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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第39話 介護や医療へ伝えたい性的マイノリティーの声

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HIVを理由に断られた透析クリニック40軒

 36話でお知らせした、NPO法人パープル・ハンズ「高齢期の性的マイノリティ 課題を知るつどい」は、3月20日、約60名の参加で無事、終了しました。ゲイの患者が多いエイズ拠点病院のソーシャルワーカー、支援団体などのほか、介護関係者、医療や介護系の出版社、そして老後や孤立を心配する(?)当事者など、多彩なかたがたに聴講いただきました。

 基調講演をしてくださったAさんは63歳のゲイ。HIV陽性でひとり暮らし、糖尿病のために腎臓透析のほか、現在、足の壊死(えし)から下肢切断による車椅子利用などの状況を抱えています。いささか特殊な事例に聞こえますが、世の「同性婚」ブームとは裏腹に、高齢期も含めてひとり暮らしの性的マイノリティーは多いし、ゲイにはHIV陽性や「ガチムチ」(※ゲイ用語で、がっちりした筋肉質でかつむちむちとした太めの体形)で糖尿病予備軍みたいな人もそこそこいます。わたし的には、ちょっとキツめだけどゲイなら陥りそうな状況だな、と思います。ひとり暮らしやトランスジェンダーなどの医療や介護場面の課題も、シンポジウムで報告されました。

 Aさんの講演でまず驚かされたのは、転居のため透析病院を探したらHIV陽性を理由に40軒から断られたこと(おかげでうつ悪化)。HIVはB型肝炎ウイルスの100分の1も感染力がないのに、医療者の無知・偏見には暗たんとします。

 1992年にHIV陽性の告知以後、当時は「死の病」と思われていたので老後は無いものと思い、経済的な準備がなく、長期延命できたが経済困窮に。昨年、自宅で昏睡(こんすい)しているところを発見され、救急搬送、入院。それを機に糖尿病の壊死により右足を切断します。

 5か月のリハビリ入院を経て在宅復帰を目指し、ソーシャルワーカーや支援団体のサポートで、生活保護や介護保険など「使える制度は全部使う」態勢づくりへ。新居探しは、収入が保証される生活保護はむしろ問題ないが、高齢ひとり暮らしや車椅子利用が敬遠され超難航。それでもネットワークの持ち合わせに恵まれたAさんは、専門家と友人に支えられ、在宅生活を再開します。「公助、互助、自助……さまざまなレベルの支援を使って生き残った自分は、これからなにができるのだろう」と講演を締めくくりました。

同性パートナーや親友を「家族」と認めるか

 後半ではAさんの事例をもとに、パネラーの発言が続きました。

 ケアマネジャーで行政書士でもある石崎祐子さんは、本名や住所も秘密にし、人間関係の持ち合わせに乏しいなど、性的マイノリティー特有の状況にある人を介護の場でどう受け入れるか、という私の問いに答え、「その前に、そういう人をどうやって『発見・発掘』するかが重要。行政主導で高齢独居への関心は高まっているが、Aさんのように高齢者(65歳)以前だったり、性的マイノリティーなど行政のサーチに引っかかりにくい人は、自分から声を上げないと制度に乗せることができない。個人情報保護の壁が高く、こちらが気づいてもなかなかアプローチできない」と語りました。

 トランスジェンダーを公表している男性看護師の浅沼智也さんは、トランスの人の医療忌避を語りました。

 「患者として医者に10分の診療時間のなかでカミングアウトすることはなかなか困難、受診に二の足を踏む。病院がもう少し多様性に配慮して、だれでも来やすい場所になったら、早期発見・早期治療につながる」

 見かけと保険証の性別の違いのほか、外貌はヒゲもあり男性化しているが、子宮などの摘出をしておらず、婦人科への受診が必要な場合も足を運びづらいとのこと。また、ホルモン投与は性別適合手術を経て戸籍変更後は健康保険が適用されますが、だれもが手術に踏み切るわけではなく、その場合は自費。高齢期も介護施設等でのホルモン投与対応は未知、などの課題をあげてくれました。

 性的マイノリティーには、親族と疎遠になったり、身寄りがなかったりする人もいます。緩和ケア病棟(ホスピス)の医師である北村浩パープル・ハンズ代表理事は、身寄りのない人の死を看取(みと)った経験からこう述べました。

 「何度となく“病院のなかの孤独死”を見てきた。病院によって温度差はあるだろうが、責任をとってくれるなら、絶縁した家族より近くの同性パートナーや親友でも家族同様として通る余地はある。ただ、前提として成年後見制度や死後事務委任契約など、法的な裏づけをきちんと用意しておいてくれると、病院側も安心できる」

 私自身も行政書士として、成年後見などの法的裏づけを「外づけ家族」ととらえ、病院や介護現場で根強い「親族優先主義」に再考をうながしました。

介護や医療へ伝えたい性的マイノリティーの声

奥から、永易、浅沼さん、北村さん、石崎さん、手前はAさん

 この点、行政書士でもある石崎さんからは、「後見業界でも終末期の医療意思決定の代行は課題のまま。さらにトランスのかたが認知症などで自己管理できなくなったとき、だれがなんの権限でホルモンを維持管理するのか。浅沼さんがあげた自費診療問題も場合によってのしかかるとあっては、簡単に解決できない」という発言がありました。

 

自尊感情が低く、あらかじめ諦めている人

 フロアからは、「高齢のゲイには自尊感情が低く、自分は“ホモ”だから老後の不幸も仕方ない、とあらかじめ諦めている人もいる」といった指摘がありました。

 社会の性的マイノリティーへの認知や受容性が上がらないと、困窮に陥っても「ヘルプ!」と声を上げられず、孤立の向こうに消えていく当事者たちは後を絶ちません。また、医療や介護、福祉の場にたどりついても、(つら)さや苦しみの本当の(あるいは重要な)原因を語れないままでは、解決につながりません。老病死にかかわる人へこれからも発信していくことが、私たちの役目と思っています。

 ということで、今回のシンポジウムに合わせて小冊子『介護や医療、福祉関係者のための 高齢期の性的マイノリティ 理解と支援ハンドブック』(A5判、24ページ)を刊行しました。伝えたいことはさまざまありますが、あえて「性の多様性」「高齢期の性的マイノリティ」「トランスジェンダー」「医療面会・医療説明」「HIV感染症」「成年後見制度」の6つのテーマに絞り、見開き単位でわかりやすく記述しています。上述のAさんへのインタビューやパープル・ハンズのイベント等で集めた当事者の高齢期の不安など、なまの声をたくさん収録し、考える素材となっています。

 施設や病院、行政等でご希望のかたに送料無料でお送りしています(5冊か10冊単位で、お広めくださるかたに)。メールアドレスinfo@purple-hands.netへ、送り先と冊数をお知らせください。

 個人でもご覧や入手になりたいかたは、近日、pdf版のダウンロードを準備中です。しばらくお待ちください。

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*このシンポジウムと冊子の作成は、生活協同組合パルシステム東京・市民活動助成基金の助成を受けました。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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2件 のコメント

わかりやすい

あん

医療関係者でも何でもないですが、HPより拝読させていただきました。読み物として、実践的な知識と生活者の声がバランスよく記述してあり、とても勉強に...

医療関係者でも何でもないですが、HPより拝読させていただきました。読み物として、実践的な知識と生活者の声がバランスよく記述してあり、とても勉強になりりました。
100話までどうぞよろしくお願いします。

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厚生労働省に進言してみては? 職業プロなら先入観は捨てるものです。そういうところから変えていくと世間一般も変わると思います。同性愛は、病気ではないと精神医学会が明言したことで説得力をもった過去があります。

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