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原隆也記者のてんかん記

闘病記

世界てんかんの日記念イベント講演要旨(下)社会の認識を変えるには

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自分がてんかんの患者であることを公表

 東京・池袋の事故を受けまして、ヨミドクターに単発のコラム 「てんかん患者と自動車運転」 を掲載しました。内容は、てんかんの患者の事故に対する事故への厳罰化よりも先に、患者への医療体制を強化すべきだったという内容で、実は以前、国立精神・神経医療研究センターの先生からうかがった話の受け売りだったのですが、これに対して寄せられた意見には、「罰則の強化は当然だ」というものが散見されました。「てんかん=危険」というイメージが定着してしまっていることを実感しました。

 また、ネットでの匿名によるバッシングにおびえるより、自ら患者であることを公表して服薬と正しい生活リズムを心がけることで発作を抑え、通常の社会生活を送れることを発信する必要性を痛感しました。

 そのきっかけとなった事柄が、もう一つあります。昨年の夏に来日されたカナダ人の女子高校生との出会いです。このキャシディー・メーガンさんは複雑部分発作の患者さんで、わずか9歳で、てんかんの患者であることを公表し、啓発活動を始めました。「世界てんかんの日」とは別に、3月26日にてんかんのシンボルカラーである紫色の物を身に着けよう、ということで「パープルデー」となっています。

 彼女との出会いは実に衝撃的でした。当然、周囲の大人のサポートがあったのでしょうが、日本であれば、小学校3年生の子が「私はてんかん患者です」と公表して、病気に理解を求める活動を始めるということは考えられないのではないでしょうか。

 彼女を紹介した 記事 で、2点注目していただきたいことがあります。1点目は、キャシディーさんが家族に病気のことを口止めした (くだり) です。本人の主体性や自主性を重んじるお国柄というか文化の違いでしょうか、日本では口止めを求めるのは患者より家族の方です。

 もう1点は、地元のてんかん協会が学校で開いた講演会です。この講演会は、キャシディーさんの母親がほかの生徒たちにてんかんについて理解してもらいたい、とお願いして開かれたものです。これも、なかなかできることではないと思います。

 このキャシディーさんとの出会いもあり、大人の自分が、しかも新聞記者という発信手段を持つ人間が黙ったままというのも恥ずかしいという思いがしました。そこで、配布資料の最初のページにある 連載 を始めました。

 ここまで偉そうなことを口にしていますが、私は妻に病気のことを隠していました。妻とはてんかんの診断を受けた後に知り合い、結婚しました。てんかんのことを明かしたのは、結婚後でした。自分から明かしたというよりばれたのですが。どうやってばれたかと言いますと、免許の更新で、警察本部の免許課に医師の診断書を送って更新OKの文書が届いたのですが、それを開封していた際に見られたためです。てんかんのことを黙っていた自分も悪いのですが、人の手紙をのぞき見たことも褒められたものではないので、自分の中でおあいこにしています。妻はどう思っているかわかりませんが、それから2年がたつので、あまり気にしていないだろうと期待しています。

 実はここも大事なところで、私は最初の発作が職場で、2回目の発作も病院から会社に連絡が行きました。会社には隠しようがなく、3か月に1回の主治医の診察後に会社の産業医と面談して診察結果を報告し、その内容を上司に報告しています。家族には報告しました。親しい友人にも話したのですが、中には、母が高齢出産だったことを指摘したり、妻との交際にあたって、「これから生まれる子どもに遺伝しないのか」、というようなことを言った人もいました。先日、お会いした患者さんも「誰にどこまで説明していいものかわからない」と悩んでいました。そのとき軽々しく、理解してもらえるよう説明した方がいいとは言えませんでした。

 

患者が病気をオープンにできる社会へ

 そこで、まずは社会に広く理解を深めてもらうことが第一歩だと考えます。

 松本ハウスというお笑いコンビのハウス加賀谷さんは、ご存じの方もおられるかもしれませんが、統合失調症であることを3年前に著書で公表されました。以後、仕事で病気のことをネタにしつつ、病気について講演も行っています。大変勇気のいることだったと思います。

 私の会社の中には、健康診断の後に、様々な数値が悪いことを自慢げに話す人もいます。なぜこういうことを恥ずかしげもなく言えて、てんかんと言うのははばかられるのでしょうか。こういう数値が悪いのは多くは不摂生が原因で、よっぽど恥ずかしいはずです。

てんかんは誰も好きでなったわけでもありません。私はいつか、てんかんの患者さんが「疲れがたまったり、睡眠不足になると発作が起きてしまうけど、服薬や生活リズムを維持することで抑えられるんですよ」と気軽に話せるような社会になってほしいと願っています。

 そのためには、社会の認識を変化させるために、異論があるかもしれませんが、加賀谷さんのように、多くの人に共感を呼んでもらえるような有名人の方にカミングアウトしてもらい、そこから広がって患者が声を上げていくようになればと思っています。

 

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原隆也記者のてんかん記_201511_120px

原隆也(はら・りゅうや)
1974年、長野県出身。南アルプスと中央アルプスに囲まれた自然豊かな環境で育つ。1998年、読売新聞入社。千葉、金沢、横浜支局などを経て2014年9月から医療部。臓器移植や感染症、生活習慣病などを担当している。趣味は水泳、シュノーケリング。

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