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中村うさぎさん(3)「あなたの帰るところに」…夫の言葉で見つけた「家族」

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中村うさぎさん(3)「あなたの帰るところに」…夫の言葉で見つけた「家族」

 ――別居中、売り専(売春する男性)と付き合っていた中村さんの自宅で、パトカー騒動があり、ご主人が駆けつけた事件を見ても、ご主人の方が、家族意識が強かったことがわかりますね。

 「そうですね。あの人は香港の家族ともすごく仲が良くて、しょっちゅうお母さんやお姉さんとラインなどで連絡を取り合っていて、写真を送り合ったりしているのです。向こうもよく日本に遊びに来るんですよ。家族の結束が固い。うちの実家は、両親と私と3人しかいないのに、家族の絆は結構希薄です。家族観が私と夫とはかなり違うのです。夫はお姉さんも離婚していて、相手の男に問題があって、離婚の時には傷ついて、その時も夫はものすごく怒っていましたから。『どうしてあんな男に引っかかるんだろう。あんたもうちのお姉ちゃんも、女って本当にバカ!』みたいに言われてましたね」

――ご主人は最初、死ぬ時は誰に看取られたいか聞いた時に、「香港のお母さんかな」と言っていたそうですね。いつ頃まで言っていたんですか?

「いつ頃だろう。2回目に聞いた時に、『あんたに看取られたい』と言われた時も、あまり覚えていないのですけれどもね。お母さんと言った時から何年かしてからだと思いますが」

――逆に中村さんが、ご主人に対して、「家族」という気持ちを抱いたのはいつ頃のことだったんですか?

「どうなんだろう……。『この人が家族なんだな』と思うようになったのは、きっかけがあるんですよね。私が買い物だのホストだのでお金を使いまくってきたツケで税金を滞納していて、税務署とか区役所とか、あらゆる役所に追いかけ回されて大変だった時です。私はいっさい帳簿がつけられないので、一時期は税理士さんに税務処理をお願いしていたのですが、税理士さんに出す領収書などの書類も管理できなかったのです。だから夫に、あんた暇なんだから、ちょっとやってよとお願いして、税務署から呼び出された時も、夫に一緒に行ってもらっていたんです。そこで色々と嫌な目にも遭わせたわけなのですが、ある日、税務署からの帰りに喫茶店で2人でお茶を飲んで一息ついている時に、『私と結婚しなかったら、普通はこんな目に遭わないよね。預金とか色々差し押さえたりして、こんな綱渡りみたいな生活をさせてごめんね』というような話をしたんです」

 「そうしたら夫は、『私はあなたと結婚する前に友達付き合いをしていて、色々浪費もしていたから、そんなことはわかっていて結婚したつもりだった。でも結婚してからも、ホストにハマったり、デリヘル嬢をやると言った時も何かあったらどうするの?ってすごく反対したりもしたけれど、あなたは譲らなかった』と言うんです。そういうことも色々経験したうえで、今度の税務署の件について、夫は言ったのです。『あなたと私っていうのは、何が幸福かということが正反対だと思うのよ』と」

「『自分にとって幸せというのは、今日と同じ明日が来て、あさっても同じ。毎日毎日、同じ日々が平穏無事に繰り返されるということが、自分にとっての安定であり、安定こそが幸せなの。でもあなた違うでしょう? 今日と同じ明日が来ることに耐えられない人じゃない。毎日毎日、何かが起きていないと気が済まないし、起きないようだったら、何なら自分で起こすぐらいの勢いよね』『自分にとっては退屈が幸福であり、安定であるのに、あなたにとっては退屈は全然幸せではないということに途中から気がついたの。こんなに自分が幸せだと思っていることが、この人にとっては幸せじゃなくて、この人にとっての幸せが私には何で幸せなのかがわからない。あまりにも人生観が違いすぎて、こんなに価値観の違う人って初めて見た、ついて行けないって最初は思ったの』と」

「『でもね。そのうちに、この人にとってそれが幸せならば、それは仕方ないと思った。自分の幸せを押しつけるわけにはいかないし、この人と結婚して一緒にいる以上は、この人の幸せに自分がある程度巻き込まれることは仕方ないって』と言うんです。で、その時に夫は初めて言ったのですが、『結婚する時に、判子を押す時に自分は考えたの。この人と結婚するということは、自分はこの人の人生を半分引き受けるということなんだって。それが自分にできるのかと自分に問いかけて、できるだろう、やってみようと思って始めたら、なんだか予想外のことがあまりにもたくさん起きて、途中からこれ大丈夫かなと思ったりもした。でもやっぱり判子を押す時に、半分引き受けようと決心したのだから、できるところまでやろうと思ったの』と」

「『この人と一緒にいる限り、この人はずっとずっと、毎日毎日、刺激を求めて、どこに行っちゃうかわからない。でもね、どこに行っちゃうかわからないような生活をしている人って、自分から見たら信じられないのだけれども、いつかちょっと疲れて、どこかで休みたいなと思う時が来ると思うのよ。あんたは今元気だから、そうやって毎日刺激を求めているけれども、もうちょっと年を取ったらね。ちょっと息切れしてね。どこかで休みたいなとか、帰るところが欲しいなと思う時が来るかもしれない。そんな時に、自分が帰るところになってあげればいいや、と思ったの』と。そういうことを夫が言ったんです。もう私はびっくりしてさ。そんなこと夫が考えていたなんてさ。そういうこと普段は言わない人だから」

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