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胃がん<上>主犯のピロリ菌を見逃すな!

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 日本人がかかるがんで最も比率の高い胃がんは、死亡する確率が低いことでも知られる。俳優の渡辺謙さんが早期の胃がんを切除したというニュースも記憶に新しい。消化器系のがんの治療に40年以上携わる北海道医療大学学長の浅香正博さんがBS日テレ「深層NEWS」に出演し、胃がんのメカニズムを解説するとともに、胃がんで命を落とさないためにピロリ感染胃炎を疑って専門医療機関を受診する必要性を訴えた。

(構成 読売新聞編集委員・伊藤俊行)

◆5年生存率が60%超の日本

 

胃がん<上>主犯のピロリ菌を見逃すな!

図1 BS日テレ「深層NEWS」より

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図2 BS日テレ「深層NEWS」より

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図3 BS日テレ「深層NEWS」より

 日本人の胃がんは、罹患(りかん)数は第1位であるのに対し、これによって死亡した人の数だと3位になります。日本での胃がんは「助かる病気」で、5年生存率は60%を超えています。つまり、かかりやすいけれども、治りやすいがんであると言えます。

 ただ、胃がんでも、とにかく早く見つけないと助かりません。日本以外の国ですと、5年生存率は10~20%であるということを見ても、早期診断が非常に大切だということが分かると思います。

 

 早期の胃がんとは、胃の粘膜と粘膜下層の間でがんの浸潤が止まっている状態です。このうち、内視鏡手術でがんを取ることができるのは、粘膜にとどまっているがんまでで、粘膜下層まで行ったがんに関しては、やはり手術をしなければなりません。内視鏡で取ってしまうことができれば、わずか数日で退院することも可能です。

 粘膜にとどまっている早期胃がんの場合、5年生存率は97.8%です。しかし、粘膜、粘膜下層を貫いて、固有筋層まで行ってしまった進行がんになると、この数字は50~70%に下がってしまいます。さらに漿膜(しょうまく)を越えてがんが浸潤してしまうと、周りに大網(たいもう)、大腸、膵臓(すいぞう)などがありますので、ステージ4となり、予後がきわめて悪くなってきます。

 日本は胃がん手術の技術も進んでいますから、進行胃がんでも他の国より予後はよいのですが、早期がんのように5年生存率が90%を優に超えるというわけにはいきません。

 

◆粘膜にとどまる段階は症状なし

 

 一方、スキルス性胃がんは、がんが表面に飛び出さず、粘膜内部に浸潤していくがんです。だから、外から見ても分かりにくく、気付いた時には固有筋層、漿膜を越えていて、手遅れになるという場合が多いのです。スキルス性胃がんは早期の段階では症状が非常に少なく、発見はとても難しいと言われています。

 がんが粘膜内にとどまっている早期がんでは、85%以上症状がないことに留意すべきです。吐き気、胃の痛みなどが早期の胃がんによって引き起こされることもありますが、こうした症状は、胃炎や胃潰瘍にも共通に出現しますので胃がんを診断する決め手にはなりません。進行胃がんになれば、痩せてくる、吐血をするなど特徴的な症状が出てきますが、早期胃がんには見られないのです。

 自覚症状のみで胃の病気を診断することは、ほとんど不可能と思って下さい。ですから、症状がなくても、定期的に胃がん検診を受けることが胃がんで亡くならないために必要なのです。

◆最大のリスク要因はピロリ菌

 

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図4 BS日テレ「深層NEWS」より

 WHO(世界保健機関)は、世界の胃がん患者の80%でピロリ菌が陽性だと推計しています。これは胃がん全体の数字で、さらに詳細に見ると、胃の入り口以外にできる「非噴門(ひふんもん)胃がん」の場合は、90%がピロリ菌によるものだと指摘しています。日本人は胃の入り口にできるがんが非常に少なく、大半が非噴門胃がんですから、胃がんの最大のリスク要因がピロリ菌であるということが、WHOによっても認められているのです。

 わが国では広島大学や北海道大学などが、ピロリ菌の抗体のほかに呼気試験などの検査もまじえて詳細に検討したところ、日本人の胃がん患者のほぼ99%がピロリ菌陽性なのです。ですから現在、ピロリ菌がいない日本人は、将来、胃がんになる可能性は限りなく小さいということが言えるのです。

 誤解していただきたくないのは、ピロリ菌を持っている人の99%が胃がんになるわけではないということです。ピロリ菌を持っている人に、別の要因が加わることによって、胃がんが発生しやすくなるのです。

 例えば、ピロリ菌を持っている人が塩分を取り過ぎると、胃がんになりやすくなります。ピロリ菌陽性者では、摂取塩分の濃度依存的にがんが発生してくるのですが、ピロリ菌がいないと、食塩をどれだけ摂取しても胃がんは発生しないで胃炎しか起こってこないのです。

 野菜や果物を摂取すると、胃がんになりにくいと言われています。これも、ピロリ菌と関連づけて考えることができます。緑黄色野菜や果物に含まれるビタミンCは、がんの発生を抑制する働きがありますが、ピロリ菌に感染していると、ビタミンCが胃の中に分泌されないのです。つまり、ピロリ菌があると、野菜や果物をとってもがんを防ぐ効果がなくなってしまうことが科学的に証明されています。

◆たばこ、お茶、飲酒との関係

 

 その他の生活習慣と胃がんの関係も、いろいろと誤解があるので、いくつか具体的に見ておきましょう。

 たばこは、WHOが「単一で最大の発がん物質」と規定し、たばこに関連するがんとして14種類を発表しています。そこには肺がんなどのほかに、胃がん、大腸がんも含まれています。ピロリ菌に感染していている人がたばこを吸えば、胃がんのリスクがより大きくなるということは、理解しやすいと思います。

 お茶を飲むと胃がん予防に効果があると言われています。これは、お茶の成分であるタンニンがピロリ菌に効果があるという理由のようです。しかし、お茶の産地である静岡県で胃がんが少ないわけでもありませんし、日本人がこれだけ お茶を飲んでいながら、世界で最も胃がんの多い国であることを考えると、お茶には胃がんを確実に抑制する作用はないことは事実と思われます。

 辛い食事と胃がんには、ほとんど関係はありません。辛い物の取り過ぎさえなければ、胃を荒らすことはほとんどありません。少量の摂取では適当に胃の粘膜を刺激して、カプサイシンという胃を守る物質を出しますので、むしろ胃の粘膜を保護すると言われています。

 飲酒と胃がんの因果関係もありません。もちろん、飲み過ぎは良くありません。ストレスも胃がんとは無関係です。動物実験で繰り返しストレスを加えても、胃炎しかできません。

 胃の病気の大半はピロリ菌に関連していますから、ピロリ菌が最初からいない人や、ピロリ菌を除菌した人は、胃の病気になる確立は著しく少ないと考えられます。(続く)

※2月12日放送のBS日テレ「深層NEWS」(月~金曜日の22時~23時放送)を再構成しました。

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