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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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「怪しい治療」でも、医師免許あれば許される?

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 今日は、 「がん患者16人に『遺伝子治療』称し無資格治療…容疑の歯科医ら逮捕」 という記事に関してのコメントです。

 東京のあるクリニックで医師免許を持たない看護師が医療行為を行ったとして3人を医師法違反(無資格医業)容疑で逮捕したという記事です。少なくとも末期のがん患者さん16人に「遺伝子治療」と称して医療行為を行ったそうです。簡単に言うと、医師免許がない者が「怪しい治療」を行ったことが逮捕の理由です。では、医師免許がない者が正しい治療を行った場合はどうなるかご存じですか。医師免許がなければ正しい医療行為でも行ってはならないのです。つまり罰せられます。それでは、医師が「怪しい治療」を施行した場合はどうなるかご存じですか。答えは通常は罰せられません。もしも、医師がその医療行為は治療効果がないと知っていながら、治療効果があると吹聴して医療を行えば詐欺罪に該当することがあるかも知れません。しかし、第三者が見て、あきらかに「怪しい」と思われる治療を行っても、医師本人が「怪しい治療」と思っていなければ、それは正しい医療行為と通常は見なされます。「通常は」と添えたのは、たとえば「3か月断食をすればがんが治る」とか、明らかに命を縮めるとわかっている殺傷行為に当たるものなど、誰がみても異常な治療が例外ということです。

保険診療の範囲内なら、ほぼ間違いない治療

 まず、日本では多くの医療行為は保険診療で行われています。これは公のお金を使用しているので、正しく公のお金が使われているかは厳しく審査されています。保険請求の書類は、毎月厳しい審査を通過しないと病院やクリニックに保険でカバーされる金額が還付されないからです。つまり保険診療の範囲内であれば、ほぼ間違いない治療が施されていると思って大丈夫です。さて、問題は保険外治療です。保険外治療とは自費診療とも呼ばれます。保険外治療では公のお金を使う訳ではありません。よって、不正な支出を監視するという公的機関のチェック体制はまったく働きません。法律に触れなければ問題ないということになります。つまり、有効な医師免許を持った者が、自分が正しいと思って行っている医療行為を罰することができないのです。

5%の確率で奇跡も起こる

 そもそも、人はいろいろです。がんの患者さんをたくさん拝見していると、奇跡も経験します。通常は長くは生きないだろうと思われる患者さんが、10年以上もピンピンとしていたり、また手術をしなくても腫瘍が消失したり、不思議なことはある程度の頻度で起こるのです。僕は、その頻度は5%ぐらいだと思っています。実はがんを放置した場合にどうなるかというデータがないので、比べようがないのです。ですから、可能であれば、がん患者さんをすべて登録して、そしてどんな治療をすればどのぐらいの生存率があるのか、また一般的な治療をしないで経過をみるとどうなるのかという素朴な疑問に答える正確な数字が知りたいのです。そんな正確な数字がわからない現状では、ある医療行為を行ったが故に良い結果が得られたのか、たまたま奇跡が起こるのと同じ頻度で、好転する結果が得られたかも不明です。予想外のこと、また奇跡が起こることも皆無ではないと知っている以上、どんな医療行為に関しても、「私は○○治療でがんを退治しました」といったことが起こりえるのです。治療を施した方も、施された方も、○○治療が効いたと信じています。でも実際は○○治療はなんでもよくて、たまたまの偶然が重なった結果かもしれないのです。つまり医療サイドは常に、自分が施した治療が本当に有効であったかを自問自答することが大切なのです。

自費診療は玉石混交

 さて、そんな現状ですので、○○治療のかわりに、「怪しい治療」がおこなわれても、何人かは良い結果を迎えます。「怪しい治療」とは例えば、ある特殊な場所に生えている生薬をがん治療に使いましょうとか、ある特別な場所の岩石を使うと特別なエネルギーが放出されているのでがんには効果的ですとか、ある波長を体に当てるとがんのエネルギーが消えるんですとか、体に必須の微量元素を大量に飲むと免疫力があがりますとか、細胞を取り出して修飾して体に戻すと抗がん活性が増加しますとか、こんなものを食べると長生き出来ますとか、いろいろなストーリーが考えられます。どれも本当かもしれません。でもどれも「本当に怪しい治療」かもしれません。しかし、自費診療では、あきらかに体に害、つまり傷害罪や殺人罪に該当しなければ、すべてOKなのです。つまり、医師であれば「怪しい治療」をしても罰せられないのです。自費診療は玉石混交です。医療の専門家でないとよくわからないことが多いでしょう。そんな時はかかりつけ医の先生と十分に相談して決めて下さい。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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