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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

貧困と生活保護(28) 生活保護とパチンコをどう考えるか

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「ひま」と「孤立」がよくない

 第2グループは、ひまな人。働いて稼ぐ能力があるとは限りません。やることがなく、孤立しているから、パチンコをしたり酒を飲んだりして過ごしてしまうのです。

 参考になるのは、大阪市西成区で、高齢単身の生活保護受給者を対象に13年7月から始まった「 ひと花センター 」という事業です。生活保護の自立支援プログラムとして民間団体に委託して行われています。経済的自立の期待できない人たちでも、社会的自立(社会参加)を促すのが目的です。畑作り、演劇、文芸、美術、ダンス、体操など多彩なプログラムが日々あり、登録者が自由に参加します。公園の草刈りや会場設営の手伝いなどボランティア活動も用意されています。利用者から「仲間ができ、日々の暮らしが変わった」「酒やパチンコが減った」といった声が出ています。

 第3グループは、娯楽としてほどほどにパチンコなどをしている人たち。これは働く能力がある場合に活用する努力をしていれば、余暇の活動として許容されるでしょう。むろん、依存症にはまらないよう気をつける必要があるし、ほかの楽しみを見つけるほうがベターです。

勝ったらどうなる

 パチンコ、ギャンブルは、全体の確率として客が必ず損をするよう作られており、当然、負けることが多いのですが、もし勝ったら、生活保護での扱いはどうなるでしょうか。厚労省保護課によると、宝くじの当選金と同様に、臨時的収入として申告する必要があり、負けた時の玉の代金や馬券代などは差し引けません。就労以外の臨時的収入なので月8000円までは控除されますが、それを超えた分は保護費が減って実質的には“没収”です。税金の場合、馬券の継続的な大量購入で、外れ馬券代を経費と認めた最高裁判決(15年3月10日)があり、経費に関して法的に争う余地はあるかもしれませんが、いずれにせよ収入申告が必要です。そんなのだれが申告するか、というのが現実ではあるものの、まとまった額が入って申告しない場合、不正受給になりえます。

ギャンブル大国でよいのか

 刑法には賭博、常習賭博、賭博場開帳図利、富くじ発売などの罪があります。バクチで金銭を失っても本人が承知の上のことなのに、なぜ犯罪になるのか。放置すると国民の射幸心をあおり、勤労意欲を低下させて経済に影響を及ぼし、金銭目的の他の犯罪も誘発されるため、と解釈されています。

 ところが競馬、競輪、競艇、オートレースの公営ギャンブルが催され、宝くじ、スポーツ振興くじも盛んに広告する。そしてパチンコ・パチスロは14年末の警察庁集計で1万1627店にのぼります。約460万台という器械の数は、世界のギャンブルマシンの6割を占めるそうです。

 14年度の売上総額は、公営ギャンブルが4兆円余り、宝くじ・スポーツ振興くじが1兆円余り。そしてパチンコ・パチスロの売上総額(推計)は、24兆5000億円という、とてつもない巨額です(日本生産性本部「レジャー白書2015」)。

  アルコールの有害使用対策に関する厚労省研究班の調査 (13年実施、2番目の報告書PDFファイルの27ページ)に基づく推計では、成人男性の8.8%、成人女性の1.8%がギャンブル依存症で、成人人口にかけると、536万人もの病的ギャンブラーがいることになります。他の先進国(1~2%程度)よりはるかに高率で、手近にパチンコ店があるのが大きな要因とみられています。店では玉を景品に換えるだけで、第三者の景品交換所が換金するから賭博にあたらないという解釈で刑法の適用を免れていますが、どれだけの客が単なる玉転がしや景品集めを楽しむために来店するでしょうか。ギャンブルやその借金返済のために横領、窃盗、強盗、殺人などの犯罪に至った例も数えきれません。

 家庭と社会に及ぼしている影響は大きく、自己責任では片づけられないでしょう。日本はすでに世界有数のギャンブル大国。精神をむしばむギャンブル依存への対策を講じることは、疾病防止・公衆衛生の観点からも重要な課題です。韓国は、たくさんあったパチンコ店を06年に全廃しています。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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