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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第29話 まぼろしの「LGBT差別禁止法」

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この国会でLGBT差別禁止法ができるのか?

 年が明けて国会が始まりました。課題山積のなか、昨年末に報じられたニュースが気になっています。

 民主党が性的少数者に対する差別解消を目的とした法案(いわゆるLGBT差別禁止法案)の骨子をまとめ、与党にも賛同を呼び掛けて通常国会への共同提出を目指している、とのこと。国や地方自治体、企業で性的指向などを理由とする差別的扱いを禁止し、差別解消に必要な国の指針を策定することを盛り込んでいます。学校での啓発・相談体制の整備も求める、としています(民主党ホームページに 骨子案たたき台が掲載 )。

 一方、年が明けるや、今度は自民党が性的少数者に関する課題を検討するプロジェクトチームを設置。しかも保守派の呼び声も高い稲田朋美議員が中心ということで、こちらも衝撃が走っています。

 LGBTブームの年から今年は政策や立法論議の年となるのか。それともこれは参院選(はたまた衆参同時選?)を前にした、各党のパフォーマンス合戦の具にすぎないのか。当事者の一人としては実のある議論を願うばかりです。

 いささかお古いゲイの身としては、ここで2002年に上程され、継続審議を経て03年10月の衆議院解散により廃案となった「人権擁護法」のことを掘り起こしておきたいと思います。

人権擁護法(案)は性的指向の差別を禁じていた

 日本国憲法第14条はいわゆる法の下の平等を定めた条項として、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」による差別を禁止しています。この憲法が制定された1946年当時は性的指向という概念がなかったので、ここに性的指向の文字はまだ書き込まれていません(96年に制定された南アフリカ共和国憲法が、世界で最初に差別禁止項目に性的指向も列挙した憲法とされています)。

 日本の法律で性的指向を明記したものは現在もありません。しかし、2002年に提案された「人権擁護法」(案)の第2条5項には、

 この法律において「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう。

 とあり、この法案が成立していれば、性的指向による差別を禁じ、救済の対象と明記した法律が14年前にはわが国にあったことになります。

 しかし、この法律は「メディアによる人権侵害」も規制するとしたため、主にメディアに携わる人びとから反対の論陣が張られ、またこの法律で設置される人権救済機関(人権委員会)の位置づけなどをめぐって議論が割れ、結局、廃案に至りました。

 ところで、こうした法律を当時の日本政府が進んで制定することはまずありません。やはり「外圧」によるものでした。

 1993年、国連が人権救済を行う国内機関にかんする「パリ原則」というものを定め、日本政府も人権機関整備のために97年、「人権擁護推進審議会」(人権審)を設置します。

 2000年の秋に発表された、その「中間とりまとめ」には、「性的指向による差別を救済の対象とするかどうか検討する」ということが書かれていました。欧米では性的指向を人権救済の対象とするのは当然のことで、海外視察や資料などで人権審の一行はそれを目にしたはずです。

 人権審はこの中間まとめについてパブリックコメントを募集するとともに、01年1月、東京など4都市で公聴会を開いて公述人を募集したところ、札幌、大阪、福岡の3都市で同性愛者の人権擁護を訴える意見が上がったのです。

【公聴会での意見から】

●堀江有里・花園大学非常勤講師

  同性愛者への差別は学校でのいじめや雇用差別、住居差別など数多く存在するが、人権問題として公的に認知されず救済システムがない。

●鈴木賢・北海道大学教授

  ワイドショー、週刊誌やスポーツ紙などは性的少数者を興味本位に取り上げてもてあそぶ傾向が顕著だ。低俗なマスコミに自主規制は到底期待できない。

(『朝日新聞』2001年2月1日)

 このような反響に驚いた人権審は、2月に法務省で急きょ、同性愛者のNPO団体「動くゲイとレズビアンの会」を招き、ヒアリングを行いました。

 5月に出された 最終答申 では、日本に性的指向による差別的取り扱いや嫌がらせ、差別表現があることを認め、これらについては新しく作られる人権救済機関の積極的救済の対象とする、と明記されました。また、この性的指向には注がつけられていて、「異性愛、同性愛、両性愛の別を指すsexual orientationの訳語。このほか、同じく性的少数者に位置付けられる性同一性障害、インターセックスを理由とする差別的取り扱い等についても、同様に積極的救済を図るべきである」とされました。

 こうした当時としては(現在でも)画期的な見地にもとづく答申を受けて立案された人権擁護法案でしたが、その後、日の目を見なかったのは上述のとおりです。

法律の存在はやはり大きい

 一方、ちょうどおなじ時期、03年7月にトランスジェンダーの人が性別を変更する手続きを定めた「性同一性障害者特例法」が成立しました。当事者たちの悲願ともいえる訴えかけに応え、議員立法で上程、衆参両院で全会一致によって成立しました。

 法律があることは、たんに戸籍手続きを定めるのみならず、その後、法で認められた存在としてのトランスジェンダーに行政のさまざまな施策を開く有力な根拠となっています。行政施策では性的マイノリティーはつねに「性同一性障害者等」と表記され、たとえば文科省が「『性的マイノリティー』とされる児童生徒」という用語で同性愛などの児童生徒の存在にようやく言及したのは、昨年の4月の通知でした( 第25話 参照)。法律のあるなしは、こういうところで効いてくるのです。

 一方、1990年代のゲイブームを 謳歌(おうか) した同性愛者は法律を持つことなく終わり、その後の長い長い「 (うたげ) のあと」をかこっていたところ、降って湧いたのが昨年の「LGBTブーム」(私のなかの実感では)。

 今度こそ、性的指向(同性愛)などにも目を向けた法律の成立なるのか?  私は今夏で50歳を迎えますが、早くも「ここを逃せば次はない。死んでも死にきれない」の思いを抱き始めています。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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2件 のコメント

ここでも

かた

アカーが頑張ったのですね。 いままでアカーの役割は小さいと思っていました。ゲイの活動家の方々もそのように評価している方が多いですし。でも考えてみ...

アカーが頑張ったのですね。
いままでアカーの役割は小さいと思っていました。ゲイの活動家の方々もそのように評価している方が多いですし。でも考えてみれば、日本の同性愛者の権利運動が大きく躍進したのは、アカーの裁判が大きいのですよね。

現在、現行憲法下で同性婚が出来るか出来ないのか、LGBT活動家の間でも意見が対立しているようです。火種ともなりそうです。同性カップルがアライの法律家とともに、同性婚が出来ないのは違憲だという訴訟を起こしてくれれば、どのような判決であれ、進むべき方向が定まるのですが、でも訴訟は負担が大きいですね。それを考えると、1991年に若者たちが裁判を起こしたことの重さをひしひしと思い知ります。

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ゲイであると職場でばれたら首になる?

カイカタ

そういうことって実際にあるのですよね。そういう場合に備えて作るべきだと思います。

そういうことって実際にあるのですよね。そういう場合に備えて作るべきだと思います。

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