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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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治療と野球の類似点…「エビデンス」がキーワード

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 プロ野球、始まりましたね。僕は数年ぶりに東京ドームに巨人戦を見に行きました。開幕数日前に東京ドームのホームページを偶然に見ていたら、そしてチケット購入方法のボタンをクリックしていくと、なんと席が空いていたのです。おもわず衝動買いをしてしまいました。久しぶりの東京ドームの巨人戦、相当楽しみましたよ。

 野球を見ていて思ったことは、医学の臨床研究と野球の試合の類似点についてです。最近、「エビデンス」という言葉を時々耳にします。「その治療、その薬が本当に有効というエビデンスがあるのか」といった文脈で使用されます。つまり、その治療、その薬のあるなしで本当に結果が違うのかといった意味です。例えば、がんでエビデンスがある治療は、外科手術、化学療法、放射線療法が3本柱です。その治療が本当に有効かを調べるには、まったく同じ群を2つ作って、そして片方には有効かを調べたい治療や薬物を加え、その治療や薬物を使用しないグループをもう片方にします。そしてその2つの群で明らかに差があれば、その治療や薬物が有効だというエビデンスがあると結論づけられます。

その選手、本当に必要か

 野球で例えれば、ある選手が本当に必要かを調べるようなものです。ある選手が出場した試合と、出場していない試合を比べます。そしてその他のメンバーは同じにするのです。そして勝率に差が出れば、その選手は本当に大切な選手だと判明するということです。プロ野球にもたくさんのスーパースターがいますね。そんな選手が本当に必要かということです。たくさんの勝ち星を挙げる投手、また高打率、高得点、たくさんのホームランを打つ選手、また送りバントや盗塁が 上手(うま) い選手などなど統計的には優れている選手を見つけるのは、ある意味簡単です。たくさんの統計が用意されていますから。しかし、本当にその選手がいないと、試合に勝てないのかは、実は不明なのです。だって、主力が抜けても、それほど問題なく以前と同じような勝率で勝ち進むチームもあれば、また誰かが抜けたとたんに負けはじめることもあります。勝ち星をたくさん挙げている投手の時にはいつも打線が爆発していればその投手でなくても勝てるでしょう。得点に無関係な安打をいくら稼いでも高打率にはなりますが、勝ちゲームに貢献はしていないかもしれません。

スーパースターだけでは、試合に勝てない

 エビデンスがある治療とは、その治療のあるなしで結果に統計的な差があるものです。イメージ的には全盛期の長嶋、王、イチロー、松井などのスーパースターが思い浮かびます。でも彼らだけで試合は勝てません。チーム全員の総力戦が野球です。また、選手以外にもいろいろなサポートをしてくれる陰の功労者もたくさん必要でしょう。そんな個人個人の総和、つまり総力戦と、そして指揮官と、そして最後は運で、勝敗は決まるのだろうと思っています。医療も同じですよ。エビデンスがある治療は、がんでは外科手術、化学療法、放射線療法です。でもそれらだけでは不十分かもしれません。つまりエビデンスがでないような治療、なんとなくいいのではと思われる治療の積み重ねも一方で大切なのです。がんであれば、食事、運動、体温管理、ストレス管理、禁煙、減酒、希望などなどいろいろと注意すべきことがあるのです。エビデンスがある治療だけをして、そしてがんに勝とうというのはスーパースターだけを (そろ) えて野球の試合に勝とうという考え方に似ています。もちろんスーパースターは必要です。しかし、スーパースターほど明らかな実力は認められないが、でもそれなりに役割を演じきっている選手も実は大切なのです。だからこそ、がんであれば、良さそうなことをいろいろと試して、そしてその治療の総和としてがんに打ち勝つ、またはがんと一緒に生き抜く可能性が増えてきます。

 ガイドラインにはスーパースターが並んでいます。ガイドラインだけに頼っていると、手術も終了した、放射線治療も使用できる限界まで行った、そして抗がん剤も効かなくなってきた、そんな時に打つ手がなくなるのです。そしてガイドラインで行うことがなくなると、「では緩和医療に相談してみてください」といった流れになります。そんなときにもいろいろな治療の引き出しをもっている医師は頼りになりますね。僕の外来にも、そんな方が全国からたくさん訪れます。ある意味サポート外来です。スーパースターを並べる治療はどこもやっているでしょう。そんな治療と併存しながら、またそんな治療が終わってやることがない時に、ある意味エビデンスが明らかではない、でも経験的に有効であることを、つまり 些細(ささい) とおもわれることを積み重ねることで、長生きする人は結構います。今日は久しぶりに野球観戦をして思った医療のお話でした。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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