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知って安心!今村先生の感染症塾

コラム

ジカ熱の流行…「緊急事態」だからこそ冷静に

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 「ジカ熱」が、中南米を中心に大きな流行となっています。
 ジカ熱は、蚊が媒介するウイルス感染症です。
 妊婦の感染による「 小頭症 」との関連も指摘されています。
 そして2月1日には、世界保健機関(WHO)から「緊急事態」の宣言も出されました。

 この流行が重大な出来事であることは間違いありません。
 しかし「緊急事態」宣言とともに、報道が過熱してきたことも事実。

 この感染症の何が問題なのか?
 「水際作戦」は本当に有効なのか?
 今できる対応はあるのか?

 「緊急事態」だからこそ、冷静に考えてみることにしましょう。

ジカ熱の「緊急事態」を宣言

  ジカ熱は、今後もさらに中南米を中心に流行拡大することが予想され、感染者は最大で400万人にも達する恐れがあると警告されています。ジカ熱を発症しても、多くの人は軽症で済みます。しかし、 妊婦が感染すると「小頭症」の子どもが生まれる可能性があることが指摘されています。WHOはこのことも考慮に入れて、今回の流行を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であると宣言しました。

 ジカ熱、WHOが緊急事態を宣言…「世界的な脅威」
  http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=129852

ジカ熱って、どうやって感染するの?

  ジカ熱は、蚊によって媒介されてうつる感染症です。この原因となるウイルスが、ウガンダにあるジカ・フォレスト(森林)のサルから初めて発見されたため、ジカウイルスと名づけられました。そして、このウイルスが人にうつって起こる感染症を「ジカ熱」と呼んでいます。

 ジカ熱を媒介する蚊は、ネッタイシマカとヒトスジシマカです。代々木公園を中心に国内発生を起こして話題になった「デング熱」も、同じようにネッタイシマカとヒトスジシマカが媒介するウイルス感染症です。これらの感染症は、ウイルスを保有した蚊に刺されることによって感染し、人から人へと直接には感染しません。

ジカ熱の症状は?

  ジカウイルスに感染してから症状がでるまでの潜伏期間は、米疾病対策センター(CDC)の報告によると2~7日とされています(注:3~12日という記載も多くみられ、正確な期間は明らかにされていません)。 ジカ熱のおもな症状は、発熱、関節痛、筋肉痛、発疹、倦怠感、結膜充血(眼の白い部分が赤くなる)で、同じように蚊が媒介するデング熱と比べても症状は軽い傾向があります。そして、ジカ熱を発症しても、通常は2~7日で自然軽快します。

症状が出ないことも多い

  ジカ熱は、ウイルスに感染しても症状がでないことも多くあり、感染して発症するのは5人に1人くらいだといわれています(※)。つまり、蚊に刺されてウイルスに感染したとしても、その約8割は症状がでないということになります。また、ごく軽い症状ですむことも多いため、本人さえも気づかない場合もあります。このように、「ジカ熱の多くは無症状か軽症」であり、全体でみれば健康的に大きな問題となることは少ない、ということを知っておきましょう。

 (※)このように感染しても症状がでないことを「不顕性感染」と呼んでいます。米国CDCホームページでも、発症するのは5人に1人であるとの記載があります。
  http://www.cdc.gov/zika/

ジカ熱と小頭症の関係

 このように、一般的には軽症の感染症とされるジカ熱ですが、妊婦が感染した場合には「小頭症」の赤ちゃんが生まれる可能性があることが指摘され問題となっています。小頭症では、頭の大きさや脳が小さく生まれ、知能の発達障害をともなったりします。

 ブラジル保健省は、ジカ熱が大流行している2015 年10 月から 16年11 月までの間に 、例年を大きく超える3500例以上の「小頭症」患者が発生していると報告しました。そして、その一部の母親や赤ちゃんからジカウイルスが証明されていることで、ジカ熱と「小頭症」との関連が疑われているのです。この関連についてはまだ明確には証明されておらず、現在も調査が続けられている状況です。しかし、これまでの報告と流行状況を考慮して、日本を含めた各国からも「妊娠している女性は流行地への渡航を控えるように」という注意喚起がだされています。

 また、この流行の中で「ギラン・バレー症候群」という、手足などの麻痺を起こす神経疾患の増加についても報告されており、この神経症状の合併についても調査が行われています(ジカ熱の全体の発症数からみると、関連があったとしても、比較的稀な合併症だと予想されます)。

ジカ熱の治療薬やワクチンは?

 ジカウイルスを直接治療する薬はありません。また、今のところ予防するワクチンもありません。しかし、一般的には軽症で自然軽快するため、特別な治療は必要としません。発症しても、発熱に対して解熱剤を使うなど、症状に対する治療によって経過をみることになります。

ジカ熱の検査は?

 通常の病院やクリニックで行えるような、ジカ熱の簡易検査はありません。今後は、都道府県にある衛生研究所などの一部の検査機関でのみ、検査の対応が行われることになります。診断にはウイルスの遺伝子を検査するという特殊な検査を必要とするため、症状のない人にまで検査を行うこともありません。あくまでも、一定の定義を満たした対象者のみに、ジカ熱の検査が行われることになっています。

日本での流行は?

 日本におけるジカ熱の流行については、同じように蚊が媒介する「デング熱」を参考にするとよいでしょう。どちらも、ネッタイシマカとヒトスジシマカがウイルスを運びます。日本の多くの地域では、ヒトスジシマカが常在しています。したがって、代々木公園を中心として「デング熱」が国内発生したように、ジカ熱も国内で流行する可能性は否定できません。

 また、昨年は国内発生がなくニュースにもならなかったデング熱も、流行地への渡航帰りにデング熱を発症した人は多く報告されています。このように、仮に国内での流行は起こらなくても、流行地へ旅行して帰国した日本人や、流行地から日本へやってきた外国人が、国内でジカ熱を発症するという例は、今後増えてくる可能性があります。

「緊急事態」だからこそ冷静に考えよう

 ここで、ジカ熱のポイントを冷静にまとめてみましょう。

=============================
 ・ウイルスに感染しても発症しないことが多い。
 ・発症しても軽症ですむことがほとんどである。
 ・全ての人に検査することはできない。
 ・診断しても特別な治療はない。
 ・「小頭症」との関連が疑われている。
=============================

 発症していない人や、ごく軽症の人も多いことから、「水際作戦」というのが適した感染症ではありません。潜伏期間もあるので、入り口で監視していても、感染した人は国内に入ってくるでしょう。また、現状では全員に検査することはできませんし、そもそも本人さえも感染に気づかないこともあります。そして、診断しても特別な治療薬があるわけでもありません。こうして考えると、今できることは限られていることがわかります。

ジカ熱に対して今私たちができること

  ★流行地では蚊に刺されないように気をつける。
 具体的な方法についてはこちらのページをごらんください
 「渡航時におけるジカ熱への注意について」FORTH
  http://www.forth.go.jp/news/2016/01261317.html

  ★国内での除蚊対策を行っておく。
 (デング熱で行われた対応と同じです)

  ★妊婦および妊娠の可能性がある女性は、流行地への渡航を避ける。
 風疹、梅毒、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、トキソプラズマなど、妊娠している時に感染することで、生まれた赤ちゃんに影響を与える可能性がある感染症は、他にも多くあります。国内においても、避けられるリスクは避けるように、情報を知っておくことが大切です。
 「トーチの会ホームページ」
  http://toxo-cmv.org/index.html

ジカ熱の流行…「緊急事態」だからこそ冷静に

 

 

 

 

 ジカ熱の流行地図(CDCホームページより)
  http://www.cdc.gov/zika/geo/index.html

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知って安心!今村先生の感染症塾_201511_120px

今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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