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原隆也記者のてんかん記

闘病記

世界てんかんの日記念イベント講演要旨(中)社会の理解、まだ不十分

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てんかん患者に対する偏見について

 「てんかんを正しく理解すべきは家族から」ということで読み上げます。「うちの家系にはいないのに」「そんな体に産んでしまって」「周りには言えない」これらは、私自身または、ほかのてんかん患者さんが実際に家族から言われた言葉です。

私の経験から申し上げますと、2回目の発作でてんかんと診断されたことを母親に報告したところ、上記の言葉をかけられました。年老いた母親のことを批判がましく言うのは気がひけますが、やはり暗い気持ちになりました。

 余談ですが、母親からはドフトエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を読むようにアドバイスされました。「てんかんの話が出てくるから」と。どういう意図があったのか今もってわかりませんが、確かにこの作品では物語のキーマンがてんかん発作を起こす、あるいは意図的に発作のまねをしているとも言っているのですが、それを言うならドフトエフスキーの別の作品だったのではないかな、と思っています。ちなみにドフトエフスキー自身もてんかんだったと言われています。

 これらの言葉の問題点ですが、言われた側がどう思うか。それに対応しているのが矢印の言葉です。「私だけがおかしいの?」「そんなに悪い病気になったの?」「隠さなきゃいけない病気なの?」

 本来であれば、一番理解してほしい、受け入れてほしいはずの家族からこれらの言葉を受けると、患者の逃げ場が失われてしまいます。こうした言葉で患者が追い込まれているということを知ってほしいと思います。

 次は昨年、東京・池袋で起きた患者による事故に対する匿名掲示板での書き込みです。「てんかんの患者の免許を剥奪しろ」「運転を禁止しろ」。揚げ句には「てんかんの患者を隔離しろ」というものまであります。

 しかし、てんかんは100人に1人が発症する可能性があり、誰でもなる、つまりこうした書き込みをしている人たちもなる可能性があるわけです。

 1月下旬、兵庫県・淡路島の高速道路で、観光バスが蛇行運転したケースがありました。70歳の運転手は症候性てんかんだったという報道がなされました。運転中に初めて発作が起きたという事例です。すでに治療を受けている人であれば、どんな時に発作が起きるかある程度予測がつきますが、そうではなくて初めての発作が、運転中に限らず、いつどこで起きるか分からないこともあり得るということを広く知ってもらいたいと思います。

 その場合の責めを個人に負わせることはできませんが、安全を守るために何らかの技術革新がもたらされればと期待しています。

患者と雇用

 がんの患者さんの場合、治療を受けながら仕事を続ける動きが広がっています。また、身体あるいは知的障害のある方は、障害者雇用促進法に基づき、雇用者側が一定の割合で障害のある方を雇用するよう定められています。では、てんかんはというと、精神障害者の認定を受けられますが、精神障害者は現在、雇用義務がありません。精神障害者を雇用した場合は身体あるいは知的障害のある方を雇用したとみなされます。再来年から義務化されます。では、現場ではどうなっているかというと、就職活動で壁に当たることがあるようです。

 私のコラムに対し、感想を寄せてくれた患者の中には、欠格条項から希望していた道を諦めた人や再就職がうまくいかない人もいました。特に再就職がうまくいかない方の場合、私と同じように、以前働いていた職場で勤務中に倒れ、会社側が配慮してデスクワークに移りました。その後、転職することになったのですが、就職活動では、発作があることを会社側に伝えると皆及び腰になるのだそうです。仕事中に倒れた場合、病気を理由に会社はなかなかやめさせられませんが、てんかんの患者を最初から採用しようという意欲はないように感じられます。

 冒頭、私が申し上げたように、薬で発作が抑えられている患者は、障害者と健常者のはざまにあるといえます。はざまの部分であるためか、 穿(うが) った見方かもしれませんが、義務化されていなければ、わざわざ採用することはないという考えが雇用者側にあるのかなとも思います。

 てんかんは100人に1人が発症するといわれます。100万人の患者がいることになりますが、では、働ける世代の方はどれぐらいになるか、私なりにざっくりと推計しました。日本の人口1億2000万人に対し、労働力人口は半分の6000万人です。これを当てはめると、てんかん患者の方で働ける世代の方は50万人です。このうち6割が薬で発作を抑えられるとされます。つまり単純計算ではありますが、30万人の方は、服薬と生活リズムの維持で、健常者の方に近い活動が行える可能性があります。逆に30万人の雇用を閉じるなら、これは社会的に大きな損失ですし、安倍首相が掲げる1億総活躍社会に逆行するものになってしまいます。

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原隆也記者のてんかん記_201511_120px

原隆也(はら・りゅうや)
1974年、長野県出身。南アルプスと中央アルプスに囲まれた自然豊かな環境で育つ。1998年、読売新聞入社。千葉、金沢、横浜支局などを経て2014年9月から医療部。臓器移植や感染症、生活習慣病などを担当している。趣味は水泳、シュノーケリング。

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