予防医学研究者・石川善樹の「続けたくなる健康法」
医療・健康・介護のコラム
感謝の「効能」
こんにちは。
予防医学研究者の石川です。
先日のことですが、とある老人会のみなさまにお話を伺う機会がありました。一通りお尋ねした後は、お茶を飲みながらの雑談タイムに突入です。
そこで話題の多くを占めていたのが、「介護の大変さ」です。たとえば、次のようなことを述べている方がいました。
「これだけこっちがやっているのに、本人はうんともすんとも言わないから、果たして感謝しているんだろうかと疑問に思うよ」
それに対して周りの方は、「そうよね、そう思っても仕方ないわよね」とうなずきながら共感されていました。すると別の方が、次のようなお話をされました。
「私の家の 婆 さんは、“あんたが来てくれるだけで元気になるよ、ありがとう“と手を合わせて感謝するもんだから、こっちもなんとか助けになりたいと思うよね」
……そのような話が延々続いた後、みなさんの中で次のような結論に到達していました。
「年を重ねると、どうしても体は衰え、人様の力を借りる時が来る。その時にガンコ老人になっていたら、だれも助けてくれない。介護する方もされる方も、お互いハッピーに過ごすためには、いつも周りに感謝しておく必要がある」
私はその話を聞きながら、目からウロコが落ちる思いでした。確かに年齢にかかわらず、ふんぞり返って偉そうに振る舞っている人に対しては、なかなか思いやりが持てないと思います。
日本は世界一の長寿大国ですが、それは裏返すと、世界一介護期間が長い国でもあります。
そのような時代を健やかに生きるためには、「まわりに感謝する」ということが大事なのかもしれません。
ちなみに感謝の効能は科学的にも実証されています。ペンシルベニア大学の心理学者セリグマンらは、「感謝の訪問」という研究を行いました。これはとても面白い研究で、次のようなステップで実施します。
1)これまで大変お世話になったにもかかわらず、きちんと感謝の言葉を伝えていない人を選ぶ
2)その人に向けて感謝の手紙を書く
3)郵送するのではなくその人のところまで出向き、目の前で手紙を読む
日本でいえば、結婚式で新婦から両親に向けて読まれる手紙のようなものでしょう。セリグマンらは150人の協力者を集め、2つのグループに分けました。
感謝の訪問をするグループ(80人)
若い頃の思い出を毎日1つずつ書くグループ(70人)
そして2つのグループの幸福感を比べたところ、感謝の訪問をしたグループは、もう1つのグループに比べて、その後1か月たったあとでも幸福感が高い状態のままだったのです。
(出典:Seligman M.E.P. et al. American Psychologist 2005;60:410-421.)
つまり、感謝するということは相手だけでなく、自分自身をも幸せにするという効能があるようなのです。
生かされていることに感謝し、周りの方にも感謝する。
そういった当たり前のことをしっかりできる人間になろうと、あらためて気を引き締めましたという今回のお話でした。
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