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[iPSの10年]医療を変える(3)難病再現で進む創薬研究

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透明性高めて産学連携も

 

[iPSの10年]医療を変える(3)難病再現で進む創薬研究

 「iPS細胞(人工多能性幹細胞)を……使って……将来……この病気で……苦しむ人を……なくして……ほしい」。昨年12月下旬、東海地方の喫茶店で車いすの60歳代男性が涙を流しながら、とぎれとぎれに言葉をつないだ。

 男性は、全身の筋肉が衰え、歩行や会話が困難になる「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」に、手足が震える「パーキンソン症候群」と記憶力や意欲が低下する「認知症」が併発する難病「紀伊ALS/PDC」を約10年前に発症した。

 三つの病気が重なるこの難病の患者数は、国内で約100人と推定され、和歌山、三重県の紀伊半島南部に集中している。男性もこの地で生まれ育った。

 男性の主治医で、三重大 招聘しょうへい 教授の小久保康昌(51)(神経内科医)によると、原因は遺伝のほか、細胞を傷つける活性酸素の過剰蓄積、ミネラル欠乏など諸説があるが、よくわかっていない。小久保は「患者、家族の苦悩は重い。iPS細胞を使って、治療薬の開発を急ぎたい」と話す。

  ■ALS治療に光

 iPS細胞は様々な病気の治療薬開発を目指す「創薬研究」の可能性を大きく広げた。患者の血液からiPS細胞を作り、神経や筋肉などの細胞に変化させる。そこから病気の特徴を再現した細胞を作る。病気の原因を探るとともに、その細胞に薬の候補物質を加えていき、効果を確認する。

 男性を含め、紀伊ALS/PDCの患者計6人から血液の提供を受けた小久保は2013年から、慶応大教授の岡野栄之(57)と共同で創薬研究を進める。

 慶応大では、三重県出身の研究員、森本悟(30)(神経内科医)が担当する。森本は三重大医学部で小久保らの教えを受けた。すでに6人分のiPS細胞の作製に成功。脳の神経細胞に変化させると、一部で有害なたんぱく質の蓄積など病気の特徴が再現できた。

 森本は「iPS細胞のおかげで一筋の光が見えた。患者と家族の思いに応えたい」と意欲を語る。

  ■厳格ルール設定

 企業を巻き込んだ動きも活発だ。山中伸弥(53)が所長を務める京都大iPS細胞研究所は15年4月から、武田薬品工業と組んで、iPS細胞を使った共同研究を始めた。

 武田側が10年間で約320億円を支出。武田の湘南研究所(神奈川県)を拠点に、双方から計約100人の研究者を集め、京大の研究成果と武田の創薬のノウハウを組み合わせる。

 契約では、企業と大学の共同研究で度々問題になる不正や癒着が起きないよう、厳格なルールを定めたという。「研究開発も大切だが、研究の透明性を確保することも同じくらい大事」と山中は指摘する。(敬称略)

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