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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

yomiDr.記事アーカイブ

第36話 高齢期の性的マイノリティーは何に悩む?

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「子なし・ひとり」の老後、HIVや性別移行の場合も

 性的マイノリティーが抱える問題として、これまでも教育やエイズ、同性パートナーシップにからむ問題(病院面会や生命保険)などを紹介してきました。

 きょうは「性的マイノリティーと高齢期・老後の不安」ということで、総合的に考えてみたいと思います。今夏で50歳になる私も、ゲイの老後がひたひたと足元に打ち寄せ、不安を感じる日々です。

 いったいなにが「不安」か、と考えてみると、まず「子ナシ・ひとり」の老後でしょうか。LGBTというと、世は“同性婚ブーム”と思うかもしれませんが、性的マイノリティー――少なくともゲイの実情は、子育てという長いプロジェクトがない分、短期の出会いと別れを繰り返しながら、気づいたらひとりの高齢期という人が多い気がします。まあ、一般の方も非婚社会で、そのまま高齢おひとりさまは珍しくもないし、たとえふたりでも死別すればシングルですが。

 ただ、若い元気なときはシングルライフを 謳歌(おうか) しても、そのまま高齢期ともなり体も弱ると、他人の手(介護力)の持ち合わせが少ない、このまま死んだら?(孤独死)、一人暮らしで認知症になったらどうしたらいい、などが頭をかすめます。

 その介護の場面では家族/身元引受人を要請されることが多く、親族と疎遠で頼める人がいなかったり、逆に同性パートナーがいても、まだ家族と認められづらく、関われるのか不明。

 あるいは、病室やホームの居室で、同性パートナーと会うことができるのか。本人に意識がない場合、病状や状態についてパートナーが説明を受けたり署名を代行したり、臨終にも立ち会うことができるのかは、「家族主義」が根強い日本の現場では不明なままです。

 ほかにも、ゲイにはHIV陽性者も一定数おり、介護施設や高齢期クリニック、とくに透析クリニックでの拒否は現在、深刻です。HIV陽性者には認知症の発症率が高いことも報告されており、上記の「独居、親族と疎遠」と掛け合わせると、いっそう不安が募ります。

 また、トランスジェンダーには体に処置をしていたり、見かけと書類上の性別が異なるなどの場合があり、医療・看護や介護など、他人に体を見られる場面は気になります。

 一般に性的マイノリティーの留意点として、

 ・うつ病などのメンタル不調、アルコールや薬物等への依存症を抱えている人もいる。

 ・性的マイノリティーに職場の理解や対応が乏しいため正社員に定着できず、非正規や離転職が多かった場合、老後のための資産形成ができず、高齢貧困(老後破産や下流老人)の危険性がある。

 ・シングルで親族がいない場合、亡くなったあとどうなるのか。逆に、パートナーがいる場合、きちんと遺産を引き継げるのか。パートナーと親族間で争いが起こったときどうしたらいいのか。

 などがよく指摘されます。

 以上は、セクシュアリティーにかかわらず、世の「おひとりさま」に共通する問題かもしれませんが、性的マイノリティーの場合、それがネックとなって、行政や福祉に相談したり援助を求めることが難しく、いっそう孤立する場合があるかもしれません。

介護や医療、講演会で伝える

 まだこの連載では深くは取り上げていませんが、私は仲間とともに性的マイノリティーの老後サポートの課題に取り組むNPO法人「 パープル・ハンズ 」を運営しています(法人設立は2013年)。前身となる活動から含めて足掛け7年、勉強会やお茶会、相談活動を通じ、こういう状況をどう迎えるかに、当事者として細々と取り組んでいますが、より多くの人と課題を共有し、今後のネットワークの始まりとするために、このたび次のような講演会を開催することになりました。

 

   介護や医療、福祉関係者のための

   高齢期の性的マイノリティ 課題を知るつどい

       ~~講演とシンポジウム~~

  と き:3月20日(日)午後2~4時半(開場1時半)

  ところ: 中野区産業振興センター 大会議室(中野駅南口5分)

  後 援:中野区、中野区社会福祉協議会

  入場無料、申し込み不要

 最初に基調講演として、「ゲイの高齢期を生きる~独居、HIV、障害、そして仲間」と題し、ゲイ・63歳・HIV陽性・独居・身体障がい・腎臓透析……などの当事者でもあるAさん(当日は本名でご紹介します)のお話をうかがいます。

 身体障がい(下肢切断)や透析は、体重が3ケタあった若いときからの糖尿病によるものですが、「ガチむち」がモテ筋の一つで、実際そういう 体躯(たいく) を誇る人が多いゲイ業界では、じつは人ごとでないかもしれません(さらに、HIVだと糖尿病が促進する面もあるようです)。

 いろいろ大変な面もありますが、とはいえ同時にゲイコミュニティならではのサポートの輪がAさんの周りに築かれていることも、ぜひ聞いてみてください。

 後半は、Aさんのお話をもとに、ケアマネージャー、看護師、内科医師(パープル・ハンズ代表理事)、そして行政書士でもある私(パープル・ハンズ事務局長)いったメンバーで話し合います。ケアマネさんや看護師、医師は、主として介護や医療といった場への意見をうかがいます。私自身は、一人暮らしや認知症の人を「外づけ家族」として法的立場を得て支える成年後見について問題提起したいと思っています。

 もちろん、フロアからの質問にもいっぱい答えたいと思います。「介護や医療、福祉関係者のための」とうたってはいますが、職種やセクシュアリティー不問で、どなたでもご参加いただけます。

 

新しい冊子もできますよ!

 
20160309-023-OYTEI50039-L また、この講演会にあわせて、パンフレット(A5判、24ページ)を作成しました。

  介護や医療、福祉関係者のための  

  高齢期の性的マイノリティ  

  理解と支援ハンドブック

  ひとり暮らし、同性ふたり暮らし、医療面会、HIV、性別移行

 性的マイノリティーと福祉や医療、介護については、語ればいくらでも話題がある、切りがないテーマです。今回は「高齢期サポート」に絞り、現場でまずは知ってほしい、そして今後に応用のきく情報を整理しました。

 「性の多様性」「高齢期の性的マイノリティー」「トランスジェンダー」「医療面会・医療説明」「HIV感染症」「成年後見制度」の6つのテーマに絞り、上記のAさんの取材記事や昨年の介護者向け研修会の報告などを含む4つのストーリーで補足した、見やすいパンフレットです。ヘルパーさんはじめ、だれでもが読めるよう、わかりやすく書いたつもりです。

 講演会で配布を開始するとともに、ご要望に応じて無料送付するほか、ウェブサイトにもPDFでアップし、ダウンロードしてもらえるようにする予定です(準備ができるまで、しばらくお待ちください)。

 今回のパンフレット作成と講演会の開催には、生活協同組合パルシステム東京の 市民活動助成基金 さまから助成を受けました。パープルとしては、昨年の「区内介護事業者向け性的マイノリティー研修会」につづき、2度目の助成です。ここに記して御礼申し上げます。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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2件 のコメント

一人 身のふり方を考えても

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先生の主催するシンポジュームに出てみようと、予定を変更した。上野で毎月楽しい時間をみつけているけれど、偶然にも店の店長と同棲している人が亡くなって、店長が葬儀を出したのだけれど、骨は兄弟が持って行ってしまい、少し分骨してもらい、それを家の神棚に置いている話があった。

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性的指向や性的自認の違いに関わらず、生涯独り身、面倒をみる人がいない人は増えていくと思います。パートナーを探すよりそんな独り身でも大丈夫なネットワークがあればいいと思います。

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