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加齢による耳の不調(1)動脈硬化の予防が加齢性難聴の予防にもなる

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 読売新聞社の医療・健康・介護情報サイト「ヨミドクター」は3月29日、第9回「読売医療サロン」を東京・大手町の読売新聞東京本社内で開きました。

 医師資格を持つ読売新聞東京本社の (みなみ)(まさご) ・調査研究本部長がプレゼンターを務め、医療界で活躍する「旬の人」をゲストに招くプレミアム・イベント。今回のテーマは「加齢による耳の不調~耳鳴り・難聴 最新治療」です。

ゲスト:国際医療福祉大学教授、慶応大学名誉教授 神崎仁さん

1961年慶応義塾大学医学部卒。87年慶応義塾大学医学部教授、95年慶応義塾大学病院院長、国際医療福祉大学熱海病院病院長。日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医、元日本耳鼻咽喉科学会副理事長、元日本聴覚医学会理事長。

聞き手:南砂・読売新聞東京本社調査研究本部長

日本医科大学医学部卒。ベルギー国立ゲント大研究員、日本医科大学助手を経て、1985年、読売新聞社入社。編集局解説部などで、医療、福祉、教育を取材。編集委員、医療情報部長、編集局総務を経て、2014年6月から現職。厚生労働省・文部科学省などの有識者会議委員を務める。

ヨミウリ医療サロン「加齢による耳の不調」

【51~272MB 時間:22分41秒】

食卓の孤独人にならないために

加齢による耳の不調(1)動脈硬化の予防が加齢性難聴の予防にもなる

第9回読売医療サロンで講演する神崎仁・国際医療福祉大教授(3月29日、読売新聞東京本社で)=高梨義之撮影

 本日は加齢性難聴からお話を始めます。難聴には様々な原因があります。加齢もその一つです。昔は老人性難聴と呼んでいましたが、高齢者に対してやや差別的な響きがあること、それに老人の定義がはっきりしていなかったことから、現在の名称になりました。

人間は20歳を過ぎると少しずつ聴覚が衰えていきます。加齢による変化はあらゆる臓器に起こります。視力や足腰などの運動機能、そして脳にも起きます。そのため、聴力の衰えにはなかなか気がつかない。

 ところが相手の言っていることが聞きとりにくくなると、だんだん話をするのが面倒くさくなるものです。やがて人の話を聞かなくなる。最近、「食卓の孤独」という言葉があります。老人ホームなどで、人の会話が聞きにくくなることから、だんだんみなさんとのおしゃべりに加わらなくなります。そのうち「食卓の孤独人」になってしまいます。

 そんな状況が続くと、だんだんうつになっていきます。耳からの情報が入ってこないことで、脳が働かなくなって、認知症になりやすくもなる。高齢者にとって聴覚、視覚、歩行機能、認知機能、この4つは非常に大事なのです。

 ところが、ある程度の年齢になっても、「よく聞こえていない」と自覚する方は少ないと思います。自宅では、ご家族が大きな声でしゃべってくれていたり、周りの人がカバーしたりしてくれるから、さほど不自由は感じないものです。

 逆に「人の話が聞きにくいな」と自覚して耳鼻科に行っても、加齢性難聴には手術や薬などの治療法がありません。結果的に補聴器を使うことになりますが、多くのみなさんは補聴器に抵抗をお持ちのようです。最近では格段に性能が良くなっていますので、積極的に使った方がいい。自分に合った補聴器を適正に使えば生活の質は上がります。にもかかわらず、世界的に見ても、日本の補聴器使用率は非常に低いのです。補聴器の処方のされ方があいまいだからです。

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 補聴器は眼鏡屋さんや通販で手軽に買うことはできます。しかし、それでは検査をしないでいきなり買うことになります。例えば眼鏡をいきなり通販で買う人はいません。眼科で検査を受けて、自分に合ったものを買うはずです。

 補聴器も同じことです。医師の診察を受けて処方箋をもらうようにしないと、自分の耳として働いてくれるような適正な補聴器に出会えないわけです。

20歳代から始まっている加齢性難聴

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 加齢性難聴の症状はどのようなものでしょうか。図は「聞こえのセルフチェック」用の設問です。1つでも該当するのであれば、念のために耳鼻科での診療を受けることをお勧めします。

 聴力の仕組みを簡単に説明しておきましょう。

 耳から入った音は、鼓膜からその後ろにある小さな骨、 ()(ぎゅう) というカタツムリのようなところに伝わります。そこまでを伝音器と呼びます。このカタツムリで受けた音は、電気信号に換えられて、神経を通じて脳の中枢に届きます。ここまでは感音器と呼びます。

南砂・読売新聞東京本社調査研究本部長

南砂・読売新聞東京本社調査研究本部長

 感音器の障害は、伝音性難聴と区別しています。伝音性難聴の場合は、薬や手術で治るものがありますが、感音器の障害になると手術でも治りません。補聴器で処置するしかありません。

 難聴の原因はいろいろありますが、比較的身近な中耳炎は伝音系難聴であり、内部にたまった水を抜いたり、投薬したりで治ります。

 感音難聴にもいろいろあり、突発性難聴になった人の話などはよく耳にします。爆発の場面に遭遇したり、ヘッドホンを非常に大きな音で聴いたりしていると、外傷性の難聴になります。めまいを伴うメニエール病も難聴の原因となります。

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 騒音の大きな職場で働いている人は騒音性の難聴になります。生まれつき、遺伝子の関係で難聴になる方もいます。今は少なくなりましたが、昔は結核の治療に使った抗生物質が原因で難聴になる人もいました。そのほか聴神経腫瘍が原因となることもあります。脳梗塞でも聞こえが悪くなることがあります。

 今日のテーマである加齢性難聴は慢性の感音難聴です。

 加齢性難聴は、20歳を過ぎると始まると申し上げましたが、純粋に加齢だけを考慮すると40歳代ぐらいまではまったく問題はありません。それを過ぎ、60歳代では高い音の聴力は落ちてきますが、会話に関係する範囲はまだ大丈夫。ですから、本当に加齢だけなら60歳過ぎまでは難聴になりません。

 ところが、なぜこれほど難聴者が多いかというと、加齢以外に原因があるからです。原因の大部分は動脈硬化です。高血圧や糖尿病などの人は心筋梗塞や脳梗塞などを起こしやすいわけですが、同じように難聴にもなりやすいのです。つまり高血圧や糖尿病の予防は、難聴の予防にもなるわけです。

補聴器の適切な利用を

 日本にどれぐらいの加齢性難聴の人がいるのか。現在、65歳以上の25~40%が加齢性難聴と考えられています。75歳以上になると40~60%、80歳以上になると80%と高齢になるにつれて難聴者は増えていきますが、その背景には動脈硬化の進行があります。

 難聴になりやすい遺伝子もありますが、これは難聴だけに関わるのではなく、動脈硬化や肥満などを引き起こす遺伝子と同じです。遺伝子的にも動脈硬化と難聴は関係あるのです。従って、生活習慣をきちんとすることが難聴の予防になるわけです。抗酸化物質であるウナギやタラ、卵などのビタミンE、DHAの豊富な魚類、ビタミンが豊富な野菜などを積極的に採ると、アンチエイジングになり、加齢性難聴の予防にもなります。生活習慣病の予防ですから、カロリーは控えめにして、食事は腹八分目を心がけることも大切です。

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 どのくらいの難聴になると補聴器が必要になるのでしょうか?

 例えば「静かな部屋で1対1の話」は約40デシベルです。これが聞こえないとなるとかなり状態が悪いことになります。したがって補聴器が必要になるのは45デシベルぐらいからになります。気になるようでしたら、ぜひ耳鼻科に行ってチェックしてみてください。

 補聴器についてはいろいろ誤解があります。例えば、聞こえにくい側の耳につけると思っている方が多いのですが、そうではありません。言葉がわからない側につけて、いくら音を大きくしても、あまり効果はありません。相手の声が聞き取れる側に補聴器をつけたほうが電話などでも便利ですよね。

 お店などで補聴器を試して、「ああ、聞こえるな」と思って衝動的に買っちゃうのも駄目です。老眼鏡とは違うのです。補聴器は、徐々に音に慣らしていく必要があるのです。いきなり正常に聞こえるような音を入れたら、すぐにうるさく感じるようになるはずです。そのために、少しずつ調整をしていくと、たとえば水の流れがうるさく感じるとかいろいろなことに気づくようになります。それを微調整しながら、自分の耳の代用になるようにするわけです。ある程度の期間試してみないと、自分の耳のようにはなりません。

 両耳が難聴となると、もちろん両側につけるほうが効果的です。ただし、言葉がよく聞こえないほうにつけても、結果的には意味はないわけです。両側の分を買えば出費が大変ですので、効果的な方法を医師と相談して考えることが必要です。

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聴力の仕組みを説明する神崎教授

 補聴器のお店でいきなり「両耳につけなさい」と言われたらこれは危ないです。まずは片耳ずつつけてみて、その後にもう片方につけることも考えるようにしたほうがいいですね。両耳一度につけると調整が難しくなりますので、最初は避けたほうがいいわけです。

 デパートや眼鏡店などでも購入できますが、まずは耳鼻科を受診してください。さらに、耳鼻科にも補聴器を専門とする補聴器相談医がいます。日本耳鼻咽喉科学会のホームページで、県ごとに相談医の名簿を閲覧できますので、まずはその医師に検査をしてもらうのです。

 さらに医師に補聴器業者、とくに認定補聴器専門店の技能者を紹介してもらえば安心です。補聴器外来、あるいは難聴外来を持つ病院なら認定補聴器技能者が来てくれることがあります。その場で調整が出来るので非常に便利です。

 補聴器には試す期間が必要です。デパートや通販などでは長期の貸し出しにはなかなか応じてくれません。本人が納得できるまで試せるほうがいいわけです。長い人だと3か月、半年も微調整に時間がかかることがあります。

 最初は「補聴器なんかイヤだ」と思う方が大半だと思います。ところが以前、こんな記事を見つけました。女優の沢村貞子さんの話です。この方は補聴器をしていることを自分で公表し、エッセーにもこう書いているのですね。

 「知人から補聴器をつけていることは恥ずかしくないの?と尋ねられます。年なんだから平気と答えています。だってみなさん、めがねは何も抵抗なく使っているじゃない。耳だって同じこと。補聴器は私のイヤリング。楽しんで使っている」

 これは彼女が80歳の時の記事で、かなりの難聴があったのでしょうね。このような著名な方の良い例を聞くとみなさん勇気を持つわけですね。

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 日本の著名人で補聴器を使っていることを明らかにする人は少ないのですが、アメリカではそうではないようです。元大統領のロナルド・レーガンさんは事故の後遺症で難聴になったそうですが、写真のように補聴器を使っていました。

 レーガンさんだけでなく、アメリカの大統領はほとんどが補聴器をお持ちのようです。公の場所でつけるかどうかは別の問題ですが、ビル・クリントンさんは両耳に補聴器を使っているようです。この方は若い時にロックミュージックを聴き過ぎたことが原因と新聞には書いてありました。

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 みなさんの周りにも補聴器をつけている人はいると思います。難聴の人は見た目でわかるわけではありません。だから、自分で難聴であることを公表して、ゆっくり話してもらうように周囲に伝えたほうがいいです。

 実は補聴器は複数の人が同時に話すことに弱いのです。相手の口元を見ながら聞くため、複数相手だとちゃんと会話について行けなくなります。

 周囲で絶えず音が出ている場合にも弱い。水道が流しっぱなしになっていたり、テレビや洗濯機の音がしていたりする場合などですね。テレビドラマでも背景に音楽が流れ、さらに複数の人が同時に話したりすると、補聴器の場合は非常に聞きにくくなります。




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