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白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記

闘病記

「白血病と闘う」番外編インタビュー

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虎の門病院分院 内科総合診療科部長・血液内科部長 和気敦さん(下)

 前回に続き、虎の門病院分院の内科総合診療科部長・血液内科部長である和気敦さんのインタビューです。

「白血病と闘う」番外編インタビュー

さい帯血移植治療の問題点、将来像について語る和気医師(左)と池辺記者(右)

  池辺 (以下、池) 非血縁者間のさい帯血移植の件数は年々急速に増加しており、2015年は1265件と、骨髄移植・末梢血幹細胞移植の計1268件とほぼ並びました。実は国別でも日本は世界で最もさい帯血移植の件数が多く、件数では世界の約3分の1を占めています。その理由はどこにあるのでしょう。

  和気敦 さん(以下、和) やはり、欧米と比べ、大人の体格が小さいことが大きいと思います。また、造血幹細胞をさい帯血から採取する際、より効率的に多くの細胞を集める技術が進んだこともあります。

 生着に必要な細胞数は過去の経験から想定されていて、患者さんの体重1キロ当たり、2.5×10の7乗個のさい帯血細胞数、この細胞の中には0.5~1%の造血幹細胞が含まれており、造血幹細胞数でいうと5万~10万個あれば、安全な移植が可能であろうとされています。

 さい帯血中の細胞は母体ではなく赤ちゃんの血液細胞ですが、通常の骨髄や 末梢(まっしょう) 血幹細胞移植で必要な幹細胞数と比べると、およそ10分の1の造血幹細胞数で移植が可能ということになります。赤ちゃんの力はすごいですね。当初はさい帯血移植を受ける患者さんの多くは小児でしたが、2002年頃には成人と小児のさい帯血移植数がほぼ同数になり、その後は成人が上回るようになりました。

さい帯血移植、巨漢の大人は難しい?…80キロまでは前例

   私は入院時、身長171.5センチ、体重は66.7キロ。決して小柄な方ではないのに移植ができてよかったです。私が巨漢だったら、さい帯血移植は無理だったのでしょうか(笑)。

   80キロくらいまでは前例があります。100キロクラスになると、なかなか厳しいと思いますね。

 米国では、1人分のさい帯血では細胞数が足りないということで、2人分のさい帯血を一緒に入れて移植細胞数を増やす「複数さい帯血」移植を行ってきました。実際は、2人のドナーのうち、いずれか一方の造血幹細胞しか生着しないのですが、それでも、少しでも多くの細胞を入れた方が生着率が上がるんじゃないかという考え方です。日本でも臨床試験が行われました。

   成績は良好だったのですか。

   日本では1人分の時と変わらないか、やや低いかなという結果でした。海外でも(1人分より)優れた結果は出なかったので、今後、国策として導入する可能性は低いと思われます。

細胞数増やす研究、骨髄輸注の試験など進む…生着率向上めざし

   生着率の低さは、さい帯血移植のデメリットの一つですからね。私も移植直後、「本当に生着してくれるのか」と落ち着かない日々を過ごしたのを覚えています。

   生着率を上げるため、さい帯血から採取後に試験管内で細胞数を増やす研究や、さい帯血を直接骨髄に輸注する「骨髄内さい帯血移植」という方法の臨床試験が行われていますが、まだ医療現場に反映されるには至っていません。

   でも、虎の門病院は全国の病院でも突出してさい帯血移植の件数が多いですね。

   先ほども触れましたが、骨髄移植では、移植が患者さんにとって唯一の治療であるケースでも、受けるチャンスがなく、どんどん病状が悪くなってしまうことがあります。しかし、さい帯血移植なら、ある程度HLA(白血球の型)が合わなくても移植可能なHLA不一致移植が主体ですから、患者さんが移植治療を受けたいとき、受ける必要のあるときにかなり高い確率で移植を受けることができ、しかも、2週間ほどで提供できます。この差はやはり大きいと思っています。経験豊富な施設では、さい帯血移植は生着不全もかなり克服され、骨髄移植に劣らない、むしろそれを上回る長期成績を出すようにもなっています。

 移植治療の選択では、池辺さんが友人で血液内科医のOさんから意見を聞いたように、できれば受診している病院以外からセカンドオピニオンも含め、情報をできるだけ多く集めて、患者さんが自分にふさわしい治療を納得して決めることがとても大切だと思います。

iPS白血病治療に期待と課題…国民皆保険と両立できるか?

   大谷貴子さんは「iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った免疫細胞で白血病を治療するなど、患者の負担の少ない移植治療が実現してほしい。今の治療は野蛮だ」と(笑)。私も経験者としてまったく同感です。白血病治療の今後の見通しについてどう思われますか。

   野蛮というか、洗練しきれていない治療だと私も思います。患者さんに「苦しみを我慢してください」と医師が言わなければならないのですから。iPS細胞については、患者自身のiPS細胞から作った免疫細胞を用いる場合は、「自家」(自分の細胞)になるので、まったく拒絶反応は起こらない反面、移植細胞が白血病細胞(がん細胞)を攻撃する反応(GVL効果= 連載第7回 参照)も現状ではかなり工夫をしないと「同種」(他人の細胞)ほどには期待できません。

 一方、骨髄バンクと提携して、骨髄バンクドナー候補の中から、ドナー細胞が拒絶されにくいホモ接合体HLA型(共通のHLA遺伝子を持つ両親から同じ遺伝子が遺伝しAA、aaなど同じ対立HLA遺伝子を持つもの)のドナーの一部にご協力をいただいて、その方々のiPS細胞を用いることで、少ないドナー数で多くの患者に移植可能な同種細胞を提供できる体制も計画されています。

 ただ、治療に使える細胞にするためにどれだけのコストがかかるか、また、一種のオーダーメイドの治療になると思うので、日本の国民皆保険の中で成立するのか。まだ色々工夫が必要ではないでしょうか。ただ、新規薬剤の開発が海外に先行されている現状を考えると、iPSは日本が世に出した細胞であり、ぜひ国産の技術で治療ができればと思っています。

 さらに、さい帯血移植の大半は前にも述べた通りHLA不一致移植で、これはさい帯血の特殊性(HLAが違っていても馴染みやすい)によるものですが、HLA不一致の骨髄や末梢血幹細胞移植でも、移植後シクロフォスファミドという移植後のGVHD(移植片対宿主病)を含む免疫反応をうまく調整する手段がここ数年で世に出てきています。GVHDを予防し、出ないようにするもので、これにより、HLAが半分しか合わないケースでも、移植できるようになってきています。そうなると、親子間でも(末梢血幹細胞移植や骨髄移植などが)できるということです。移植後シクロフォスファミドは日本でも臨床試験が行われており、移植ドナーの選択が大きく変わる可能性があります。

   闘病記のブログ第3回に書きましたが、私は血小板の輸血中、激痛に見舞われました。これは異例のことですよね。

   息苦しくなるとか、熱が出るとか、血圧が下がることは比較的ありますが、激痛というのはあまり経験がないですね。(激しいアレルギー反応が起きる)アナフィラキシーにしては、輸血開始から発症までに時間がかかっているので、アナフィラキシー以外の免疫反応ではないでしょうか。もちろん広い意味では輸血の副作用だと思います。

「大量の抗がん剤受け、二次がん気になる」…ぜひ人間ドックでがん検診を

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インタビューに臨む和気医師(右)と池辺記者(左)

   今、私がやはり気になるのは白血病の再々発と、抗がん剤を大量に注入したことに伴う、白血病とは別のがんの発生、いわゆる「二次がん」です。再々発は神のみぞ知るでしょうが、二次がんへの備えは何かした方がいいのでしょうか。

   二次がんは移植の前処置薬・全身放射線照射や、その前に使った抗がん剤によっても引き起こされる可能性があります。発病の危険性は、10年以上で数%の発症率です。血液検査だけではチェックできないので、年1回は人間ドッグで「がん検診」を行うことをお勧めしています。

   あと、3年前の化学療法の後は、抜けた髪の毛がスムーズに戻ってくれたのですが、今回はなかなか生えてきてくれません(笑)。ぜいたくな悩みなのでしょうが。

   GVHDが影響しているのかもしれないですね。さい帯血の場合、GVHDがあまり長く続くことはありませんので、(髪の毛は)戻ってくると思います。最近の発毛剤は細胞刺激剤が多いので、今は使わず、もう少し待った方がいいでしょう。

   希望が湧いてきました(笑)。

   はっきりと「池辺さん、もう白血病は治りましたね」と言ってあげられるにはもう少し時間が必要ですが、それに 気圧(けお) されることなく、ぜひ前向きに、人生を 謳歌(おうか) していただきたいと思います。

   はい、わかりました。ありがとうございます。

(インタビューを終えて)

 1回目の大谷貴子さんとの関係を「白血病患者の先輩・後輩」と書かせていただきましたが、今回の和気敦さんは、私の出身高校(福岡県立修猷館高校)の5期先輩です(私的なことで大変恐縮ですが)。入院中、同窓であることがひょんなことで判明。その日その時の十数分間だけ、母校の話題で楽しく盛り上がりました。それまで張りつめていた病室内の空気や、自分の気持ちが急に和やかになったのを覚えています。インタビューの最後にいただいた「気圧されることなく、前向きに人生を謳歌して」とのメッセージも、医師兼先輩からのエールとして胸に刻んで歩んでいこうと思います。(池辺英俊)

【略歴】和気敦(わけ・あつし) 虎の門病院分院内科総合診療科部長兼血液内科部長
 1962年1月生まれ。産業医科大学医学部卒。三菱重工下関造船所病院・産業医、同大第一内科助手、小倉記念病院総合診療部・血液内科医長、虎の門病院血液内科医長などを経て、2010年2月から現職。専門は、成人T細胞白血病(ATL)、造血幹細胞移植(HLA不一致移植、さい帯血移植、移植後肺合併症)。
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池辺英俊(いけべ・ひでとし)
1966年4月、東京生まれ。90年、読売新聞社に入社。甲府支局に赴任し、オウム真理教のサリン事件などを取材。96年、政治部記者となり、橋本龍太郎首相、小沢一郎新進党党首、山崎拓自民党幹事長(肩書はいずれも当時)の番記者を経て、外務省キャップ、野党キャップ、外交・安保担当デスクなどを歴任。2011年5月から政治部次長。著書に、中公新書ラクレ「小泉革命」(共著・以下同)、同「活火山富士 大自然の恵みと災害」、東信堂「時代を動かす政治のことば」、新潮社「亡国の宰相 官邸機能停止の180日」など。

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8件 のコメント

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今あなたは元気になりましたか?

アリス

27歳の息子が赤白血病と去年診断され妹から骨髄移植しました。白血病の中でもm6という珍しく悪性度の高い癌と言われましたが年末年始一緒にすごせたと...

27歳の息子が赤白血病と去年診断され妹から骨髄移植しました。白血病の中でもm6という珍しく悪性度の高い癌と言われましたが年末年始一緒にすごせたと思ったらもう再発して。地方のテレビ局でカメラアシスタントをしてましたが本人はまた職場復帰を夢に頑張るつもりのようです。親としてはなにもできずはがゆいです。

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RE:ときめき返し

池辺英俊

プリンさんの「ときめき返し」、すてきなキャッチコピーですね。さわやかな印象で。 キャンディーズの名曲「ほほ笑み返し」を連想させます。季節も春で。...

プリンさんの「ときめき返し」、すてきなキャッチコピーですね。さわやかな印象で。
キャンディーズの名曲「ほほ笑み返し」を連想させます。季節も春で。プリンさんが若い方なら知らないかな。
自分の体をもっと褒めて、いたわるようにとの「先輩」のアドバイス、ありがたく承りました。
退院から時間が過ぎて、「ふつうの生活」が長くなると、人より劣ったマイナス面ばかり気になりますが、もともと、難病&重病患者ですから、ぜいたくは禁物。ご指摘の通り、自分の体をもっと大切に、やさしく=特に酒はほどほどに。先日飲み過ぎたので=します。ありがとうございました!

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「ときめき」返し

プリン

 私も抗がん剤の経験者ですが、もう2度としたくない経験です。白血病の抗がん剤は乳がん以上に強力と聞きますし、ブログから、過酷さが十分過ぎるほど伝...

 私も抗がん剤の経験者ですが、もう2度としたくない経験です。白血病の抗がん剤は乳がん以上に強力と聞きますし、ブログから、過酷さが十分過ぎるほど伝わりました。本当に厳しい治療、お疲れさまでした。体の正常細胞へのダメージも相当なものでしょうから、まだまだ、自分が思っている以上に体をいたわってあげてください。数値が良くないと気落ちしたら、頑張った体がかわいそう。反対に、過酷な治療に耐えた体を褒めてあげて、数値が良くなることを気長に待ってあげてください。聡明な池辺さんは、もう気付いていられるようですが……、がん患者の先輩として、エヘン!一言、言わせていただきました。
 私の時差あるコメントに「ときめいて」くださり、有難うございます。池辺さんの早速のコメントに私も「ときめき♪」ました。有難うございます。

 連載終了なのに、またのコメント、失礼しました。

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