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佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」

医療・健康・介護のコラム

身体拘束急増のなぜ

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拘束具の進歩が拘束増の一因か

 

 

 認知症患者の入院増が、身体拘束や隔離の増加要因とみる人は医療関係者にも多い。「認知症患者の転倒防止などの名目で、身体拘束を安易に行う例が目立っている」という。次のような声もある。「拘束具の進歩で、患者を縛りやすくなったことが影響していると思います」

 

身体拘束急増のなぜ
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身体拘束を体験する杏林大学教授の長谷川利夫さん。上はマグネット式拘束具。ベッド上で手足や肩、胴体の自由を奪う。下は拘束衣。手の部分を後ろで縛ったり、何かにくくりつけたりする。現在はほとんど使われていないとみられる。2枚とも長谷川さんの著書「精神科医療の隔離・身体拘束」(日本評論社)から許可を得て転載。

 昔は長い布などで体を縛ったため、抵抗する患者を拘束するのは至難の業だった。精神科の身体拘束と隔離を扱った著書がある杏林大学保健学部教授の長谷川利夫さんは「昔は拘束のしにくさが拘束の歯止めになっていた面もあった」と指摘する。ところが近年、マグネット式と呼ばれる拘束具が急速に普及し、手足や腹部にはめるとマグネットの力ですぐに固定できるようになった。拘束を解くためには鍵の役割をする別のマグネットが必要で、患者の意思では外せない。使いやすい道具の出現が、安易な拘束を増やしたとすれば皮肉な話だ。

 

 ある医療関係者は「安易な身体拘束や隔離の被害は、高齢者だけでなく若者にも及んでいる」と指摘する。親と一緒に精神科病院にやってきた若者が、いきなり複数の男性看護師に体を押さえつけられ、隔離個室に連れ込まれる場面を最近も目撃したという。親と医師の間では、強制入院させることで話がついていたのだろうが、だまし討ちをされ、非人道的な扱いを受けた若者は心に深い傷を負う。以後の治療にも悪影響が出かねない。

 

 心を癒やす精神科が、心を壊す場になってはいけない。身体拘束や隔離の増加原因について、引き続き取材を進めていく。

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佐藤写真

佐藤光展(さとう・みつのぶ)

読売新聞東京本社医療部記者。群馬県前橋市生まれ。趣味はマラソン(完走メダル集め)とスキューバダイビング(好きなポイントは与那国島の西崎)と城めぐり。免許は1級小型船舶操縦士、潜水士など。神戸新聞社社会部で阪神淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、2003年から医療部。日本外科学会学術集会、日本内視鏡外科学会総会、日本公衆衛生学会総会などの学会や大学などで講演。著書に「精神医療ダークサイド」(講談社現代新書)。分担執筆は『こころの科学増刊 くすりにたよらない精神医学』(日本評論社)、『統合失調症の人が知っておくべきこと』(NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ)など。

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