文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

貧困と生活保護(28) 生活保護とパチンコをどう考えるか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

条例を作った小野市のその後

 パチンコ関連では、兵庫県小野市が「福祉給付制度適正化条例」を13年3月に制定しました。生活保護、児童扶養手当など福祉給付の受給者に対し、「給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消し、その後の生活の維持、安定向上を図ることができなくなるような事態を招いてはならない」としたうえで、市民・地域社会の責務まで定めました。

 市民・地域社会の責務とは、<1>保護を要する者を発見した場合は、速やかに市か民生委員に情報提供する<2>不正受給の疑いや、遊技、遊興、賭博等に費消して生活の支障を常習的に引き起こしていると認めるときは、市に情報提供する――という両面性を持った内容です(罰則なし)。制定前には、兵庫県弁護士会や有識者から「監視社会を招く」「受給者への偏見を助長する」といった批判が出る一方、各地から多数届いた意見は賛成のほうが多く、全国的に注目を集めました。

 その後、どうなったのでしょうか。市によると、13年4月の条例施行から16年2月末まで、3年足らずの間の情報提供は41件。内訳は、生活困窮者への援助要請9件、金銭の費消5件(飲酒を含む)、不正受給の疑い13件(ほとんどは児童扶養手当)、その他14件(名前を挙げられた受給者がいないなど)です。大騒ぎしたわりには、拍子抜けという印象です。小野市は人口5万人足らず。生活保護は条例制定前で約120世帯、15年2月末でも149世帯187人にすぎず、パチンコ店も多くないので、もともと大きな問題があったわけではないのでしょう。

 横山成彦・社会福祉課長は「生活保護受給者でギャンブル依存症というレベルの人はおらず、指導したらやめてくれている。市民の多くは条例を冷静に受け止めていた。生活保護の世帯数が増えたのは、福祉制度への理解が広がったのも一因だろう」と話しています。

方針を変えた別府市、中津市

 話を戻して別府市。今後はどうするのでしょうか。中西康太・社会福祉課長は「不利益処分は法的に好ましくなかったと反省している」としたうえで、筆者にこう語りました。

 「これまで依存症の人の対策ができていなかったので、医療機関や自助グループにつなぐ。精神科医を招いて職員研修もした。昼間にすることがなくてパチンコしている人には、地域の活動などに参加を勧め、自分の生きる価値を見いだせるようにしたい。生活保護の人全員がパチンコしているみたいに言う人もいるが、実際はごく一部。それを理由に生活保護をバッシングするのは間違っている」

 別府市(人口約12万人)の生活保護は約3900人。人口比の保護率は3.2%(全国平均は1.7%)と高い水準です。かつて隆盛を誇った温泉の旅館、飲食店、みやげ物店などで社会保険もなしに働いていた人たちの仕事が減り、高齢になったことが大きな要因で、パチンコ店にいたのも、そういう単身女性が多かったそうです。

 中津市(人口8万人余り)も、依存症対策と「やること作り」を重視すると説明しています。

「責める、説教する」は逆効果になりかねない

 パチンコやギャンブルがよいこととは、筆者は思いません。でも、生活保護の人だけを問題にして取り締まるような方法で解決するとは考えられません。どうしたらよいのか。個人の状態を3種類に分けて検討するべきでしょう。<1>ギャンブル依存症の人<2>時間をもてあましている人<3>ちょっとした娯楽にとどまっている人――です。

 第1グループの依存症の人。非難して、説教して、反省させるという方法は、上から目線のうえ、結局のところ本人の自覚に期待することになるので、効果が乏しいでしょう。

 このままではいけない、やめようという本人の決意は欠かせないけれど、自分の意志だけでやめられないのが依存症という病気だからです。やめたいと思ってもやめられない。自己コントロールができない。勝つか負けるかというスリルが忘れられず、失った金をギャンブルで取り戻そうとする。借金を重ねる。もうやらないとウソをつく。

 ギャンブルをしやすくする手助けを周囲がやってはいけませんが、本人の人格を批判する言葉や態度は、むしろマイナスに作用しがちです。自己肯定感が下がり、「どうせ私なんて」という気持ちが強まると、うさばらしのため、またギャンブルに走ってしまいかねないからです。

 精神医学の診断基準には「病的賭博」の病名があり、保険診療の対象になります。治療にあたる医療機関が少ないのがネックで、効く薬もありませんが、スタッフとの個別の対話や、依存症に苦しむ人の集まりを通じて、ギャンブルを断ち切る援助をします。各地の「 マック 」など福祉系の依存症回復支援施設でも、似た取り組みが行われています。 GA(ギャンブラーズ・アノニマス) という当事者の自助グループの会合は、全国のかなりの地域にあります。家族や友人のグループとしては、 ギャマノン があります。

 そうした医療機関・支援施設・自助グループでは、けっして審判するような態度を取りません。たとえ、またギャンブルに手を出しても、本人を否定しません。失敗を含めて本音を明かせる場をつくり、自分の弱さを認め、誘惑を遠ざける工夫をして、やめ続けることを援助します。そういうやり方は、薬物依存、アルコール依存をはじめ、各種の依存症の回復支援に共通しています。

2 / 3

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

原記者の「医療・福祉のツボ」の一覧を見る

最新記事