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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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乳がんマンモグラフィー、本当は受診しないほうがいい?

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 今日は『乳がんマンモグラフィー、米「50歳から」方針を継続』という記事に関しての僕なりのコメントです。乳がんの健診は、まず触って検査する触診、そして乳腺専用のX線検査であるマンモグラフィー(乳房エックス線撮影)、超音波検査などがあります。そのマンモグラフィーによる乳がん検診について、アメリカの福祉保健省は50歳~74歳の女性が2年に1度受診することを推奨したという内容です。

お金と時間があったとしても…

 これだけの記事を読むと、もしも時間とお金があれば、50歳未満でも、また1年に1度受けてもいいのではと思いますね。この報告で大切な内容は、40歳代ではマンモグラフィーで乳がんを見つけられる恩恵よりも、過剰な検査による負担の方が大きいとの研究成果に基づいたという点です。この「過剰な検査による負担」が金銭的負担と時間的負担であれば、特段の問題はありません。時間に余裕があり、そしてお金に不自由していない人はどんどん乳がん検診を受ければいいのです。「時間とお金がない人は、まずまず50歳以上で2年に1回受ければいいですよ」という最低限を示すという意味に受け取れます。

 ところがそうではないと僕は思っています。つまり、マンモグラフィーで乳がんが疑われると、追加のいろいろな検査が施され、結局は早期の確定診断は難しいことが少なくなく、結局は何度もがんが疑われる部位に針を刺して検査をしたり、また、それでも悪性腫瘍という確定診断が得られないときは、腫瘍とおぼしき部位を小さく切り取って、その摘出標本を顕微鏡で調べることも行われます。そして、結局はがんではなかったり、またはグレー、つまり明らかにがんとも、明らかにがんでないとも言えないという、なんとも腑ふに落ちない結果に終わり、「経過を見ていきましょう」ということになります。そんな状況では、検査をされた人は「がんかもしれない」という精神的不安でストレスが溜たまるのです。心配で、心配で、夜も眠れないという人もいます。そうであれば、「いっそ疑いでもいいですから、きれいさっぱり、がんとして手術をしてください」と直訴する人もいます。つまり、お金と時間があっても検査をしないほうがいいこともあるということです。この点がなにより大切なのです。繰り返しますが、検査をしないほうが結果的には最良の選択肢であったことが少なからずあり、それらを踏まえて、またその後の統計的研究成果を含めて、アメリカの福祉保健省がこのような推奨を出したということです。

過剰な検査が、がんに対する不安を引き起こす

 40代の僕の知り合いの女性もマンモグラフィーで乳がんの疑いと言われて、ある病院でいろいろな検査が施され、そして強く乳がんが疑われるので、手術をしましょうということになりました。そして僕の所に相談があり、「ともかくもう一か所、ほかの病院の専門家の意見を聞いてはどうですか」とセカンドオピニオンを勧めました。その病院はたぶん日本で一番、乳がんの手術数が多い病院ですが、そこでは最初の病院で行われたマンモグラフィーや細胞検査のスライドなどを再度診断しました。そして、超音波検査やマンモグラフィーも再度行われました。すると、「乳がんの可能性は相当低いので、まったく手術は不要です」という結論になりました。ある意味良かったのですが、本当に日本で一番、手術数のある病院の意見が正しかったのか、それとも最初の手術を勧めた病院が実は正しかったのかは、将来経過を見て、はじめてその正誤が判明するのです。そのあいだ、やはり彼女は一抹の不安を持って暮らすのです。

 つまり、そんなビクビクする状態が、ある意味過剰な検査をやることで生じたということです。そしてその過剰な検査は、乳がん検診を目的としたマンモグラフィーが始まりでした。また一方で、マンモグラフィーのお陰で早期の乳がんが見つかり、そして手術を受けて元気な人もたくさんいます。悩ましいですね。僕の結論はどちらでもないのです。健診というのはある意味「運と縁」で、やろうと思ったときには行えばいいと思っています。間違いないことは、何か異常があれば、それは病院で検査を行うということです。そして健診に関しては、お金と時間があっても、ちょっと不安な結果になることもある、不利益な結果になることもあると認識しましょう。その不利益と利益に鑑かんがみたときに、アメリカ福祉保健省としては、50歳以上で2年に1回のマンモグラフィーが推奨される、つまり50歳未満には積極的にはマンモグラフィーを勧めないという結論が出たということです。日本の事情はまたアメリカとは異なります。心配なときはかかりつけ医に相談して、いろいろと質問をして、そして十分納得して下さい。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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