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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第38話 住民としての性的マイノリティー

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 先週は前触れなく休載したところ、読者から2本もお問い合わせがあったと、編集部から聞きました。楽しみにしてくれている読者がいることを、編集部ともども感謝したところでした。今後ともがんばりますので、ご愛読よろしくお願い申し上げます。

議員のLGBT質問は地域の当事者とともに

 “LGBTブーム”のせいか、じつは各地の地方議会で「LGBT質問」をする議員が昨今、多いそうです。ただ、議員情報にくわしい人によれば、LGBTの言葉の意味や例の「 7.6% 」などの数字を紹介し、「同性パートナーシップ導入はいかがか」など定型パターンを質問して、首長側から「今後、検討を重ねてまいりたく」の実効性のない答弁が出て終わり、ということも多いとか……。

 気になるのは、そうした質問をする前提として、地域の当事者とつながって、実情やニーズを聞き取ったり、今後の展開を考えて質問に取り組んでいるのだろうか、ということです。たんに新聞で読んだことを「わが市でも」と言うだけでは、“意識高い私”アピールにすぎないでしょう。質問してくれるだけありがたいとも言えますが、下手な答弁が残ると今後にマイナス効果です。

 

 性的マイノリティーも、地域で暮らす生活者です。ことさらの名声にも才能にも無縁な、一庶民です。そうした人びとが日々何に悩み、何を喜びとし、何を願って暮らしているか。

 いま、メディアにもスターのようなLGBTが登場します。議員さんは、その人たちがテレビを通して訴えていることと併せて、同じ地域で暮らす等身大の性的マイノリティーの、やっと上げた小さな声に耳を傾けてください。「オリンピック」や「グローバル対応」、「人材活用」や「街をワクワク」など、ブランディング化するLGBTとはちょっと異なる、生活者としての性的マイノリティーの声をすくいあげ、地方議会に届けてほしいものです。

性的マイノリティーの生活者という視点

 

 私が、性的マイノリティーとしての自分を、暮らしや「等身大」を切り口に考える志向が強いのは、長く東京の中野区で暮らしてきた影響があるかもしれません。

 学校を卒業後、私は1993年から23年、中野区に住んでいますが、それは当時参加していたゲイのサークルの事務所が中野区にあるからでした。活動に便利なので、区内に引っ越すメンバーがけっこういました。そうした友人とは事務所以外でも、近所の買い物先や飲食店、銭湯などでも会うこととなり、たがいにアパートにも行き来しました。スーパーで出くわして、「アアラ、奥様、お夕食はなんざますの?」「すき焼きざます」「オタクじゃ塩鮭のことすき焼きって言うんざますか、オホホホ」などとクネクネしながらおどけるのが楽しくて、なんだか中野は「ゲイタウン」のおもむき。とはいえ、新宿二丁目などの“夜だけの街”とは異なり、昼間からの生活感があふれていました。活動でも区民グループとして公共施設の団体利用登録をし、集会や会議によく利用しました。

 そのうち私たちの話を聞いてくれる区議会議員などと知り合い(当時は珍しい)、集会に来てもらったり、こちらも選挙を手伝ったり。ゲイ/性的マイノリティーも地域の行政へ働きかけることが大事だ、という視点をもったのも、そのころからでした。

 じつは中野区には、ほかにも区内に事務所を置くレズビアンの団体があったり(現在では、私たちが運営するNPOパープル・ハンズもあります)、なぜか性的マイノリティーに縁が深い区の気がします。

 もちろん、中野区として(当時もいまも)性的マイノリティーについて、ことさら何かをしているわけではありません。ただ、新宿に近くて単身世帯が多く、まだ比較的安いアパートが残っているため、若いわれわれにも住みやすかったのでしょう。また、気のせいかもしれませんが、教育委員準公選に象徴される住民自治意識の高い区という歴史的背景も影響したかもしれません。

 しかし、ゲイ/性的マイノリティーの生活者としてこの町に仲間とともに住み、区の施設を使い、区の広報紙に目を通し、議員や行政ともかかわっていくことが、私自身の性的マイノリティーとして生きるということのイメージを形作っていったことは確かです。

「中野にじねっと」の活動

 後年そのサークルを離れたいまも、私は中野区に住み続けています。区内に住む友人・知人も少なくありません。そんな仲間のあいだで昨年来の“LGBTブーム”のなか、自分たちの町は自分たちで変えていかなくちゃ、という機運が高まり、「 中野LGBTネットワークにじいろ(中野にじねっと) 」という個人の有志団体が立ち上がりました。ゲイ、レズビアン、トランスジェンダーなど、セクシュアリティーも多様、年齢も多様なグループです。性的マイノリティーの住民グループができるのが、中野区っぽいといえます。

 昨秋は手始めに、区に共催をもちかけてシンポジウム「すべての人々が暮らしやすい中野区をめざして」を開催。ちょうど他区での同性パートナーシップ公認の動きが重なり、関心が高く、150名もの参加がありました。

 質疑応答で区長は、パートナーシップ証明については「考えていない」と回答。「にじねっと」として同性パートナーシップ制度を求めているわけではありませんが、自治体による公認は象徴的な意味を帯びてとらえられているだけに、言下に否定されたのは残念でした。ただ、私たちも後援名義ではなく、区と共催ができたのは成果だと思います。他紙ですが、当日の模様は こちら もご参照ください。

 また、中野区では現在、「新しい中野をつくる10か年計画(第3次)」を策定しており、先日発表の「素案」には、「LGBT」という言葉もはじめて盛り込まれていました。私たちはこの計画をさらに充実させるために、区民説明会へ出かけて質問したり、パブリックコメントへの応募を呼びかけ、そのための当事者対象ワークショップを先日開催しました。新しい区内在住者も参加してくれ、ご近所さんの輪が広がりました。

 中野区議会にはゲイであることを公表している議員もおり、彼も「にじねっと」のメンバーです。しかし、議員は全体の代表者であり、彼一人に頼るのではなく、彼を窓口に情報やアドバイスを得ながら、一人ひとりのメンバーが、ときに顔や名前も出しながら、ゆっくり活動しています。だれかヒーローに頼るのではなく、自分たちの町は自分たちでつくる住民自治の精神は、性的マイノリティーにとっても変わりません。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

中野区にはインテリが多い

カイカタ

中野区選出の国会議員さんに話しを聞きましたが、中野区は比較的インテリが多い町だそうです。そういうことも原因しているかもしれません。

中野区選出の国会議員さんに話しを聞きましたが、中野区は比較的インテリが多い町だそうです。そういうことも原因しているかもしれません。

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