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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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人工知能が医療進出…医師の仕事、なくなる?

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 今日は、人工知能(AI)についてのお話です。人工知能が将棋やチェスで人間に完勝し、そして先日、囲碁の世界でも世界的な名人に4勝1敗という圧倒的な成績を収めました。すごいですね。そしてなんと小説の世界にも人工知能が登場です。 記事 によると、人工知能が人間と共同執筆した作品が国内文学賞の1次審査を通過したそうです。これからますます、人工知能は僕たちの生活に入り込んでくるのでしょう。医療にも当然、人工知能の応用が期待されています。人工知能を導入した方が、診断や治療の精度がはるかに上がり、そして誤診が減るのではと思っています。医療の分野でも今回の小説と同じように、医療をつかさどる人間の感性とコンピューターが得意とするすべてのデータを網羅して結論を出す機能の組み合わせがベストだろうと思っています。

人工知能の導入には大賛成

 先日、財界の有力者や学者に「医療と漢方」のお話しをする機会に恵まれました。そして質疑の時に、元国立大学の総長の先生から医療の分野での人工知能の展望を聞かれ、僕は「相当期待できるし、利用すべきである」と答えました。そして、その先生からは「医者の仕事の多くはなくなると思う」という未来像を教えていただきました。確かにそうですね。医療の多くはガイドライン化されています。そんなデータを人工知能に入れて、そして、そんなガイドラインの基盤になっている臨床研究を逐一拾い上げて、いろいろな症例報告などもすべて入力すれば、本当に素晴らしいシステムができそうです。そして、人工知能が導き出した診断や治療方針を基に、医療サイドの「人間様」の経験を加味して、医療に当たれば、そんな素晴らしいことはないように思えます。僕は人工知能の導入には大賛成なのです。そんな時代が来ると、ガイドライン通りに治療している医師は不要になりますね。ガイドラインを作成するような少数の医師がいれば、あとはロボットでも同等の治療が可能になります。しかし、やっぱり人工知能ではまだまだと思うことも多々ありますよ。とくに僕の外来のように、いままでの治療で治らない人々、ガイドライン通りに治療しても良くならない患者さん、そしてガイドラインに当てはまらない患者さんを、たくさん診るようになると、やはり医師の経験と直感が必要になると思います。

デジタル化できない疾患も…

 僕は、病気や疾患にはデジタル的なものとアナログ的なものがあると思っています。デジタル的疾患とは数字で考えられる疾患で、高血圧や糖尿病、脂質代謝異常などが典型的です。一方で、アナログ的疾患とは、デジタル化できないもので、うつ病や統合失調症などの心の病が当てはまります。また疲れや更年期障害、自律神経失調症、痛み、しびれ、めまい、下痢、食欲不振、意欲の低下、異常な興奮などもなかなか数値化できないのでアナログ的な疾患です。人工知能は、まずデジタル的疾患で本領を発揮すると思っています。コンピューター化しやすい疾患だからです。一方でアナログ的疾患では、そのアナログ感をコンピューター化する必要があります。簡単に言うと、本人から受けるオーラ、気概、やる気、ふさぎ込んだイメージ、動きの遅さ、言葉のボツボツ感、そして体から出るにおい、などなどはなかなか数値化できません。臨床経験が積まれると、実はそんな数値化できないことを迅速に判断して、そしてある意味直感で診療を進めていきます。

「先生に診てもらって治った」と言われるように…

 そんなデジタル感とアナログ感の混在が実臨床です。ですから、まず人工知能にはデジタル的世界で本領を発揮してもらって、そして人工知能から得られる情報を参考に最終決定を医療サイドの人間が行うシステムがベストと思っています。医療に必要なもののひとつは、フェイルセイフの概念です。フェイルセイルとは、なんらかの装置・システムにおいて、誤操作・誤動作による障害が発生した場合、常に安全側に制御することです。つまり、誤診や誤った治療をくい止める複数のシステムが稼働していることが医療安全に (つな) がります。まずそのフェイルセイフのシステムのひとつに人工知能が応用されることを願っています。そして、技術はどんどんと進歩するでしょうから、いずれアナログ的な世界にも人工知能が応用できるようになり、そしてますます、医療の分野での人工知能の活躍が期待されます。でも、どんなに進歩しても、同じ治療や同じ投薬を受けるにしても、ロボットに投薬されるよりも、「先生に診てもらって、そして先生に出してもらった薬で治りました」と言われるような医者でありたいと思ってしまいます。人工知能にそう簡単に席を譲るつもりはありませんよ。こちらもしっかりと精進しますから。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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