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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(26) 貧しい家庭の子も、大学進学をあきらめないで

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 経済的な理由で大学や専門学校への進学をあきらめる人がいるのは、たいへん残念なことです。学歴がすべてではないけれど、高等教育を受けられないと、職業の選択、正規労働者としての就職、働いてからの収入といった面で不利になるのが現実です。貧困家庭の次の世代がまた貧困になる「貧困の世代間連鎖」。そういう事態は、本人にとって不利益なだけではありません。社会に役立つはずの個人の潜在能力が発揮されない、社会に出ても低収入が続くと中長期的に見て社会保障費がかかる、という両面で、日本全体の将来にもマイナスの影響を及ぼします。

 根本問題は、学費が高すぎること、奨学金制度が不備なことです。とはいえ、入学料・授業料の減免制度や、いろいろな奨学金・貸付制度もあるので、進学の希望があれば、簡単にあきらめずに幅広く方法を探ってください。夜間や通信制の大学などの選択肢も存在します。

 生活保護世帯の場合、厚生労働省は今のところ、保護を受けながら昼間の大学・専門学校・各種学校に通うことを認めておらず、それらに進学するときは、学生だけを保護から外す「世帯分離」という形を取るしかありません。そういう考え方が現代の社会状況にふさわしいのか、貧困の連鎖を食い止める観点から見てどうなのか。社会的な議論が必要だと思います。

大学進学率に大きな格差

 文部科学省の学校基本調査によると、2015年3月の中学卒業者の進路は、高校等(高等専門学校・中高一貫校後期課程・特別支援学校高等部を含む)が98.5%、専修学校高等課程0.2%、就職0.4%でした。高校(全日制・定時制)の卒業者の進路(現役)は、大学・短大54.5%、専修学校専門課程(専門学校のこと)16.7%、専修学校一般課程・各種学校5.2%、就職17.8%でした。今では高校卒業生の8割近くが進学するわけです。

 では、生活保護世帯などはどうでしょうか。少し詳しいデータのある年について、中学卒業後の進路の比較を示します。保護世帯の子どもの進学率は90%を超えているものの、一般より低い数字です。

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 次は、高校卒業後の進路の比較です(データ出所は同じ)。生活保護世帯、児童養護施設、ひとり親家庭の子どもの進学率は、一般より大幅に低く、とりわけ大学・短大への進学率は大きな差があります。

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高校までは何とかなる

 小中学校、特別支援学校の義務教育段階は、公立であれば授業料はかからず、学用品費、給食費、修学旅行費などの費用は、低所得世帯なら、市町村から就学援助を受けられます(対象世帯の基準は市町村による)。生活保護世帯の場合は、就学援助の代わりに教育扶助が支給されます(修学旅行費と一部の医療費などは就学援助で支給)。義務教育は、最低限度の生活の保障として欠かせないからです。

 高校段階では、文科省の「高等学校等就学支援金」によって、所得制限以下の世帯の子どもなら、国公立の高校は授業料が無償になり、私立でもある程度は負担が軽減されます(高専1~3年、中高一貫校後期課程、特別支援学校高等部、専修学校高等部、専修学校一般課程の一部、各種学校の一部も対象)。

 それとは別に、授業料以外の負担を軽くするため、14年度から「高校生等奨学給付金」が始まり、低所得世帯に次の額が支給されます。

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 生活保護世帯の場合は、 前回 に説明したように「高等学校等就学費」が生業扶助の一種として支給されます。私立だと授業料が余分にかかりますが、都道府県などから奨学金を受けるか、アルバイトをすれば、貧しい家庭でもおおむね、高校生活を送れるようになったと言えるでしょう。

 実は、ずっと昔の生活保護の運用では、中学を出たら働くことを求められ、もし子どもが高校に行くと「ぜいたく」として、世帯全体が保護を打ち切られました。次の時期では、高校進学者を保護から外して、世帯の保護は続ける運用になりました。1970年になって、保護世帯の中で高校に通うことが認められました(高校の費用は支給なし)。そして05年度から、高校に通うための費用も生活保護で支給されるようになったのです。一般の高校進学率の上昇をはじめ、時代の変化を背景に、高校生の年齢では、働くことを求めるより、就学して自立に向けた力を養うほうがよいという判断に変わってきたわけです。

保護世帯でも世帯分離して、大学に進める

 しかし、高校より上の段階について、厚労省は、保護世帯の子どもに、そのまま進学することを認めていません。理由は、生活保護の要件のひとつである「稼働能力の活用」です。

 大学へ行くこと自体は否定しない。しかし保護を受けるなら、働く能力の活用が欠かせない。だから高校を出て健康なら、働いて家計にお金を入れなさい。そうすることで保護費の支給を減らしなさい。それができないなら、保護はしません――そういう考え方です。

 だからといって、保護世帯の子どもが大学や専門学校にまったく進学できないわけではありません。その方法のひとつが「世帯分離」です。

 生活保護は、生計と居住をともにする世帯単位が原則ですが、例外的な扱いもあります。世帯員の一部を保護から外して、残りの人だけに保護を継続する。あるいは一部の世帯員だけを保護して、残りの人は保護から外れる、という方法です。実際の生活があまり変化しないときでも、生活保護制度上の世帯を別々にするのです。たとえば、次のような場合です。

  • 長期の入院や施設入所などで医療費・介護費がかさむ場合、その人だけを保護する
    (残りの人は保護から外れることによって、収入を医療費や介護費にあてなくて済む)
  • 1年以内に結婚や就職によって自立し、別世帯になる見込みの人を保護から外す
    (保護から外れた人は、自分の収入を自分のために使える)
  • 働く能力と機会があるのに働かない人がいれば、その人だけを保護から外す
    (能力不活用を理由に世帯全体の保護を打ち切るのでなく、残りの人には保護を継続する)

 昼間の大学・短大・専門学校・各種学校に進学するときは、進学者を世帯分離して、保護から外します。そうすれば、稼働能力の活用は問題にならず、残りの人は保護が継続されます。

工夫してほしい柔軟な対応

 世帯分離された場合、保護を外れた進学者は学費だけでなく、自分の生活費も何らかの形で調達する必要があり、国民健康保険にも加入しないといけません。浪人して勉強に専念するときも同様です。

 一方、残った世帯の受け取る保護費は、外れた人の分だけ減ります。個人単位の費用(生活扶助の1類)のほか、世帯人数が減るため、世帯共通の費用(生活扶助の2類や冬季加算)も減り、学生1人の分離で月4~5万円の支給減になります。場合によっては住宅扶助の限度額も下がります。保護が継続されると言っても、保護費の計算が変わる関係で、実際の生活費が苦しくなる場合があるわけです。

 大学などへの進学に、そういうペナルティー的な世帯分離をするのは、よい方法でしょうか。一般の大学生の多くが学費や生活費をまかなうためにバイトをしたり、貸与型の奨学金という名の借金を背負ったりしている実情を考えると、高校段階のような形で大学生活の費用を支給するのは、確かにむずかしいかもしれません。

 しかし、学生でも、生活費の部分は保護費でみるという政策判断は、ありうるでしょう。あるいはさしあたり、バイトなどで一定の収入を家計に入れたら、稼働能力をそれなりに活用しているとみなして、保護を受けながらの進学を認める運用も考えられるのではないでしょうか。

 高等教育を受ければ、将来、生活保護になるリスクは下がります。稼働能力のフル活用を性急に求めるより、将来の自立を重視するほうが、中長期の財政面で見ても、プラスのように思います。

 なお、障害などで働けない場合は、活用できる稼働能力そのものがないので、必要な費用を奨学金などで確保すれば、保護を受けながら昼間の大学で学ぶことも制度運用上、可能なはずです。

授業料・入学金の減免を受ける

 ここからは、生活保護でない場合を含め、貧しい家庭の子どもの進学方法を探ってみます。

 まず、低所得世帯の子どもなら、検定料・入学料・授業料の減免を受けられる可能性があります。

 文科省は、国立大学法人への運営費交付金を算定するとき、授業料減免を加味しています(15年度予算では学部・修士課程の授業料免除率は10.3%)。公立大学は自治体が運営交付金を出しますが、総務省が設置自治体へ渡す地方交付税交付金を算定するとき、授業料減免を考慮しています(15年度は11.5%)。私立大学には、文科省が日本私立学校振興・共済事業団を通じて、減免の実績額の2分の1を補助しています。減免の実績は次の通りです。

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 全額免除・半額免除など、減免の制度や基準は大学ごとに違いますが、国立大学の場合、たとえば給与収入の3人世帯で自宅外通学なら年収500~600万円程度まで認める大学が多いようです。生活保護世帯なら、ほぼ確実に免除されるでしょう。入学料の減免はもう少しゆるい感じで、親の死亡や失業などによる収入の急減も対象です。私立では、成績とリンクした制度にしていることもあります。

 大学の授業料減免制度の有無や、大学・自治体などによる奨学金の制度については、 日本学生支援機構の「大学・地方公共団体等が行う奨学金制度」のページ に調査結果が公表されています。具体的な収入基準などの詳細は、個々の大学に問い合わせないとわかりません。専門学校でも、学校によっては減免制度があります。

働きながら学ぶ夜間課程、通信課程

 次に、働きながら学ぶ道です。代表的なのは夜間課程(二部)の大学ですが、昔に比べてかなり減りました。しかし、通信課程を持つ大学や専門学校は増えています。ネット利用の授業やリポートの作成、週末や夏休みのスクーリングなどで単位を取れば、卒業できます。放送大学だと、4年間でかかる学費は入学料を含めて約70万円。他の私立大学の通信制でも、昼間の国公立大学より学費の安いところがあります。

 生活保護の場合でも、働きながら学ぶことは、余暇活用とされ、原則自由です。自立に役立つ勉学であれば、必要なお金を勤労収入や奨学金などで工面できる限り、問題ありません。

 大学院にも、夜間や週末主体のコース、通信制のコースが増えています。授業料の減免も利用すれば、生活保護を受けながら修士号や博士号を取得することも、ありえない話ではありません。

高専、専門学校のルート

 工学や技術に興味があれば、中学卒業後に高校ではなく、高等専門学校(5年制、商船系は5年半)へ進むのもひとつの方法です。生活保護による高等学校等就学費は、高専なら5年生まで支給されます。工業系などの高校を出て高専の3~4年生に編入学する道もあります。高専には求人が多く、就職率が高いのですが、編入試験を受けて、卒業後に大学の3年に編入学する学生も多数います。高専の専攻科(2年)を出たときは大学卒並みの「学士」になります。

 専門学校は、学校教育法で定める専修学校のうち、高卒レベル向けの専門課程を置く学校です。職業人の養成を中心とした教育ですが、編入試験を受けて、卒業後に大学の3年に編入学することも可能です。看護、農業を中心に公立の専門学校もあります。民間の専門学校の多くは年間の授業料が私立大並みにかかりますが、たとえば看護の分野では、学費の比較的安い学校があります。看護では、病院による奨学金も多く、卒業後、借りたのと同じ年数をその病院で働けば、返還が免除されます。いわゆる「お礼奉公」ですが、経済的なメリットは大きいでしょう。

給与をもらえる国の省庁の大学校

 国の省庁が設けている大学校のうち、防衛大学校、防衛医科大学校、海上保安大学校、気象大学校は、学費がかからず、在学中から国家公務員として給与が支給されます。卒業すれば、通常の大学卒と同様に「学士」になります。航空保安大学校も給与が支給されます(学士にはなりません)。

学費・教育費の相談機関がほしい

 重要なのは奨学金、貸付金ですが、内容が多岐にわたるため、次の機会に回します。

大きな課題だと思うのは、進路ごとの学費、奨学金、学生の生活費といった経済面についての情報提供や相談できる機関が乏しいことです。大学や専門学校に入れば、そこの学生支援担当課がそれなりに情報を伝え、相談に乗ってくれますが、肝心なのは、進路を選択する高校までの段階です。高校の教員に進路や奨学金の担当があっても、各種の制度は数が多く複雑なので、進学にかかわる経済的な問題を的確にアドバイスできる人は、多くないでしょう。

 貧困家庭の場合、親が「大学は学費が高いから無理」と思い込んでいたり、すぐ働いて収入を得ることだけを求めたり、子どもの教育や進路に無関心だったりすることも少なくありません。子ども自身が情報を広く集めて検討するのは、大変です。保護者も子ども本人も相談できる専門的な機関を、文科省や自治体などが設けてほしいものです。

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原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士(大阪府立大学大学院)。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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