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白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記

闘病記

(11)心のケア、大事な3点…好きなことに集中し、「現実逃避」

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 私の退院の場面を記す前に、精神的な苦しさとどう向き合うかについて触れたいと思います。

 白血病に限らず、がんの闘病では身体的な苦痛だけではなく、死の不安など精神的な苦しみが患者に重くのしかかります。私の場合、入院初期の頃はむしろ、肉体的な苦しみよりも精神的な苦しみの方がより大きな負担に思われました。

 入院中に読んだ城山三郎さんの『男子の本懐』(新潮文庫)にこんな一節がありました。主人公の一人、井上準之助(蔵相、日銀総裁などを歴任した、大正・昭和初期の政治家。金解禁を断行)の子息で重い病に侵された益雄が、死ぬ直前に日記につづった言葉です。

 「本当にどうすればいいのだ。ああ神よ! 一体己は何の (あやまち)() って () の苦しみを受けるのか、一体何が悪かつたのか。悪を () した (おぼえ) がない」

 これを読んだとき、入院当初、白血病の再発や生存率を告げられ、現実を受け入れることができずにいた頃を思い出しました。

 「なんで、俺だけこんな目に遭わなくてはいけないんだ。一体、自分がどんな悪いことをしたというのか」と、答えの出るはずがない自問を繰り返していた当時の心の悲鳴とだぶったからです。

 しかし、不安や恐怖、絶望に心を占拠されてしまったら、肝心の白血病やがんと闘う以前に、精神的に押しつぶされてしまいます。看護師によると、白血病患者が入院中にうつ病など精神的な病を患ってしまうケースは少なくないといいます。心身両方の苦痛を取り除く「緩和ケア」が、いかに大事かがこのことからもわかります。

気分転換、「三種の神器」で…本、音楽、映画

 私が入院中、心の緩和ケアに欠かせない「三種の神器」と呼んでいたものがあります。本、iPod、TV機能付きDVDプレーヤー(テレビなどの病院の備品は有料のカードが必要で、長期入院だと経済的負担が大きいので、プレーヤーを購入して持ち込んでいました)の3つです。

 長く、苦しい闘病生活では、前向きな意味での「現実逃避」が不可欠です。読書、音楽、映画、いずれも自分が好きな作品を鑑賞し、楽しむことが気分転換となり、殺伐とした入院生活に潤いを与えてくれるだけでなく、病気に立ち向かう力を与えてくれました。

 特にDVDは、妻に頼んで週に3、4本ほど、チャップリンの作品や、「北の国から」「海猿」「ALWAYS 三丁目の夕日」「アイアンマン」などのシリーズを借りてきてもらい、体調が許す限り、視聴していました。テレビの番組は、あまり面白いと思えるものが少なく、私にとってはDVDを鑑賞する方がより有意義な時間に思えました。

 友人で医師のO君から、笑いによってNK細胞(リンパ球の一種)が刺激され、免疫力が高まるという報告があると聞き、「アメトーーク!」などのお笑い番組や、ナイツなどの漫才のDVDも頻繁に見ました。看護師に好きな映画作品を紹介してもらい、私がそれを見て感想を述べ合うなど、医療スタッフとのコミュニケーションを深める上でも有効でした。

緩和ケアは、「チーム医療」の時代に…リハビリ、カウンセリングなど

(11)心のケア、大事な3点…好きなことに集中し、「現実逃避」

 一方、リハビリとカウンセリングも、心の緩和ケアに大いに役立ちました。これもO君からもらったアドバイスがきっかけでした。

 白血病を含むがんの治療はその担当科だけでなく、歯科、精神科、薬剤師、栄養士などが多方面から患者をサポートする「チーム医療」の時代になっています(イメージ図参照)。O君はこのチームを「緩和ケアチーム」と呼び、「患者としては『緩和ケアチーム』を存分に活用するべきだ。むしろ活用しないのは損だと思う」と教えてくれました。

 そこで、私は理学療法士の指導によるリハビリと、心理療法士との面談を自分から申し込み、平日はほぼ毎日、受けました。病院側でもこうしたリハビリやカウンセリングのプログラムの準備をすでに進めてくれていました。リハビリではトレーニングを通じて、長い入院生活で衰えてきた筋肉を鍛えたり、散歩や体を動かしたりすることで、気持ちをリフレッシュできる効果は大きかったと思います。

 リハビリは、クリーンルーム内にいる時は主に廊下で、クリーンルームを出て一般病室に移った後は、病院内の専用のリハビリ室で行われました。

 心理療法士の面談というと、末期がん患者やうつなどに悩む患者が対象というイメージがあるかもしれません。しかし、私が受けた面談では、「小さな事でもいいので、その日の出来事、日頃考えていること、悩んでいることを気軽に、率直に話してほしい」と言われ、その通り打ち明けることで、いつも心が軽くなった感じがしました。面談の最後には必ず深呼吸と黙想を一定時間かけて行い、これも心の平静につながりました。

 友人、知人とのメール交換もどれほど生きる力になったかわかりません。同じ病院内には、SNSで闘病の様子をリアルタイムで発信し、それを励みにしている女性の白血病患者もいました。

 心の重荷を少しでも軽くするには、自分の好きなことに集中する時間をもつこと、人と話す(メールでやりとりすることも含めて)こと、体を動かすこと。この3つがとても大切だと実感しました。

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白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記_201511_120px

池辺英俊(いけべ・ひでとし)
1966年4月、東京生まれ。90年、読売新聞社に入社。甲府支局に赴任し、オウム真理教のサリン事件などを取材。96年、政治部記者となり、橋本龍太郎首相、小沢一郎新進党党首、山崎拓自民党幹事長(肩書はいずれも当時)の番記者を経て、外務省キャップ、野党キャップ、外交・安保担当デスクなどを歴任。2011年5月から政治部次長。著書に、中公新書ラクレ「小泉革命」(共著・以下同)、同「活火山富士 大自然の恵みと災害」、東信堂「時代を動かす政治のことば」、新潮社「亡国の宰相 官邸機能停止の180日」など。

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2件 のコメント

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2月も続きます!

池辺英俊

今回も読んでいただき、ありがとうございます。 前回のコメントで、残りあと2回(つまり、1月いっぱいで終了)と書きましたが、番外編としてインタビュ...

今回も読んでいただき、ありがとうございます。
前回のコメントで、残りあと2回(つまり、1月いっぱいで終了)と書きましたが、番外編としてインタビューを継続して掲載させて頂くことになりました!白血病に関連して、今、私がもっとも話を聞きたかったお二人(男女1人ずつ)に会い、大変興味深い話を聞くことができました。ぜひご覧下さい。インタビューは、「骨髄移植や、さい帯血移植はどのように集められ、提供されているのか。骨髄バンクはどんな活動をしているのか」(Tommyさん)、「妊娠中、産科でさい帯血提供の意思を伝えたが、かなわなかった」(Mさん)など、これまでいただいた疑問や指摘に答え、骨髄移植やさい帯血移植についてより深く学べる内容にしたいと思っています。
 「ホク」さん、当時の苦しい心境が巧みな文章でつづられ、こちらも読んでいて胸に迫るものがありました。お一人でつらい治療を乗り越えたことに、心から敬意を表します。私などは妻のサポートがなければ、とても乗り越えることはできなかったでしょう。看護師さんが話を熱心に聞いてくれたとのこと。「人と話す」大切さをあらためて認識しました。人は人と話すことで、独りではないことを無意識に自覚し、想像以上に癒やされ、力をもらっているのでしょうね。
 前回コメントできなかった「福岡の車いすライダー」さん、一緒に永田町や議員宿舎で取材に飛び回り、「第一線で旗を振っていた」頃を懐かしく思い出しました。「もっと心の葛藤と叫びを」とのリクエスト(苦笑)。11、12回目の内容で物足りなければ、暖かくなるのを待って、直接、語り合いましょう。NHKのF記者、日経のY記者も一緒に。東京来る予定ないなら、福岡行ってもよかよ。楽しみにしています。

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気持ちを聞いてもらえる幸せ

ホク

初めまして。 私も池辺さんと同じく2013年に急性骨髄性白血病を患った44歳のシングルファザーです。 私の場合は寛解導入、地固め、維持・強化と計...

初めまして。
私も池辺さんと同じく2013年に急性骨髄性白血病を患った44歳のシングルファザーです。

私の場合は寛解導入、地固め、維持・強化と計7度の化学療法を受けました。
染色体転座の異常があり移植適用の判断で、骨髄バンクにも登録しましたがなかなかHLAフルマッチのドナーさんが見つからず、やっと1座アンマッチで提供の同意を頂けたドナーさんも最終の身体検査に問題が発見され提供不可となり、移植に向けた入院の1週間前に中止となりました。
その後の化学療法(7回目)の骨髄抑制時に侵襲性肺アスペルギルス症を併発しましたが何とか持ちこたえる事ができ、昨年の2月に右肺の上葉切除し治療は完了しております。
幸いな事に白血病再発の兆候は今の所なく、仕事にも復帰する事が出来ました。

今回書かれている「心のケア」。
患者が治療を受ける上で大変重要な事だと私も思います。
私はシングルファザーですので、愚痴や弱音を吐けるようなパートナーはおりません。
告知も1人で受けましたし、治療方法や予後、5年生存率などの説明なども勿論1人。
当時、小6の娘に対しはもちろん、両親にも治療中の苦痛、不安な気持ちを悟られまいと努めて明るく振舞っていました。
そうできたのは私の場合は医療スタッフの方のおかげでした。
今も忘れる事が出来ないのは告知を受けた入院初日の夜。
自分がこれからどうなってしまうのか?
自分が死んだら娘は?
白血病という病気の知識は無く、ただただ「不治の病」のイメージだけ。
そんな時に担当の看護師の方が私が横になっているベッドの脇に立ち、私が話す不安な気持ちを静かに聞いてくれました。
不安な気持ちを表に出し、また話す事で気持ちの整理をつける事ができました。
そしてそれが早い段階で治療に前向きになれた事に繋がっているのだと今は思います。

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