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がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点

医療・健康・介護のコラム

がんとうまく付き合うには~あわてず、あせらず、あきらめず~ その2

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 「がんが見つかり、手術をして、術後抗がん剤を終えたのだが、再発が怖いので何をしたらよいでしょうか?」

 「再発を早く見つけるために、たくさん検査をしたほうがよいのではないでしょうか?」

といった質問をよく受けます。

 がんが見つかって、初期治療の手術や抗がん剤が終わった後でも、患者さんはいろいろな心配事があります。

 一番多く質問されるのは、「日常生活で、何かすべきことはあるのか?」「検査は必要あるのか?」などといった内容です。

 このような場合にも、

がんと上手に付き合う方法、トリプルA、あわてず、あせらず、あきらめず、が大事と思います。

早期発見・早期治療はすべてのがんにいえることでしょうか?

 早期発見・早期治療が大事、というのは、よく聞く言葉と思います。実際に、早期発見・早期治療が大事なのは検診が有効ながんで、まだがんにかかっていない状況で示されていることです。

 検診が有効ながん、すなわち、乳がんや大腸がん、子宮 (けい) がんなどで、がん検診をすることで、早期発見・早期治療により死亡率が減少することは、科学的根拠(エビデンス)として示されています。

 では、初期治療が終了したがんで、再発を早期に発見し、早期に治療することは、有効かと言いますと、残念ながら、再発を早期発見・早期治療することがその後の治療成績を向上させるという明確なエビデンスは多くありません。

 がんの手術後に色々な検査をして、再発を早く見つけ治療することによって、予後が改善するか?という研究が、色々ながんで行われました。

大腸がん術後には、定期的な腫瘍マーカー、CT検査が勧められる

 術後検査が有効であるがんには、大腸がんがあります。

 手術後の定期的な検査が有効かどうかを科学的に調べるには、手術後の患者さんを、検査を受ける群と、検査を受けない群に、ランダム(不作為)に割り振って、予後(その後の体の状態)を比較するという研究手法が取られます。この研究方法は、ランダム化比較試験と言いますが、医学研究の中で最も信頼できる研究と言えます。

大腸がんの術後に、腫瘍マーカーのCEAを測り、コンピューター断層撮影法(CT)による画像を定期的に撮ることが、予後を改善させるというランダム化比較試験の研究結果が多く報告されています。この研究結果は、さらに、複数の研究を比較して検討する「メタ分析」という研究結果で報告され(注1)、世界中のガイドラインでも引用されています。

 大腸がんでは、初期の転移が肝臓であることが多く、肝転移を小さいうちに発見し、手術やラジオ波などの局所治療で治療することによって、治癒率が向上するので、術後検査が有効であろうと考察されています。

乳がんや卵巣がんの術後検査は必要?

 乳がんや卵巣がんでも、大腸がんと同様な研究が行われましたが、残念ながら、術後検査をすることで予後が改善するという結果は得られませんでした(注2~4)。

 乳がんの術後に、胸部エックス線検査や、腹部超音波検査、骨シンチ(放射性物質であるアイソトープを使って、骨に転移したがんを見つける検査法)、腫瘍マーカーなどの検査を定期的に行うかどうかで、予後が改善するかどうかを調べたランダム化比較試験の研究がいくつかあります(注2、3)。この研究では、乳がん術後に種々の検査を定期的に行う群と、行わない群に分けて、予後を比較しました。

結果としては、検査を頻繁にやる群の方が、再発が早く見つかり、治療も早く行われているのですが、結果的に予後は同じであったというものでした。

 これらの結果から、乳がんの診療ガイドラインでは、術後の検査に関しては、定期受診での問診、触診や反対側の乳房のマンモグラフィー(乳房エックス線撮影)のみが勧められており、その他の積極的な画像検査や腫瘍マーカーなどの採血は勧められていません(注5)。

 卵巣がんのランダム化比較試験の研究は、術後に腫瘍マーカー(CA125)を定期的に採血し、腫瘍マーカーが増えてきた時点で、早期に治療を開始する群と、腫瘍マーカー上昇のみでは治療を開始せず、症状や画像診断で再発が見つかってから、遅れて治療する群とに分けて、治療成績を比較しました。

 結果は、早期治療群では、再発が早く見つかり、治療も早く行われているのですが、結果的に予後は変わりませんでした(注4)。

この研究では、早期治療群では、抗がん剤が早く行われることにより、その分だけ、患者さんのQOL(生活の質)が悪かったことも報告されています。

 これらの結果からいえることは、

 再発・進行がんのほとんどは、転移がん、すなわち全身に広がったがんであり、治療は抗がん剤が中心となるということです。

 全身に広がったがんに対しては、早期に治療をするということは、あまり有効ではないということがわかると思います。

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katsumata

勝俣範之(かつまた・のりゆき)

 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

 1963年、山梨県生まれ。88年、富山医科薬科大卒。92年国立がんセンター中央病院内科レジデント。その後、同センター専門修練医、第一領域外来部乳腺科医員を経て、2003年同薬物療法部薬物療法室医長。04年ハーバード大学公衆衛生院留学。10年、独立行政法人国立がん研究センター中央病院 乳腺科・腫瘍内科外来医長。2011年より現職。近著に『医療否定本の?』(扶桑社)がある。専門は腫瘍内科学、婦人科がん化学療法、がん支持療法、がんサバイバーケア。がん薬物療法専門医。

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