虹色百話~性的マイノリティーへの招待
yomiDr.記事アーカイブ
第35話 ある地方議員の「LGBT議会質問」
小林区議の発言が炎上中
東京の杉並区議会で、小林ゆみ区議がした「性的マイノリティーについての質問」(小林区議がブログで公開した、この質問についての 文章 と 動画 =7分30秒~15分38秒あたりが問題の部分)が、ネットを中心に「炎上」中です。新聞やニュースサイトでも記事になっていますが、現在、区議は連絡がとれないとのことで、本人からのコメントや反論はないままです。
ことは飲み屋談議ではなく、かりにも公職者として議会という場でした発言ですから、最後まできちんと責任をもってほしいものです。
質問の内容を見ると、物議をかもしそうな発言が目に付きます。
冒頭、「電通総研の調査によると、日本人の約13人に1人が性的マイノリティーであるという結果が出ています」と切り出しますが、この「13人に1人」(7.6%)については 第16話 で触れました。こういう引用のされかたをするので、私は問題の多い数字だと思っています。
また、昨年来話題の同性パートナーシップ公認については、「憲法24条、94条に違反している疑いが強い」とのこと。この点は研究者のあいだでも、 憲法は同性婚を禁止していないとする見解 もあります。そもそも、これまで論じられてこなかった問題なので、大いに論争してほしいものです。
そして、住宅賃貸や病院面会は個々の対応をすればいいので条例は不要、と。条例は今のところ渋谷区しかありませんが、パートナーシップ条例とマスコミは呼びますが、それは全体の1条項にすぎず、趣旨は男女平等と多様性を推進するための条例です。「日本は他国に比べると、性的マイノリティーに対して、目に見えた差別が少ない国」は、 第32話 も読んでいただきたい。
いちばん物議をかもしているのは、つぎの発言でしょう。
「レズ・ゲイ・バイは性的指向であり、現時点では障害であるかどうかが医学的にはっきりしていません。そもそも地方自治体が現段階で、性的指向、すなわち個人的趣味の分野にまで多くの時間と予算を費やすことは、本当に必要なのでしょうか」
レズビアンを「レズ」、バイセクシュアルを「バイ」と呼び捨てることを私はしませんが、それはともかく、この連載をお読みくださっているかたは、性的指向を個人的趣味と言い切る勇気に“
ネット上には著名人を含む、様々な方から批判やコメントが見られますので、どうぞご検索になってみてください。
トランスジェンダーにもさまざまなスタンスがある
さて、小林区議はこうした発言の前段として、トランスジェンダーは医師の認定が必要である明らかな障害で、だからこそ性別変更などの法的な救済策が定められている、と言います(その反対として、性的指向には保護や予算が不要というわけです)。この見解はトランスジェンダーである親友から影響を受けたものであることが、質問の後段からうかがえます。
性的マイノリティーと一口にいっても人それぞれです。トランスジェンダーのなかには「自分たちは性同一性障害者であり、保護や救済が必要」「“LGBT”などと、なにもかも一緒くたにされることは迷惑だ」という意見の人もいます。そして、身体への処置や戸籍の性別変更を経たあとは、自分の望む性別で処遇されたいし、過去に違う性別であったことは忘れたい、と思う人もいます。小林区議が意見を聞いた親友は「自分はカムアウトはしたくないし、そもそも世間にここまで大きく、性について取り上げてほしくない」と語り、彼女はそれでこの質問に立ったといいます。
その一方で、おなじトランスジェンダーでも、世田谷で同性パートナーの公認制度にも取り組んだ上川あや区議など、性的マイノリティー全体の視点で少数者の人権課題に取り組む人もいます。
また、 第28話 で触れたSOGI(性的指向sexual orientationと性自認gender identity)の視点でいえば、性別移行したうえで同性への性指向を有する人もいます。かんたんに「T」だけ切り分けることはできないのが実際ではないでしょうか。
大向こう受けを狙う質問?
友人の声から質問に立ったという小林議員のスタンスは、暮らしにより近い地方議員として評価に値するとは思います。ただ、議会の場で質問をしようというのに、たまたま自分の親友だというトランスジェンダー当事者ひとりの声だけを聞いて質問に臨んでいる(と思われる)点は、他のさまざまな言及とも思いあわせて、いささか勉強不足がすぎるのではないかと、私は残念でした。
杉並区でも最近、当事者グループが区へ働きかける動きが始まったようですから(親友のかたはそういう動きが嫌いなのかもしれませんが)、議員としては、より多くの住民・当事者の声を聞いて、地域の課題に取り組んでいただきたいものです。
昨今、地方議員の質の低下が取りざたされますが(もちろん国会議員もでしょうが)、地域住民との連携に乏しく、ただ議員になりたくてなっただけのような人の場合、議会で問うべき自分の得意分野がなく、大向こうに受けそうな話題ばかりをやる人もいるようです。
そうした話題の一つに「LGBTもの」を見かけるようになった気がします。
そんな動きを議員のブログやツイートで見かけるたび、この先生、地元の当事者と
なお、小林区議が引用した「トランスジェンダーは障害なので保護が必要」については、 第33話 の同性愛の脱病理化ともども、トランスジェンダーについても同様の流れがあります。すでに米国精神医学会の診断マニュアル(DSM)の第5版(2013年)から「性同一性障害(Gender Identity Disorder)」が消えて、「Gender Dysphagia(日本語訳は「性別違和」)」に置き換わっています。性同一性障害がいまも通用しているのはむしろ日本だけ、とも。このへんについては、稿を改めて紹介したいと思います。
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