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[iPSの10年]医療を変える(1)「難病治療へ最速審査」…山中伸弥教授インタビュー

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[iPSの10年]医療を変える(1)「難病治療へ最速審査」…山中伸弥教授インタビュー

「再生医療にとって今年は大切な年になる」と語る山中教授(京都市左京区の京都大で)=永井哲朗撮影

 様々な細胞に変化できるiPS細胞の開発を、山中伸弥・京都大教授(53)が世界へ向けて発表してから今夏で10年を迎える。

 日本発の夢のような細胞は、社会にどのような影響を与え、未来をどう変えていくのかを探るシリーズを始めたい。第1部は「医療を変える」をテーマに、山中教授にこの10年と今後の展望を語ってもらうインタビューからスタートする。

  ■支援の輪

 この10年で最も印象的だったのは2014年9月、目の難病患者に対して行われた、iPS細胞を利用した世界初の臨床研究だ。

 理化学研究所の高橋政代・プロジェクトリーダーらのチームによって、患者の皮膚からiPS細胞を作り、さらに目の網膜細胞に変化させて移植する手術が行われた。06年の発表から10年以内に臨床応用できるとは思ってもみなかった。

 それができたのは、高橋リーダーらの努力ももちろんだが、国や国民の間でiPS細胞を医療に活用する支援が広がったことが大きいと思う。

 14年11月には、iPS細胞などを使った再生医療の早期実用化を可能とする新制度も施行された。以前は、再生医療のような新しい医療の審査には時間がかかり、実用化が遅れるという課題があった。それが一転して、「日本が世界で最も早い」と注目されるようになった。

  ■踏ん張り時

 多くの難病患者や家族は以前、自分たちの病気の研究がなかなか進まない状況に絶望していた。今は、様々な難病患者のiPS細胞から病気の特徴を再現した細胞を作って、病気の原因解明や治療薬の候補物質を探す創薬の研究が始まり、希望の光が生まれた。

 生命科学の分野でも、生命倫理に配慮しながらiPS細胞から精子と卵子を作るなど、生命の謎に迫る研究が進められている。

 私たちの研究に対し、多くの人々が寄付金を寄せてくれている。こうした温かい支援の輪は年々、広がっている。これも、以前にはなかったことで、研究環境を整えることに利用させてもらっている。

 これまで、日本は世界のiPS細胞研究をリードしてきた。だが、最近は米国などが猛烈に追い上げてきている。今が踏ん張り時だ。

 今年は、新しい発想を持った若い人材を研究所で積極的に雇用し、iPS細胞を用いた次のブレイクスルー(画期的な成果)を目指したいと考えている。

 世界のiPS細胞研究のリーダーとしての日本の地位を守る。そして再生医療に、創薬にと、着実に歩みを進めていきたい。

 <iPS細胞(人工多能性幹細胞)>

 無限に増殖して、神経や筋肉など体の様々な臓器や組織の細胞に変化する能力を持つ細胞。「万能細胞」とも呼ばれる。山中伸弥・京都大教授が2006年、世界に先駆けて、マウスの皮膚の細胞に4種類の遺伝子を入れて作製することに成功した。この業績で山中教授は12年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

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