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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

先天色覚異常、いじめ・差別を受けるなら…教育の敗北

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 オペラ「夕鶴」などの作曲で名高い團伊玖磨さん(1924~2001)は、「パイプのけむり」などのエッセーの作者としても有名な人です。

 自分が先天色覚異常であることは、エッセーでも度々触れています。そして、小学校の図画の時間、赤い花を緑に塗って、「どうして見た通りに描かないのか、ひねくれた子だ」と無知な先生に叱られたという有名な話があり、色覚異常に対する無理解や差別に憤ることもよくあったようです。

 いちごは赤、葉っぱは緑というように、子供の時から物と色の関係をいつの間にか常識にしてゆきます。しかし、その常識がまだ不十分なうちは、色覚異常があると、緑の葉がたくさん茂っている中の赤い花、例えば椿の花などは見落としたり、緑として見えてしまったりする可能性があります。

 もちろん、単色で見た場合には色を間違えることは少なく、日常生活で困ることはほとんどありません。

 しかし、ごちゃごちゃと色のある環境では、赤に対して青緑、 (だいだい) に対して黄緑、茶に対して緑など、補色間の区別がつきにくくなったり、薄い色が区別しにくかったりといったことが生じるのです。

 こうした特性は、むしろ色覚異常を理解する上での手がかりにし、また学校教育や社会環境の中で用いる色に紛らわしい色使いをしないという配慮のために利用すべきことです。

 例えば、黒板に赤のチョークは紛らわしいので避けるとか、眼科関連の学会のプレゼンテーション(発表)では、色覚異常者に紛らわしい色の組み合わせを避ける色覚バリアフリーが推奨されているのも、そういう利用の仕方の代表格でしょう。

 先天色覚異常の大半は第一、第二色覚異常といわれるもので、伴性劣性遺伝という遺伝形式をとり、日本人では男性は約5%、女性は0.2%に存在するといわれます。

 つまり、学校に100人の児童生徒がいれば、約5人は先天色覚異常を持っているということになります。

 それが、いじめや差別の対象となり、異常者はそのことを隠さなければならないという事態は、教育の敗北といえないでしょうか。

 オリバー・サックスが著した「色のない島へ」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)ではビンゲラップ島に多いある種の色覚異常者は、そうでない人とは異なった特異な感覚を持っていることを示唆しています。

 色覚異常がある團さんが、音や文章に卓越した能力を発揮したのは言うまでもありませんし、絵画の巨匠たちの中にも実は先天色覚異常があったとされる人もいます。

 色覚異常者は、色覚正常者とは少しだけ異なった特性を持った色感覚を持っているという考え方を学び、周囲の少しの配慮、思いやりをそこに導入させることこそ、学校教育の重要課題なのではないでしょうか。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「健康は眼に聞け」「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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