が比較的少ないのは、65歳以上について、保険を優先して使う原則が守られていることが理由の一つでしょう。

医療費も保険優先にすべきでは

 医療の大部分が保険優先でないことによって、医療扶助の金額が大きくなり、生活保護費の総額も押し上げています。なぜ医療だけ、他法・他施策優先の原則から外れているのでしょうか。

 戦後に旧生活保護法が施行されたのは1946年10月、全面改正されて新しい生活保護法が制定・施行されたのは50年5月。これらの段階から医療扶助はありました。一方、国民皆保険が実施され、職域の健康保険に入っていない人に国民健康保険への加入が義務づけられたのは、それより後の61年4月です。先に医療扶助が定着しており、ここで生活保護の医療も保険優先にすると、よちよち歩きの国保の財政負担になることが懸念されたのかもしれません。あるいは、保険料を払えない人は保険に加入させないと考えたのかもしれません。

 しかし、医療扶助だけを特別な扱いにするのは、足らずを補うという生活保護制度の基本からずれています。医療機関の窓口で、保険証でなく医療券を出すのは、引け目を感じるという声もあります。介護保険のように、生活保護の人でも国保や後期高齢者医療に加入する形にし、それらを運営する自治体に国から財政的な手当てをするほうがよいのではないかと思います。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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