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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

コラム

低周波音、健康被害との因果関係は?

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 今日は 「低周波音で『不眠』『食欲低下』…健康被害の相談、年200件超」という記事 についてです。

 低周波音についての概要は、 環境省のHP にわかりやすく解説されています。

 まず、ヘルツについての解説です。ヘルツとは1秒間に何回振動しているかの単位で、50ヘルツであれば1秒間に50回の振動(波)があるということです。電気は東日本側では50ヘルツで、西日本側では60ヘルツです。交流電源を波として見ると、それぞれ1秒間に50回と60回の波が見られるということです。音も、実は波です。人間の耳は、個人差はありますが、20から2万ヘルツの音を感じることができると言われています。人間の可聴域が20から2万ヘルツと言い換えることもできます。低周波数ほど低音で、高周波数ほど高音です。犬や猫は6万ヘルツまでは聞こえ、またイルカは10万ヘルツ以上、コウモリは400万ヘルツの高音まで聞こえるそうです。つまり、人間は犬や猫、イルカ、コウモリが聞こえるような2万ヘルツ以上の高音は聞こえないことになります。

「調査中」…環境省は慎重姿勢

 低周波音にはどのようなものがあるかというと、先ほどのHPによると、船やバス、トラックなどのエンジン音、大きな滝の水が滝 (つぼ) に落ちる音、波が防波堤で裂ける音などが含まれるそうです。 (おおむ) ね1から100ヘルツの音を低周波音、特に人間の耳では聞きにくい音を、つまり20ヘルツ以下の音を超低周波音と呼びます。さて、その低周波音への苦情が増えているというのが今回の記事でした。年間200件を超えて、20年前の5倍以上になったそうです。記事の中で大切な部分は、「省エネ対策で急速に普及した家庭用発電装置や給湯機器が発生源の一つとされ、隣人との間のトラブルが裁判に発展するケースも出てきた」という点と、「環境省は07年に作成した市民向けパンフレットで、低周波音について『不快感を抱く人もいる』としたうえで、『寝室を変える』『窓の揺れを抑える』などの対策を呼びかけたが、健康被害との因果関係については、今も『調査中』(担当者)と慎重な姿勢」だということです。

仕事場の低周波音なら問題ない?

 まず、僕は低周波音が高率に健康障害を起こすとは考えにくいと思っています。低周波音は、トラックや船のエンジン音、工場のタービンの音なども含まれます。産業医の先生方からそれらの低周波数の音で健康を害したという報告は多くはありません。つまり、自分の仕事場の音であれば健康被害に繋がりにくいのです。また滝壺のそばに住む人が滝の音で、また堤防のそばに住む人が波の音で体調を崩したとはあまり耳にしません。一方で、家庭用発電装置や給湯機器が発生源のときは健康被害として報告されます。違いはなんでしょうか。僕的な見解は、平穏だった生活に突然、微妙な変な音が聞こえるようになって、昔と比べてなんとも不愉快な日々になったということです。「あいつが引っ越してきたから、変な音がし出して調子が悪い」といったストーリーが出来上がります。そして、なんとなく不調や心の病気に至ることは珍しくありません。もちろん、風力発電機が設置されて、その微妙な低音の連続が我慢できないということもあります。一方、仕事でトラックを運転している人、仕事で船に乗っている人、工場の低音環境の中での仕事に従事しているという人には、それは最初から定まった致し方ない事態なので、今さら、くよくよするよりも、致し方ないと思って受け入れることができるのです。

 違いがわかりますか。自分にとって生活の糧であって、そんな音も致し方ないと思えれば「OK」、一方で突然に変な音が、心地よかった環境に侵入してくると「ノー」、当たり前と言えば当たり前の感情ですね。

「心」の問題を介した因果関係なら…

 そこでその低周波音に病気との因果関係があるかと言われれば、心の問題を介しての因果関係はもちろんあるのでしょうが、心の問題を介さずに、直接に病気としての原因になるかは難しいところですね。だからこそ、環境省のHPでも明らかな因果関係は今も「調査中」と慎重なのです。確かに海外の論文などには低周波音が直接に健康被害を引き起こすというものもありますが、その頻度はそれほど多くはないと僕は思っています。どの程度の頻度かを確かめるには、船や工場など、低周波音の環境下で働いている人の健康状態のチェックをすると概要がつかめると思っています。また、ボランティアに頼んで実験をしてみるのも面白いですよね。人はいろいろですから、低周波音に過敏で病気になりやすい体質の人が、ある程度存在していても不思議ではありません。低周波音と健康の関係性はまだまだ調べる必要がある領域だと思っています。実際に僕自身は、夜中に空気清浄器の低周波音は気になるのでオフにして寝ています。また、耳鳴りで困っている患者さんには () えて低周波音を発する機械を枕元において寝ることも勧めています。耳鳴りが気にならなくなることがあるからです。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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