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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

医療・福祉の抑制、このまま許していいのか?

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 ここまで視覚障害者が受けるべき、医療や福祉の中で、どうも不合理な点があることを指摘してきました。

 そこに、誰が作り出したのか、日本は高齢化社会となり、医療費も福祉費も膨大になってきたから何とか抑制しなければという空気が 蔓延(まんえん) してきました。

 国民はこの空気を是認してよいのでしょうか。

 国際比較は、医療と福祉を合算した社会福祉費(社会保障給付)の形でしばしば行われます。国民がその一生を健康的で幸福感のある生活を送ることを、国が保障するための共通目的費用だからです。

 OECD(経済協力開発機構)が発表している社会保障給付費の2011年現在の国際比較では、日本はGDP(国内総生産)比23.7%と34か国の中で中位にいます。しかし、国際的に見ても群を抜いた高齢化社会の日本としては、軒並み25%以上を示している欧州諸国に比べて低い数値と言わざるを得ません。

 日本は戦後、医療、福祉、年金を一体化して長期計画で制度設計してきたとはいえず、その時々に運用基準を変えたり、追加したりと、いわば応急処置を繰り返してきました。

 そうしてできた現状制度を、我々国民が評価する時、国や政府の発表や、報道機関の論評をよりどころにするだけでは不足です。

 何よりも、自分たちが現実に受けている医療や、福祉サービスに満足できるのかどうかという実感こそ信頼できます。

 そして、そのサービスの代価として、自分自身はどこまで負担する気構え、準備があるのかも同時に考えたいものです。

 私の経験上、眼科を訪れる患者さんの約3割は、純医学的には通院を要しない方々といえます。たとえば、何か心配な目や視覚の症状がある、過去に自分や家族が眼の病気をしているので不安だという人たちです。診察上、治療すべき病気はないのですが、通院することを希望します。

 人間は自分の体や症状に不安や、怖れを持つ生き物で、定期的に医師の診察を受けることで一時的にでも安心を手に入れたいという欲求があるのは当然ですから、それは理解できます。

 事実、街の家庭医の多くは、健康不安を取り除くためにこの重要な役割を果たしており、医療が単に診断治療だけに限られたものでないことを教えています。

 ここに費やされる医療費も時間も 莫大(ばくだい) なものですが、それを無駄だと切り捨てることには医師も患者も同意しないでしょう。とすれば、医療費が今後も膨らむことを織り込んだ政策が求められます。

 ただし、ここでもし制度設計を見直し、抜本的改革をすれば、医療費も大幅に削減できる魔法はないのでしょうか。

 その提案は、次回以降にお話しすることにしましょう。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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