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卵子凍結、晩婚化を反映…全国23施設で実施

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卵子凍結、晩婚化を反映…全国23施設で実施

 健康な女性を対象に、将来の出産に備えた卵子凍結を行う医療機関が増えている。

 読売新聞の調査で、全国に少なくとも23施設あり、40歳代の女性3人が凍結卵子を使って出産していたことがわかった。出産にいたる確率は高くないが、子どもを望む女性の期待もある。こうした現状を、社会はどう受け止めるべきなのか。

  ■わずかな希望

 「40歳を目前にして、慌てて卵子凍結をしました」

 こう話すのは大阪府の会社員女性(41)。30歳代半ばを過ぎた頃から、将来のことを考えて妊娠や出産について調べ始めた。30歳代後半には出産できる確率が急速に下がることを知った。女性は「40歳ぐらいまでなら、まだ普通に産めると思っていたので 愕然がくぜん としました」と振り返る。

 2014年7月、大阪市の不妊治療クリニック「オーク住吉産婦人科」で卵子を凍結した。すでに卵巣機能の低下も起きており、初回の採卵で卵子は3個しか採れなかった。その後4回採卵し、今は計12個の卵子を凍結保存している。費用は約150万円かかった。

 現在は婚活中だが、相手は見つかっていない。「仕事が忙しく、結婚を先延ばししてしまった。出産年齢の限界を早く知っておけば良かった」と悔やむ。

 このクリニックは10年から、健康な女性が将来の出産に備えて行う卵子凍結を行っている。先月末までに254人が卵子凍結を行った。15人が解凍してパートナーの精子を使って受精卵を作り、最終的に9人が子宮に移植したが、出産したのは昨春、44歳で産んだ女性だけだ。同クリニックの船曳美也子医師は「出産できる確率は低いが、何もしなければ自分の卵子で子どもは産めなくなる。卵子凍結をすればわずかでも希望を残せる」と強調する。

  ■支援の動き

 晩婚化を背景に、卵子の凍結を希望する女性は今後も増える可能性があり、支援の動きも出ている。

 千葉県浦安市と順天堂大浦安病院(同市)は、市内の20~34歳の女性を対象に、卵子凍結が少子化対策に有効かどうかを調べる研究を行っている。市は研究に年間3000万円を補助。卵子を凍結する女性の費用負担は通常より抑えられる。

 同病院の菊地 いわほ リプロダクションセンター長は「産みたい女性に対する社会的支援の遅れが高齢出産を招いている。若い時の卵子凍結は選択肢としてあっても良いと思う」と話す。

 女性社員の活用に力を入れるPR会社のサニーサイドアップ(東京都渋谷区)も昨年7月、卵子凍結を「積極的には勧めないが、女性が安心して働くための選択肢」として、勤続3年以上の女性社員を対象に凍結費用を一部補助する制度を導入した。希望者には契約する専門医も紹介する。

「女性を支える社会に」…体外受精出産率 40歳で8%

 卵子は加齢とともに質が低下し、不妊の原因になる。日本産科婦人科学会によると、体外受精1回当たりの出産率は35歳で17.2%。40歳は8.3%、45歳以上では1%に満たなくなる。

 凍結すれば卵子の老化は止まるが、卵子の質には差があり、全てで移植できる受精卵を作れるとは限らない。加えて卵子凍結する人の大半が35歳以上で、出産の確率はさらに低くなる。

 実施施設にもジレンマがある。「かえって晩婚化や少子化を助長させないか。積極的には行っていない」と話す院長もいる。

 生殖医療に詳しい静岡大の白井千晶准教授(社会学)は「採卵で卵巣が傷ついても、凍結した卵子で出産できなくても自己責任にされる一方、医療機関は本人の求めに応じただけと言えば済み、利益にもなる現状は問題」と指摘する。

 子どもを望む思いは尊重されるべきだが、高齢出産のリスクや子育てにかかる年月を考えれば、やはり、医学的に適切な時期に出産することが望ましい。

 不妊治療の支援団体「NPO法人 Fineファイン 」の松本亜樹子理事長は「仕事に追われて、結婚相手を探す時間や気力がない人も多い。子育てをしながらキャリアアップできる社会でなければ、女性は結婚や出産に前向きになれない。女性を社会全体で支える仕組み作りが重要だ」と話す。

 結果的に結婚や出産がかなわないこともあるが、白井准教授は「地域や親族の子育てへの参加、養子、里親など、育児の喜びを得られる方法はいろいろあることを知ってほしい」と話している。

出産例 40代の3人

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 読売新聞は昨年10月、高度な不妊治療を行う施設として日本産科婦人科学会に登録する597施設にアンケートを送付。304施設が回答し、23施設が健康な女性の卵子凍結の実施人数などを明らかにした。

 採卵時の年齢は24歳から49歳。大半は35歳以降で、40歳以上が全体の約4割を占めた。出産例は、オーク住吉産婦人科(大阪市)の1例と、セントマザー産婦人科医院(北九州市)の2例の計3例のみ。日本生殖医学会が指針を作った2013年以降に開始した施設が多かった。

  <卵子凍結>  卵巣内に針を刺し、体外に取り出した卵子(直径0.1ミリ程度)を凍結保存すること。従来、受精卵に比べて卵子の凍結保存は難しかったが、技術の進歩でほとんど傷つけずに凍結や解凍ができるようになった。

 (医療部・利根川昌紀)

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