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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

医療の質を下げずに国民医療費を削減する「妙薬」とは?

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 40兆円を超えた国民医療費ですが、欧米先進国に比しても圧倒的な高齢化社会になっている日本では想定内のことで、このうち国庫負担は10兆円あまりです。

 日本の数倍の規模とされる米国の国家予算では、その大半が医療費を含めた社会福祉費で占められていることを考えると、日本は福祉極小国といわれても仕方のないところです。

 1990年ごろまでに日本は非福祉国家を選択したという見方がありますが、有権者たる私には、選挙や国会でそのような議論があった記憶はありません(拙著「三流になった日本の医療」=PHP研究所=参照)。

 福祉極小国なのに、福祉国家たる欧米諸国に倣って、医療費削減の声が高く上がっているのは、日本人が我慢強いせいでしょうか。

 ここでぜひ、実感でとらえた時、自分が受けている医療に高い満足度があり、国民として日本の医療体制は十分だと感じられるのか考えてみてください。

 長い待ち時間、不十分な説明で、質問したくてもとても聞ける雰囲気ではない、出産や救急も地域格差なく応じられている状態とはいえないという状況は、患者のニーズを満たしているのでしょうか。

 もし、これを満たすだけの、施設、人材、時間を用意しようとすれば、現在の日本の医療費では全然足りず、相当な受益者負担を覚悟しなければならないのです。

 私はここで、全く違う妙薬を持ち込みたいのです。

 後遺症や進行性の視覚障害を持つ人で、「どういう生き方をすればよいのか」「将来どうなってゆくのか」が心配で受診する人は大勢います。前回も触れた通り、そういう、もはや純医学的な治療手段がない症例は、私の外来にも3割前後おります。

しかし、各医療機関は診断、治療以外に、患者の不安に対応するための時間を割いたり、人材を養成したりするゆとりはありません。

 そうした背景から、我々はNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、会員(有料)になっていただいた方々の相談に乗ることにしました。

 相談室では、面談や電話で、目に関連する心身の不調や日常生活上の不都合にどう向き合ったらよいか、専門の看護師や医師と一緒に考える取り組みをしています。

 このような医療の下支えはおそらくどの診療科でも必要で、国や、自治体も参加してこうしたシステムを構築すれば、過剰な通院や、投薬は大幅に減るでしょう。

医療費は大幅に削減できますから、そのほんの一部をこのシステムの充実に使えば、国民が自身の健康を医療に依存するのでなく、自立的に管理することを支援する新しい構想の福祉政策が実現することになるでしょう。 

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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