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QOD 生と死を問う

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[QOD 生と死を問う]家で看取る(中)訪問看護・介護フル活用

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「連絡ノート」で意思疎通

[QOD 生と死を問う]家で看取る(中)訪問看護・介護フル活用

 老衰と末期がんのため相模原市の自宅で1月、90歳で息を引き取った山本節子さん。訪問看護師らの支援を受けながら 看取みと った長女の由香さんは、介護とフルタイムの仕事を両立させた。日中、自宅で1人だった節子さんをどのように支えたのか。

 「介護施設かホスピスを探した方がいい」。昨年7月、節子さんに末期がんが見つかった時、病院の医師はそう告げた。だが、由香さんは、節子さんの希望をかなえようと自宅療養を選んだ。

 当時、節子さんは食事などの介助が必要な「要介護3」。由香さんはケアマネジャーと相談し、家族がいない日中の見守りも兼ね、毎日約2時間おきに看護師や介護士が訪れる体制を組んだ。訪問看護は、24時間対応の「楓の風」に依頼。8事業所で年間約350人を看取る実績があった。

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 コミュニケーションの要となったのが「連絡ノート」だ。由香さんは出勤前に節子さんの食事を作り、ノートに着替えの指示などを書いた。看護師や介護士は、日中の様子や会話の内容を細かに記した。介護士の吉川千恵子さんは「節子さんを中心に全員が一つのチームとなった」と言う。

 心配だった費用も、訪問時間を1回30分と短くしたため在宅医療も含め月3万円程度で済んだ。「本人や家族との信頼関係がうまく築けたので、効率よくケアできた」とケアマネジャーは話す。

 残業がある日や出張時は、単身赴任中の夫が有休を使って帰ったり、介護保険外で全額自己負担の見守りサービスを使ったりした。1時間1200円かかったが、「施設に入ったら月20万円以上かかるから、高いとは思わなかった」と言う。このサービスを使い、外食など息抜きもできた。

 厚生労働省の調査では、自宅で最期まで暮らすことが困難な理由は「家族に負担がかかる」が最も多く、次いで「急変時の対応が不安」だった。

 節子さんの急変時はどうだったのか。

 昨年10月9日。由香さんは普段通り7時前に出勤した。介護士が8時半に訪れ、節子さんは朝食を取った。ところが11時半に介護士が訪れると、下半身から大量出血。駆けつけた看護師が処置して落ち着いた。しかし、夕方再び出血したため、危険と判断した看護師が医師に連絡。医師は由香さんに「病院がいいなら救急車を呼んでください。自宅で看取りたいと考えるなら今から行きます」と告げた。

 「病院へ行ったら何をしてもらえるの」。急いで帰宅し、パニック状態の由香さんに、看護師は「できる処置は恐らく輸血だけでしょう」と説明した。病院に運んだとしても、できることはほとんどないと知り、救急搬送はしなかった。

 「自宅でも急変にきちんと対応してもらえた。信頼する看護師が見通しを示してくれたから冷静に判断でき、母の願い通り家での暮らしを続けられ、自然な死を迎えることができた」。由香さんは、そう痛感している。(山本節子さん、由香さんは仮名です)

希望がかなう人少数

 自宅で最期までと望んでも、希望がかなう人は、まだ少数だ。

 在宅生活を支えるNPO法人「渋谷介護サポートセンター」のケアマネジャー、 纐纈こうけつ 恵美子さんは「確かに難しいケースはある。だが、多くは自宅で最期を迎えることは可能。本人と家族が覚悟を持ち、意思を示してくれれば、支える方法はいろいろある」と話す。

 コツは、早い段階から訪問リハビリや訪問介護を利用して、家で生活する力をつけること。介助があれば亡くなる直前までトイレに行ける人は多いという。介護家族のためにも、自費サービスの利用を検討したい。介護事業者に相談すれば大抵応じてもらえる。近所の店やコンビニの宅配など、便利なサービスも活用できる。

 訪問看護師や在宅医から「最期はどのようになるのか」など、今後の見通しをしっかり聞くことも大切だ。残された時間を悔いなく過ごすことができる。

 ◎QOD=Quality of Death(Dying)

 (大広悠子)

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