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がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点

医療・健康・介護のコラム

がんの障害年金を知っていますか?

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 52歳のKさんは、検診での異常をきっかけに肺がんと診断されました。肺がんが、胸膜に転移し、胸水がたまる状況となり、治療を受けています。現在は、ニボルマブという分子標的薬の治療で、病状は比較的安定していますが、胸膜転移により、息切れやせきが完全にはおさまっていない状況です。

 Kさんは、事務のお仕事をされていますが、最近では、1日、仕事を続けるのが、だんだんきつくなってきたようです。

 「お仕事は、無理されなくてもよいと思いますよ」

 と言うと

 「高額療養費制度で、毎月の治療費は4万円くらいで済んでいるのですが、次第に負担になってきて……、治療費は何とか工面しているが、夫だけに頼るわけにはいかないんです。娘が大学を卒業するまで、がんばらなくちゃと思って、何とか仕事を続けたいんです」と言うのです。

高額ながん治療費

 最近のがんの治療はどんどん高額になってきています。ニボルマブは、最近、肺がんに承認された分子標的薬で、1か月の治療費が約290万円もかかります。3割負担でも、1か月89万円と超高額治療です。

 我が国では、高額療養費制度があり、自己負担限度額が一定以上を超えると支払いを免除される良い制度があります。それでも、毎月、数万円を支払うのが長期間になると負担は大変になってきます。

 抗がん剤により、がんと長く共存ができる時代になってきた反面、がん患者さんは、毎月かかる高額な治療費を払い続けられるだろうか?という新たな悩みをかかえるようになってきたということも事実です。

 Kさんのように、治療費のことを患者さんから相談を受けることは、そう多いことではありません。ただ、実際には、患者さんは、お金のことでも悩んでいる場合が少なくありません。

 がんになった患者さんを支える制度には、高額療養費制度のほか、傷病手当金、個人の生命保険など、さまざまなものがあります(詳しくは、NPO法人がんと暮らしを考える会のホームページ(注1)などを参照してください)。

 この中でも、障害年金制度は、ほとんど知られていません。また、実際に受給される方が極めて少ないという現状があります。

がん患者さんでももらえる障害年金制度とは?

 年金というと、60歳になったら、もらえる老齢年金のことが思い浮かぶと思いますが、障害年金は、老齢年金、遺族年金と並ぶ公的年金の一つです(注2)。

 がん患者さんも、障害年金をもらえることをぜひ知っておいてほしいと思います。

 障害年金とは、簡単に言うと、重病になり、働くことが、または、日常生活が困難になった人が対象となる年金制度です。

 がん以外にも、心疾患、脳疾患などの疾患でも適応になります。高齢者が対象というよりは、むしろ、若い方のための年金制度です。

 進行がんになり、老齢年金をもらえない可能性のある患者さんが、前倒しして、年金を受給できるという制度と言ってよいと思います。そういった意味では、進行がん患者さんは皆受給する権利があると思います。

 がん患者さんに障害年金が受給できるということは、実は、私も最近になるまで知りませんでした。あるがん患者会の方に、教えていただいたのです。

 年金というと、引退するまで働いた後、老後を楽に過ごすためだけのものと思っていました。長期掛け金という形で、かなりの高額が毎月給料から天引きされていますが、これが年金だということも私は知りませんでした。

 がんの発生頻度は、男性ですと、50歳を過ぎるとぐんと増えます。私の大学時代の同級生も、がんで既に3人亡くなりました。私ももう50歳を超えましたので、気をつけなければなりません。

 50歳を過ぎても、年金をもらえる年までがんばろうと、疲れてきた体にむち打ってあくせくと働いてきた矢先にがんと診断されることが多いのです。

 そのような状況で、がんになり、高額な治療費を支払い、年金も受けられず、亡くなってしまうこともあるのです。

 そのために、障害年金というのは、とても素晴らしい制度と思います。

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katsumata

勝俣範之(かつまた・のりゆき)

 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

 1963年、山梨県生まれ。88年、富山医科薬科大卒。92年国立がんセンター中央病院内科レジデント。その後、同センター専門修練医、第一領域外来部乳腺科医員を経て、2003年同薬物療法部薬物療法室医長。04年ハーバード大学公衆衛生院留学。10年、独立行政法人国立がん研究センター中央病院 乳腺科・腫瘍内科外来医長。2011年より現職。近著に『医療否定本の?』(扶桑社)がある。専門は腫瘍内科学、婦人科がん化学療法、がん支持療法、がんサバイバーケア。がん薬物療法専門医。

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