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知って安心!今村先生の感染症塾

医療・健康・介護のコラム

「お待たせしました」 …インフルエンザより

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 インフルエンザがいよいよ流行入り。  来るべきものが、やっぱり来てしまいました。

 「あれ、今年はインフルエンザの流行がないのかな?」  …と思っていた方も、これからは要注意です。  インフルは、これから流行のピークへ向かって増えていきます。  今回は、今知っておきたいポイントをまとめてみましょう。

遅れてやってきたインフル

「お待たせしました」 …インフルエンザより

 1月15日、インフルエンザが全国的な流行シーズンに入ったと、厚生労働省が発表しました。この冬はインフルエンザの話を聞かないなあ、と思っていた人も多かったのではないでしょうか。それも、そのとおり。「年明けの流行入り」は、なんと9年ぶりだったのです。

  『インフル流行入り、厚労省が発表…暖冬で9年ぶり「越年」』ヨミドクター

インフルエンザの症状

 インフルエンザは、皆さんもご存じのとおり、冬に流行するウイルス感染症です。潜伏期間は1~3日で、突然の高熱で発症することが多く、頭痛、筋肉痛、関節痛も、よくみられる症状です。また、鼻水、喉の痛み、咳せきなどを伴うことがあります。多くの人は自然に軽快するのですが、小児では脳症を、高齢者では肺炎を合併して重症化し、死亡することもあります。発熱期間は通常3~7日ですが、発症前日~発病後7日間くらいはウイルスの排出があるとされています。

インフルエンザの検査

 インフルエンザの検査では、長い綿棒のようなもので鼻腔びくう(鼻の奥の方)をぬぐい、それを短時間で判定する迅速検査が一般的です。検査のタイミングについては注意が必要です。発熱直後~12時間以内は検出感度が低いということを知っておきましょう。24~48時間が最も検出しやすいとされていますが、最も検出される時期でも100%の感度ではありません(陰性だからといって完全に否定することは難しいということです)。検出率は2~3日目をピークに、その後は次第に低下していきます。このように、インフルエンザの迅速検査は絶対的なものではありません。この検査によってウイルスに感染していないことを証明することもできないのです。

抗インフルエンザ薬は特効薬?

 現在一般的に使われている抗インフルエンザ薬には、タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタの4種類があります。タミフルは内服薬、リレンザとイナビルは吸入薬、そしてラピアクタは点滴の薬となっています。これらの薬は、効果が高いとされている発症48時間以内の治療開始がすすめられています。

 「薬を飲んだのに熱がすぐに下がらない」という方もいますが、飲んだら熱がすぐに下がるというほどの特効薬ではありません。抗インフルエンザ薬は、症状を軽くして発熱期間を短くするという効果、そして少しでも重症化を防ぐことを期待して投与されています。インフルエンザは、軽症例ならば解熱剤などの対症療法のみで自然に良くなる感染症です。インフルエンザと診断されたら必ず抗インフルエンザ薬を投与しなければならない、というわけでもないのです。

インフル治療薬と乳製品アレルギー

 2015年8月に、抗インフルエンザ薬のうちイナビル、リレンザと、乳製品アレルギーの関係についての注意喚起がありました。過去3年の国内報告で、乳製品アレルギーのある人への投与でアナフィラキシーの起こった例が5例あったと報告され、薬の添付文書にも「慎重投与」の記載が追加されています。

 これらの薬の投与数、そして乳製品アレルギーを持つ人の数を考慮すると、その関連性については、まだはっきりしていないというのが現状です。「慎重投与」となっているので、添付文書上は処方してはいけないという記載ではありません。しかし、添付文書にも明記されていることなので、乳製品アレルギーがある場合(特に過去に強いアレルギーを起こした経験がある時)には、他剤を使用するか、理由を十分に説明して、抗インフル薬は処方せずに解熱剤で経過をみることがすすめられます。

学校への出席停止は?

 インフルエンザと診断された場合、学校にはどれくらい休まなくてはいけないのでしょうか? この出席停止の期間については、学校保健安全法によって定められています。以前は「解熱後2日」のみでしたが、12年4月の改定によって『発症したあと5日を経過し、かつ、解熱したあと2日を経過するまで [注:保育所は解熱後3日]』となりました。これは熱が下がっても、2~3日はウイルスが排出される可能性があることを考慮した対応です。なお、大人については、このような法律上の規定はありません。したがって、とりあえず子どもの基準に合わせて、就労停止の期間を説明されていることが多いと思います。

インフルエンザのABC

 インフルエンザの型については、かなり難しい話題になるのですが、毎年の流行やワクチンのことを知るためには大切な知識です。ここでは、その要点をまとめてみたいと思います。

 インフルエンザウイルスは大きく「A」,「B」,「C」の3つの型に分けることができます。このうち「C型」のインフルエンザは、ほとんどが幼児期にかかってしまいます。感染しても無症状か鼻水程度のごく軽い風邪症状で終わるため、日常的にC型のインフルエンザが問題となることはありません。

 「A型」のインフルエンザは、人だけでなく、豚や鳥などにも感染しながら、ウイルスが微妙に形を変えてしまうことがあります。したがって、A型のインフルエンザには、わずかに形が異なる、多くの種類のウイルスが存在しています。

 インフルエンザで、「H1N1」とか「H3N2」という名前を聞くことがあるかもしれませんが、これらもA型インフルエンザの種類を示したものです。さらに、たとえば同じ「H1N1」という名前のA型インフルエンザでも、さらに微妙に形を変えたものが発生していきます。そして、比較的大きな変化をした時に、09年の新型インフルエンザのように、世界的な大流行を起こすことがあるのです。

 「B型」のインフルエンザは、基本的に人に感染し、A型のように豚や鳥には感染しません。B型には「山形系統」と「ビクトリア系統」の2種類がありますが、A型インフルエンザのように細かい型に分けられてはいません。この「B型」のインフルエンザは、一般的にはA型の流行の後に増えてくることが多く、A型のような世界的な大流行も起こしにくいウイルスです。

インフルエンザのワクチン

 インフルエンザは、南半球から北半球、北半球から南半球へと流行を繰り返しながら、その経過の中で流行する種類が変わったりします。 それぞれの種類によって、対応するワクチンも違ってくるのですが、それら全てを1本の注射に入れることはできません。したがって、世界の流行状況をみながら、その年のワクチンに含めるタイプを決めているのです。

 現在は、以前から流行していた「A香港型:H3N2」と「Aソ連型:H1N1」の2種類と、09年に新型インフルエンザとして流行した「H1N1pdm09」を加えた合計3種類のウイルスが、毎年の流行を繰り返しています。ちなみに、H1N1pdm09という名前は、09年にパンデミック(世界的な流行)をしたウイルスであることを意味しています(pandemic→略してpdm)。

 今年は、今のところA型、B型が混在して発生してきているようです。まだ流行入りしたばかりなので、今後の経過によって詳細な流行状況がわかってくると思います。

ワクチンは、まだ間に合う?

 「ワクチンは、まだ間に合いますか?」という質問が増えていますが、少なくとも「この原稿が掲載された時点」なら、まだギリギリ間に合うと思います。今年は例年よりも1か月近く流行が遅れ、1月15日に流行入りが発表されています。通常のペースで感染が広がっていくならば、全国的なピークまでは最低でも1か月程度かかるはずです。ただ、地域によってピークに達する時期も違うため、ワクチンが間に合う期間も異なってきます。ワクチンは、効果が出るまで2週間かかるので、希望の方は早めに接種しておくことをおすすめします。

 ちなみに、従来のインフルエンザのワクチンには、2種類のA型と、1種類のB型が含まれていました。今季からは、B型1種類が追加されて、合計4種類(A型2種+B型2種)となっています(このため、全般的に昨年度よりもワクチンの値段が高くなってしまいました)。インフルワクチンは、かからないワクチンではなく、重症化を防ぐのが目的です。ワクチンを打っても過信せずに、手洗いなどの日常的な予防はしっかりと続けてください。

手洗い・咳エチケットが大切

 遅れた「流行入り」となりましたが、これから本格的な流行となっていくはずです。ちょうど今は、受験の季節ですね。受験勉強だけでも大変なのに、インフルの流行情報でヒヤヒヤしていることだと思います。本人だけでなく、家族も気をつかい、究極の予防体制がとられているでしょう。

 インフルエンザは乾燥に強いウイルスです。流行が拡大すると、様々な環境がウイルスで汚染されます。そして、くしゃみや咳だけでなく、汚染された手を口や鼻にもってくることでも感染してしまいます。園や学校・施設、会社、そして家庭内でも、手洗い・咳エチケットを再確認し、しっかり日常的な予防策を強化して、みんなで乗り越えて行きましょう。

 手洗い・咳エチケットについては、こちらの記事もごらんください。

  『たかが手洗い、されど手洗い』ヨミドクター

 ガチャピンとムックの手洗い動画もどうぞ   『ガチャピン・ムックの正しい手洗い方法』東京都

  『インフルエンザ予防啓発ポスター・リーフレット』東京都

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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