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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

不可解な制度…障害認定日は初診から1年6か月後

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 2007年、第1次安倍内閣の当時、5千万件の年金記録が失われた問題が発覚した時、私は、国が高齢者、弱者の生活の厳しさを、視野の真ん中で見ていないからこんな事態を招くのだという感想を持ちました。

 視覚障害などで、私も障害年金の診断書を書くことがよくありますが、「納付要件を満たしていない」などの理由で却下されたり、期待される等級として認められなかったりする事例を経験します。

 そもそも、障害者は自分の病気の治療や障害を抱えての日々の生活に、そのエネルギーの大半を使い切っており、自分で年金制度を調べるようなゆとりはまずありません。

やっと制度にたどり着いて申請しても却下されれば、国は優しくない、信用できないという感情が生まれても仕方ないでしょう。

さて、この制度には、申請者にとっては障壁になるだろう2つの不可解な項目があります。

 その一つは初診日の認定、もう一つは障害認定日です。

障害となった病気ではじめて医師にかかった日が初診日、初診日から1年6か月後が障害認定日です。

 患者としては、初診の時にその病気で障害になり、しかも障害年金を申請することになろうなどとは少しも考えていません。初診から長い年月がたってから障害保険制度をようやく知って申請しようとする場合、遡って申請(遡及申請)もできます。ただし、遡れるのは5年までと、時効の決まりがあって5年前までしか遡れません。

 平成24年に名古屋高裁で時効運用の誤りが指摘されましたが、1日でも早く時効を撤廃し、かつ以前に申請したものについても時効の縛りを解く扱いをすべきだと思います。

また、いつが初診で、どこの病院に行ったのか、記憶をたどるのも決して容易なことではありません。

 仮に思い出せても、法律上のカルテ保存期間は5年ですし、初診の医療機関や医師がすでに存在しない場合もあり、確認できない事態も生じます。また、正確な診断が出るまでに何年もかかり、どれが初診か不明瞭な場合もあります。

 1年6か月後を認定日にする制度は、その間に治療や、自然経過で改善しうることを想定してのものでしょう。しかし、なぜ1年6か月なのかについての根拠はわかりません。

網膜や視神経の病気の中には、治療法が確立しておらず、改善する見込みのないものや、進行することが確実な病もあります。それでも1年6か月も待つというのはおかしな話です。症状固定なら6か月で請求できる特例がありますが、実際にはなかなか認めてもらえません。

 申請時に初診から1年6か月後の医師の所見が必須となります。これも大問題です。治る病気ではないとわかったり、医師に不信感を持てば、以後通院しなくなることは十分ありうることです。

 要するに障害者、弱者に国が手を差し伸べるのは当たり前という仕組みにはなっていない、温かさが感じられないという印象を、医師の立場でも強く感じてしまうのです。 

(※国民年金未納のために、重篤な視覚障害になっても、障害年金さえ受け取れなかった悲惨な例を過去にいくつか見ました。事情により猶予、減額などいろいろな制度もあり、そのままにせず早目に年金機構に相談するのは、立派な自己防衛です)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「健康は眼に聞け」「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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