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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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ジカ熱大流行、感染防止のキーワードは「公衆衛生」

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 今日は、 世界保健機構(WHO)が「ジカ熱」に関して、 「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したという話題 についてです。

 ジカ熱は現在ブラジルで大流行しているそうです。症状は、軽度の発熱、発疹、結膜炎、筋肉痛、関節痛、 倦怠(けんたい) 感、頭痛で、風疹(三日ばしか)やちょっとした風邪に似ています。ジカウイルスの感染によって起こる病気で、ジカウイルスは蚊の体内で増殖しますので、感染した人の血を吸った蚊に刺されると感染する可能性があります。人から人への感染はないと言われています。つまり、ジカ熱はかかっても大した病気ではないのです。では、なぜ公衆衛生上の緊急事態かというと、妊婦に感染したときに小頭症の子供が生まれる可能性が否定できないからです。ブラジルでは小頭症の子供の出産が4000例近く報告されており、ジカ熱が流行していなかった昨年に較べて数十倍の発生数だそうです。ジカ熱のワクチンはなく、ジカウイルスに直接働く薬剤もなく、治療は症状を緩和する対症療法になります。つまり、ジカ熱感染と小頭症の因果関係が強く疑われるが、妊婦がジカ熱に感染したときに小頭症の発生を予防できるような治療はないと言うことです。ですから、今の時期、ブラジルでは妊娠しないこと、妊娠している人は蚊に刺されないこと、そして妊婦はブラジルには行かないことが得策になります。

「公衆衛生」の定義は?

 ところで「公衆衛生」の意味をご存じですか。僕の定義は、「国を挙げて行わなければならない国民の健康に関する対処」だと思っています。

 時代劇のドラマや映画を見ていて、「明らかに当時と異なること」について、以前にある方から教えていただきました。それは既婚の女性がお歯黒をしていること、道路にウマの (ふん) などが散乱して極めて衛生状態が悪いこと、梅毒の患者が多く、鼻が欠けている人々が普通に生活していたことなどだそうです。確かに漢方を勉強するようになって、昔のことに興味を持つと、上記のことを否定する根拠はありません。杉田玄白も「治療する患者の1000人のうち、700人は梅毒である」と記しています。

 道路が不潔であったという事情は日本だけのものではなく、イギリスでもそうでした。1800年代のイギリスは馬車の時代で、いたるところにウマの糞があったそうです。

 1848年、ロンドンでコレラが大発生したとき、ジョン・スノウ医師はロンドン中心街のソーホー地区でコレラの死者と井戸の位置を調べ上げ、コレラは当時考えられていた空気感染ではなく、井戸水による感染であると結論づけました。スノウ医師が記載したコレラの死者と井戸の図は、ネットで簡単に見つかりますので参考にして下さい。彼は、ビールばかり飲んでいる人はコレラに感染しないことにも気がついていました。そしてコレラ菌はその後、数十年して発見されます。つまり、上水道の完備がコレラの発生防止には重要だということです。上水道の完備は国を挙げて取り組まなければならない健康上の課題にて、公衆衛生となります。

蚊の駆除が成功するまでは…

 ブラジル政府としてはもちろん、今年のオリンピックに向けてこのままでは困るので、公衆衛生対策として蚊の駆除を賢明に行っています。蚊の駆除が成功し、ジカ熱の感染が落ち着くまでは、妊婦の方がブラジルに行くことは危険ですね。

 公衆衛生は基本的に国が行うものです。つまり、税金で成り立ちます。有益なことに、しっかりとお金を使ってもらいたいと思いますね。飲む水にいつもコレラ菌が入っているかも知れないというリスクがあれば、だれも水を飲まなくなります。上水道の完備は誰もが反対しない公共事業でしょう。また道路や川に汚物が氾濫していれば、それも疫病の原因になります。当然に下水道の完備は健康のために必須の公衆衛生です。食品や空気の安全性を保つこと、危険な状態を監視することも大切な公衆衛生です。これは国ごとに行っているので、国が異なれば公衆衛生の概念も、できることも異なります。日本は極めて公衆衛生の面では安全な国です。世界に出向くときには、公衆衛生の面でも、ちょっと危険な地域があることも念頭に置いて出かけて下さいね。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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