原隆也記者のてんかん記
闘病記
頭を殴られたよう…「クレーン車事故」の衝撃
第一報は、4月18日午前に入ってきました。当事者だけでなく、てんかん患者とその家族、医療関係者にとって忘れられないあの事故が起きました。
いつも通り、午前8時に出社し、震災関連の原稿に目を通している時でした。
「栃木県鹿沼市の国道で、クレーン車が登校中の小学生の列に突っ込み、複数の死傷者が出ている模様」
部署内は騒然となり、ヘリの出動とカメラマンに上空からの撮影を依頼し、現地の支局と連携して詳しい情報の入手に努めました。
クレーン車が対向車線をはみだし、反対車線側の歩道の縁石を乗り越え、民家を壊してようやく停止した様子やはねられた子どもの容体などが次々と判明していきました。一番の焦点である事故原因は、運転手の前方不注意とのことでした。では、なぜ前方不注意になったのか。当時、スマートフォンが急速に普及してきた時期だったため、部署内では「運転中にスマホを操作していたのではないか」といった見立てもありました。しかし、夕刊段階でははっきりしないまま続報を待つことになりました。
逮捕された運転手は当初、「居眠りをしていた」と警察に供述しました。ところが、翌日にはてんかんの持病があることが明らかになりました。この報に接した時、まさに頭を殴られたような衝撃を受けました。思わず「なんということを」という言葉が口をついて出ました。さらに運転手は、発作を抑える薬を飲み忘れていたと供述し、事故前後に車内で意識を失っている様子も目撃されていました。私を含む多くの患者が同じ思いを抱いたと思います。「てんかん患者への風当たりが強くなる」
その後も、自動車免許の取得・更新時に持病について申告していなかったこと、医師から繰り返し車の運転を止められながら、隠して運転を続けていたことなど次々と衝撃的な事実が明かされていきました。
悪質な人身事故に適用される危険運転致死罪での起訴は見送られたことから、遺族からてんかんを隠しての免許取得や運転による事故への厳罰化を求める声が上がりました。心情として当然のことだと思います。
インターネットなどでも、「てんかん患者の運転を禁じるべき」といった声も広がっていきました。中には「てんかん患者を隔離すべきだ」という声も見受けられました。
そうした主張をただただ黙ってながめるしかありませんでした。
この1年後にも京都・祇園でてんかん患者の運転する軽ワゴン車が暴走して多数の死傷者を出す惨事が起きました。
こうして2013年に意識を失うなど持病による事故の刑を引き上げる法律が成立、翌年から施行されました。それでも残念ながら昨年の東京・池袋や宮崎など、てんかん患者による事故が相次ぎ、そのたびネットなどで批判が繰り返されています。
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