文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(28) 生活保護とパチンコをどう考えるか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
yomidr_pachinko20160408

. (本文と写真は関係ありません)

 生活保護を受けている人がパチンコやギャンブルをするのはけしからん、という意見がしばしば自治体に届いたり、ネットに書き込まれたりします。保護費の元は税金だから浪費するな、ということなのでしょう。なるほど、気持ちはわかります。

 ただし、生活保護の利用者でパチンコやギャンブルをするのは、あくまでも一部です。その人たちも手持ちのお金は限られているので、多額につぎ込めるわけではありません。

 また、支給された保護費を何に使うかは基本的に本人の自由とされています。「過度なパチンコや公営ギャンブルは望ましくないが、余暇の範囲なら、やってはいけないという規定はない」というのが厚生労働省保護課の見解です。負けてお金が減っても、保護費が余分にかかるわけではありません。苦しくなるのは本人の暮らしです(もちろん生活が苦しくなるのは、よいことではない)。

 筆者は、そもそも実質的にギャンブル(賭博)であるパチンコの店が非常に多く、競馬・競輪・競艇などが大々的に宣伝されていること自体の是非に目を向けるべきだと思います。その結果、ギャンブル依存症という病気になり、家庭不和、生活破綻、貧困に陥ってしまう人たちが少なからず存在するのです。生活保護の人が増える一因は、ギャンブルにもあるでしょう。

 一方、生活保護利用者のパチンコなどについては、「けしからん」とその人を非難することが有効とは思えません。切って捨てるのではなく、「では、どうしたらいいのか」まで考えることが重要でしょう。ギャンブル依存症なら、治療につなぐ手助けが必要です。高齢者などで時間をもてあましているなら、ほかに前向きの「やること」をつくるよう援助するのがケースワーカーの役割ではないでしょうか。

別府市、中津市は保護費をカットしたが……

 大分県別府市の社会福祉課(福祉事務所)は2015年10月、市内14のパチンコ店と市営競輪場を調査しました。同課によると、10月に4日間の調査日を設け、35人のケースワーカー全員がそれぞれ1日ずつ見回りを行い、そこで姿を見た保護利用者25人を市役所に呼び出して、遊技場に出入りしないよう指導しました。そのうち9人には、過去にも指導して「遊技場に立ち入りません」という誓約書を出させていたことから、1~2か月間、保護費を減額する不利益処分(生活扶助と住宅扶助のカット)をしました。同課は少なくとも25年以上前から年1回の見回り調査を行い、同様の不利益処分をしていました。12月の市議会で明らかになったことです。

 同県中津市の社会福祉課(福祉事務所)も少なくとも25年以上前から、市内のパチンコ店十数軒と場外馬券売り場を毎月1回、見回りしてきました。15年度は係長2人を含めた14人が手分けして調査。過去を含めて3回目の出入りが確認された保護利用者4人に対し、弁明の機会を与えたうえで、1か月分の保護費を減額する不利益処分(生活扶助のうち第1類費のカット)をしました。同市は、保護世帯向けのしおりに「遊技場への出入りはできません」と書いていました。4人は過去に口頭注意や文書指導を受けており、「ギャンブルだけでなく、就労努力や治療専念をしていないという問題もあった」と同課は説明しています。

 これに対し大分県は、厚労省の判断も踏まえて16年2月、別府市の不利益処分は適切でないと是正指導しました。それを受けて別府市は今後、パチンコ店などで調査は続けるものの、不利益処分はしないことにしました。中津市も同様に方針を改め、しおりから遊技場出入り禁止の文言を削除しました。両市とも当事者からの不服申し立てはなく、不利益処分の取り消しや減額分の給付はしていません。

生活態度を理由に制裁できるのか

 別府市や中津市は何を根拠に不利益処分をしたのか、厚労省や大分県はなぜ、それを改めさせたのか。直接的には法解釈の問題です。まず、生活保護法には次の規定があります。

60条(生活上の義務) 被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。

 生活態度をきちんとしなさいよ、という努力義務です。よく考えると白黒をはっきり線引きしにくい内容ですが、別府市や中津市は、パチンコ店やギャンブル場に行くことが、この義務に違反すると考えました。そして、次の条項による指導をしたのです。

27条(指導及び指示) 保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。

2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。

3 第1項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。

 必要なときは指導・指示ができるけれど、何でもかんでも口出しして、本人の生活の自由を制約してはいけない。まして意に反する強制はできない、というわけです。ところが、次の条文があります。

62条(指示等に従う義務) 被保護者は、保護の実施機関が、(中略)27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない

2 (保護施設関係のため、略)

3 保護の実施機関は、被保護者が前2項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。

 あれっ、と首をかしげませんか。27条で「強制できない」と念押ししておきながら、62条では指導・指示に従う義務がある、従わないと保護の停止や廃止もありうるという。不利益処分の制裁があるなら強制です。法律そのものが矛盾した内容になっていると筆者は考えます。本来なら、不利益処分までできるのはどういう場合なのか、条文の中に考え方を明示するべきでしょう。

 さて別府市は、指導に従わなかったことを理由に、保護費の一部カットという重い制裁を加えました。

 一方、厚労省の判断はこうです。「生活保護制度にパチンコやギャンブルを禁止する規定がないのに、不利益処分までするのはバランスを欠いており、法の趣旨に合わない。60条(生活態度)だけを理由に不利益処分はできない」

 確かに、福祉事務所が必要と思えばどんな内容の指導もできる、それを守らないとペナルティーを科すというのでは、生活保護の利用者は、いわば福祉事務所の支配下に置かれてしまいます。それでは憲法の保障する個人の自由を侵害し、自立にもならないから、27条の2項・3項で、管理主義や過剰な権限発動をいましめているわけです。

 保護の停止・廃止・減額などは、生存にかかわることもあります。不利益処分ができるのは、保護の要件(資産・能力などの活用義務)に違反した場合に限られると考える法律家もいます(厚労省はその点に明確な見解を示していません)。

1 / 3

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

原記者の「医療・福祉のツボ」の一覧を見る

最新記事