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性とパートナーシップ

コラム

「夫婦関係と発達障害」反響編(上)心身共に疲れ果てた妻、マイペースな夫

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 発達障害がご専門の医師、宮尾益知先生のインタビュー連載「夫婦関係と発達障害」 (上)(中)(下) は、多くの方に読んでいただきました。ありがとうございました。

感想をお寄せいただいた中には、自身も発達障害の一種である「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」で、お子さんの一人がアスペルガー症候群と診断され、両親も夫も発達障害の疑いが濃いという、一般社団法人「発達・精神サポートネットワーク」理事長の金子磨矢子さん(62)がいらっしゃいました。

 金子さんたちは2010年に日本で初めて、大人の発達障害を持つ人たちが気軽に立ち寄れる居場所「 オルタナティブ・スペース・ネッコ 」を東京に作り、運営しています。ヨミドクターのこの連載を読み、「私自身、うちの夫婦関係を見られているのかと思うほどびっくりしました。また、この記事をフェイスブックで紹介したところ、同じような夫婦の声がいっぱい寄せられ、またびっくりです」と、娘さんの主治医である宮尾先生に感想を送ってくださいました。

詳しくお話を伺おうと、取材にお邪魔しました。

 

 インタビューの場所は、ネッコカフェでした。ここは、日中はカフェとして、午後6時から10時まではフリースペースとして使われ、講演会や勉強会、音楽祭や英会話教室まで、毎日のように様々なイベントが開かれています。発達障害を持つ当事者がスタッフとして常駐し、当事者や家族が訪れて、おいしいコーヒーやお茶を飲みながら、普段はなかなか話すことができない悩みを分かち合っていきます。私が取材に伺った日も、当事者やご家族の方がスタッフとじっくり話し込んでいらっしゃいました。

 

 金子さんは物心ついた頃から、「自分はほかの人と違う」と思って育ってきました。「ぐずな子」「だらしない子」と周りに言われ続け、「自分は劣っている子なのだ」と確信していたと言います。何もかも最後までやり遂げることが難しく、授業を聞いているといつの間にか窓の外を見て、空想の世界に浸ってしまう女の子でした。

今振り返ると、両親も発達障害を抱えていたようでした。東京大学在学中に母と出会った父は学生結婚をしたものの、働くことは考えず、大学院に進学。金子さんが生まれた直後に妻子を日本に置いてフランス・ソルボンヌ大学に留学してしまいました。帰国後、東北大に講師として採用されたのに、大学に通うのが嫌になってしまって長続きせず、その後就職した私立大も解雇されることを繰り返しました。

 母親も人の気持ちを読むことができないマイペースな人で、父親は、すぐにイライラする妻のことを「ヒステリー」と呼んでいました。家の中ではぶつかり合ってばかりの両親を見ながら、金子さんは「こんな夫婦にはなりたくない」という結婚観を持って育ちました。

 

 そんな金子さんの初恋は高校1年生の時。1つ年上の彼と「小さな恋のメロディ」のような純粋な交際を2年ほどしましたが、別の人が好きになってしまってお別れ。新しい人と付き合っては、また別の人を好きになって別れることを何回か繰り返しました。今思えば、ADHD特有の衝動性が影響していたのかもしれないと振り返ります。

23歳の時、「女性は20代前半までに結婚しないといけない」と言われている時代でしたから、「次に付き合った人と結婚しよう」と思い込まされていました。そんな時、友人の夫が紹介してくれたのが、後に夫になる男性でした。最初はグループ交際から始めましたが、初めて食事に行った時から、「彼女の分は僕が払うから」とごちそうしてくれる男性でした。一目ぼれのようでした。

 出会って間もないある日、彼が自宅に遊びにきて、「僕は君と結婚することを決めた」と告げられました。

 (なに言っているの?この人……)

 でも、よくよく考えてみると、そんなに嫌な性格でもなく、家業をしっかりと守っているところも好感を持てました。結局3年付き合ってから、結婚に踏み切りました。

 

 付き合っている時から夫は金子さんの考えていることや行っていること、読んでいる本にもほとんど興味を示さず、好きに自由なことをさせてくれました。

 

 「実はアスペルガー症候群で、本当は人の気持ちがわからなかったのですが、私にはそれがとても楽で、一緒に暮らすには最適な人だと直感したのです」

 

こだわりが強く、極度の潔癖症の夫

 夫は、性的にも淡泊な人で、そのことも金子さんには真面目に映り、好ましく思えました。また、金子さんが片づけられないのに対して、夫はこだわりが強く、極度の潔癖症でした。自宅が散らかっていても、夫が片づけてくれました。

 

 ハネムーンベビーですぐに妊娠し、27歳の時に長女を出産。家業の後継ぎ欲しさに義父母は「男の子を産め」という圧力をかけてきていましたが、なかなか授からず、「2人目不妊」に悩むことになりました。長女が小学校に入った頃から、不妊治療を開始。双方とも目に見える体の問題はなく、基礎体温をつけてタイミング療法を続け、人工授精も8回ほど繰り返しましたが、やはり授かりませんでした。

 

 「排卵日に『今日こそは!』と頑張っては、ダメということの繰り返しで、セックスは子どもを作ることが目的になっていました。体外受精は治療費も急激に高くなるし、もうやめようと二人とも納得して断念しました。その直後に、不思議なことに、自然妊娠で次女を授かったのです」

 

 39歳で、長女と12歳離れた次女を無事出産。しかし、出産後は夫婦の間にセックスは復活しませんでした。

 

 「長女が生まれた後から不妊治療に至るまで、セックスは夫婦の楽しみではなく子作りのためでしたので、目的を果たした後は、再びしたいという気持ちがなくなっていたのかもしれません。それに、一つのことに集中しないとものごとをやり遂げられない私は、子育てをするだけで精いっぱいだったのですね」

 

 引っ越しを繰り返して、広い部屋に住み替えていきましたが、狭いから散らかってしまうと考えていた部屋は、広くなっても散らかったままでした。朝早く家を出て、仕事から疲れて戻ると足の踏み場もない自宅に、潔癖症の夫はかなりイライラしていたようです。

 

 さらに大変だったのは、次女の扱いにくさでした。夜泣きやかんしゃくはしょっちゅうでした。自分の生活のしづらさに加え、夫のこだわりや潔癖症による衝突、次女の育てにくさが加わり、金子さんはだんだんと追い詰められていきました。今思うと、家族の発達障害に悩まされながら周囲には理解してもらえない「カサンドラ症候群」の状態も重なったのかもしれません。それに加え、小学2年生頃から、次女に「強迫性障害」が表れるようになったのです。

 

 強迫性障害とは、ある特定の考えや強迫観念がわき起こり、そこから生じる不安を取り除くための行為に、労力と時間を費やさずにはいられなくなる障害です。不潔恐怖で何度も手を洗ったり、外出時にガスの元栓や鍵の閉め忘れが気になり、何度も引き返してしまったりなど表れる症状は様々ですが、次女は不潔恐怖症で、風呂への強いこだわりを見せました。

 

 「お風呂に入らないと気が済まないのですが、私が入れた風呂ではだめで、まず自分が体をきれいに洗った後に、そのきれいな体で浴槽の掃除をした後にためたお風呂でないと入れないのです。入った後は、床が汚く感じられて踏めないので、きれいに洗ったタオルを床に敷いて歩きます。そのタオルも1回踏んだら『汚れてしまう』ので、毎日、何十枚も使うことになりました。かわいそうでもどうしてあげることもできませんでした」

 

 小児精神科のクリニックに行くと、大量の薬を処方され、副作用でほぼ寝たきりの闘病生活になってしまいました。

 

 当然のことながら、心身共に疲れ果ててセックスどころではなく、セックスレスであることはまったく気にならなくなりました。夫は時折求めることもありましたが、金子さんが拒否すると無理強いまではしませんでした。夫は子どもの問題について多少、悩みを聞いてはくれましたが、母子が大変な時も自分のしたいことを優先し、主体的に自分から子どものために動くということはしませんでした。パートナーとして頼りになるという感じではなく、夫婦の心身はどんどん離れていきました。

(続く)

 

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性とパートナーシップ201505_120px

岩永直子(いわなが・なおこ)

社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。6月から編集長に就任。医療部ではがん全般や感染症、遺伝子医療、セクシュアリティーなどを担当。夫と二人暮らし。趣味は居酒屋巡りとダイエット。

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11件 のコメント

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はるお様

レッテルを貼られた男

貴重な御意見ありがとうございます。 確かにそのとおりだと思います。 私も妻にレッテルを貼っていたように思います。 私の妻は開業医の末娘で、経済的...

貴重な御意見ありがとうございます。
確かにそのとおりだと思います。
私も妻にレッテルを貼っていたように思います。

私の妻は開業医の末娘で、経済的には何一つ不自由ない暮らしをしてきた女性です。
しかし、父親とは今もまったく会話がなく、母親からの過干渉の中で育ってきたようです。

私は、妻が回避型のパーソナリティ傾向が強いのだと考えています。
今までの妻の人生の中で、何一つ重要な事は自分で決められず(結婚相手さえも)、思った事も言えずにきたのです。そして、結果的に強い回避性を持ってしまった。
だから、だれとも本当の意味で親密になれないのだと。

子供が産まれても、妻は子供と添い寝ができませんでした。もちろん夫である私とも同じベットで寝たことはありません。添い寝という母としての原初的な行為すらも彼女が受けてこなかったのではという疑念を持ってしまいます。
つまり、妻には愛着というところに問題があるのではないかと考えています。

ここまでが、私が妻に貼ってしまったレッテルです。
確かにコミュニケーションの方法は会話以外にもたくさんあり、私としても押したり引いたり妻が殻に閉じこもらないようにいろいろ試してみましたが、どうもうまくいきません。
回避型パーソナリティの妻とどうやってコミュニケーションをとるのがベストなのか、毎日途方に暮れているのです。

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レッテルを貼られた男さんへ

はるお

それを「障害」と呼ぶべきかどうかはさておき、「あなたの奥様が」コミュニケーションが上手ではなさそうだと感じました。 あなたときちんと向き合って話...

それを「障害」と呼ぶべきかどうかはさておき、「あなたの奥様が」コミュニケーションが上手ではなさそうだと感じました。
あなたときちんと向き合って話し合うことをせず、SNSに書き込むことでストレスを発散しておられる点から、そのように思いました。

仮にこう考えてみてはいかがでしょうか?

「私の妻が、コミュニケーションが苦手なのだ」
「だから私がコミュニケーションのやり方を、妻に合わせて工夫してはどうだろうか?」
「どのような工夫をすれば、妻とうまくコミュニケーションできるだろうか?」
「私の妻が、きちんと向き合って話をしてくれるようになるために、私ができることは何だろうか?」

もしもここで「相手がこちらを向いてくれないならば何も始まらない」「話し合いのテーブルについてくれないと何も始まらない」と匙を投げてしまうのでしたら、それは「レッテル貼り」と同じではないでしょうか?
私はコミュニケーションは「話をする」ことが全てではないと思っています。
「目を合わせる」「暖かいまなざしを向ける」「冷たい目で見る」「無視する」「無視されても挨拶をする」「大きな音を立ててドアを閉める、そっと閉める」「テレビを見るときに大きなボリュームで見る、ボリュームを下げて見る」「脱いだ靴下は必ず洗濯籠に入れる」「仕事から早く帰る」「毎日遅く帰る」
そういうことも含めて、何もかもがコミュニケーションです。こちらの気持ちを相手に伝え続けています。
そういった行動を通じて、奥様へメッセージを伝えることも可能ではないかと私は思いますし、それによって奥様の態度が変わる可能性もあると思います。

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ネトゲ未亡人様

レッテルを貼られた男

<「相手が発達障害だから自分は悪くない」ではなく「相手が発達障害だから伝わらなかった。自分も相手も悪くない。だから伝え方を工夫しよう」だと思うの...

<「相手が発達障害だから自分は悪くない」ではなく「相手が発達障害だから伝わらなかった。自分も相手も悪くない。だから伝え方を工夫しよう」だと思うのですが。

そのとおりだと思います。
上記の言葉を、私の妻の口から聞きたかったです。

発達障害という言葉を、愛着障害とかパーソナリティ障害とかという言葉に置き換えたっていいんです。言いたい事があったなら、SNSの場で言わなくたって直接言って欲しかった。

私にレッテルを貼ってしまうことで満足し、私と向き合おうとしてくれない事が悲しいのです。
妻一人でカウンセリングなど受けずに、カウンセリングを受けるのなら一緒に行きたかった。
夫婦なのに、みずくさいなって思えてしまいます。

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