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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

厚労省の目には「軽症」?…眼筋型筋無力症、難病から除外か

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 難病研究は長い間、法律なしの特定疾患治療事業でしたが、昨年(平成27年)から難病法が施行され、消費税収入を充てられるようになりました。そして指定難病も56から306疾患へと広げられています。

 障害者総合支援法も平成25年4月から施行されています。これは、民主党政権時代に検討されたものを踏まえた、「障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律」という名称の法律です。

 国際的な基準に (のっと) り、地域社会における共生の実現に向けて総合的、計画的に行われることが法律の基本理念で、障害者に認定された人だけではなく、「制度の谷間」にある難病131疾患も対象に含めた画期的なものです。

 障害者も健常者も社会の中で平等に生活する権利を持つ、ノーマライゼイションという国際的な考え方に合致する法律でもあります。

 これを知って、私は「よい政治が行われた」と感嘆する一方、もしこれらの政策への出費を大幅に増額しない場合、範囲を広げた分だけ各人への福祉サービスが薄まるのではないかという懸念も持ちました。

 そこに、厚労省と意見交換をしていたNPO法人、筋無力症患者会の理事長から驚くべき情報が入ってきました。

 3年後(平成30年)に対象区分を見直す時に、重症筋無力症(MG)のうち眼筋型を除外することになっている、というのです。

 見直しの理由は、案の定、財源が確保できないことを挙げたそうです。

しかし、なぜ眼筋型が除かれるのでしょう。

 日本神経学会が示すMGの分類はIからVに分かれていて、そのIが眼筋だけに症状がある眼筋型(II以下は全身型)です。これは、治療結果の重症度を示した分類ではありませんが、厚労省の目にはIが「軽症」と映ったのでしょう。

 もし、「目だけに生じたものは生死に関係しないから軽症」などと考えたのでしたら甚だしい思い違いです。

 脳に入る情報の90%近くは目から入るものですが、それが、 眼瞼(がんけん) 下垂で単眼視になったり、眼球の動きが制限されて眼の位置ずれが生じ、ものが二つに見える状態(複視)になったりすれば、いきなり日常生活、社会生活の著しい制限につながります。

 全身型の人でも、眼瞼下垂や複視が突然生じると、それまで何とかできていた社会生活が一気に不能になり、悲壮な思いで私ども神経眼科の外来に飛び込んでくる例は決して珍しくありません。

 子育て世代の親に治療による経済的負担がかかる小児MGの大半は眼筋型です。

 これに対し、さきの筋無力症患者会は、2月17日付で「重症度区分の見直し」「エビデンス(有効性や安全性についての科学的根拠)がそろってきた免疫抑制剤が小児で用いられるための認可」を要望した要望書を、同日に塩崎厚生労働大臣あてに提出したとのことです。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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