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ホントはどうなの?健康食品・サプリメント

国立健康・栄養研究所

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[茶カテキン]体脂肪改善うたうも、体内に吸収されにくい 

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  嗜好(しこう) 品として日本人に長く飲用されてきた緑茶が、健康飲料として注目されています。

 国が有効性と安全性を評価して保健効果の表示を認めた特定保健用食品(通称、トクホ)にも、多くの茶飲料があります。その保健効果に関与している成分が「茶カテキン」です。では、茶カテキンとはどのようなもので、その有効性や安全性はどこまでわかっているのでしょうか。今回は日本人に 馴染(なじ) みの深い茶カテキンについて、現時点の情報をご紹介します。

茶カテキンとは

 

 茶としては、緑茶、ウーロン茶、紅茶があり、緑茶は非発酵茶で、半発酵させるとウーロン茶、さらに発酵させると紅茶になります。これらはカメリア・シネンシス(Camellia Sinensis)という植物の葉(茶葉)から製造されています。特に緑茶には茶カテキンが多く含まれており、濃い緑茶を飲んだときに感じる渋みは、茶カテキンによるものです。

 茶カテキンは、その構造中にフェノール性の水酸基(OH基)を多く含むポリフェノールと呼ばれているものの一つで、複数の化合物の総称です。一般に知られている茶カテキンは8種類あり、この中でエピガロカテキンガレート(EGCg)は、特に緑茶に多く含まれています。茶葉や調製法にもよりますが、急須で入れた緑茶には、100mL当たりに50mg~150mgの茶カテキンが含まれていて、その中のおよそ4割がEGCgです。

第6回 茶カテキン

 

作用の場所と濃度が健康効果を理解する上で重要

 

 茶カテキンの健康効果の情報を理解する際、その結果がどのような条件(作用する場所と濃度)で得られたかが重要になります。

 まず、よく知られている抗酸化作用は、ほとんどが試験管内の実験で示されています。そして茶カテキンは、酸化を防止する目的で食品添加物として食品に添加されています。茶カテキンの抗菌作用もよく知られており、例えば、虫歯に関係するミュータンス菌の増殖抑制作用が示されています。そして「虫歯の原因になりにくい」表示をしたトクホ商品があります。また、消化酵素のリパーゼやアミラーゼの阻害作用が示されており、血清コレステロールや体脂肪の改善効果を表示したトクホ商品もあります。これらの茶カテキンの作用には、特にEGCgが関係していると考えられています。以上は、試験管内や腸の中で認められたもので、茶カテキン濃度がかなり高く、その効果も明確です。

 一方、血液や組織中における茶カテキンの作用については、茶カテキンの摂取後の腸からの吸収、体内分布、肝臓における代謝、体外 排泄(はいせつ) を考える必要があります。茶カテキンが腸から吸収されて血液や組織中の濃度が、効果を示す濃度までにならなければ、試験管内の実験で認められた茶カテキンの抗酸化作用は期待できるとは言えません。

 茶カテキンは腸から吸収されにくく、例えば、緑茶を多量に摂取しても血液中のEGCg濃度は1マイクロモル/L以下です(1マイクロモル/Lとは、EGCgでは458.37マイクログラムが1リットルに溶けている状態。1マイクログラムは100万分の1グラム)。ちなみに、血液中の抗酸化に関与しているアスコルビン酸の血液中濃度は30~150マイクロモル/Lです。

 EGCgが、がん細胞にアポトーシス(細胞を良い状態に保つために積極的に誘導される細胞死)を誘発し、抗がん作用があるという情報があります。これは細胞を高濃度(100マイクロモル/L程度)のEGCgとともに培養した試験管内の実験結果です。EGCgは多量に摂取しても、その血液中濃度が100マイクロモル/Lといった濃度にはなりません。試験管内で認められたがん細胞に対する作用は、高濃度のEGCgから過酸化水素が生成され、それが染色体の損傷を引き起こしたものと考えられています。

 これらの状況から、緑茶中の特定成分であるEGCgに抗がん作用を期待し、EGCgを錠剤やカプセル状のサプリメントから摂取することの根拠は明確ではないといってよいでしょう。また、緑茶を飲用している人では、がんの発症リスクが低いという報告があります。しかし、がんの部位によって異なる結果が得られており、これについても現時点では一定した見解は出ていません。

知っておきたい安全性

 

 茶カテキンに有効な効果があるといっても、安全性が確保できていなければ摂取する意味はありません。茶カテキンの安全性について、特に注意したい三つのポイントを以下に紹介します。

 1)緑茶として摂取する際

 緑茶に茶カテキンが含まれているからといって、嗜好目的を超えた量で緑茶を摂取することには注意が必要です。緑茶にはカフェインが多く含まれているからです。カフェインは多量に摂取すると頭痛、神経興奮作用などを引き起こすことがあるので、特にカフェインに過敏な人は注意が必要です。

 2)サプリメントとして摂取する際

 緑茶は長い歴史の中で安全に飲まれてきました。しかし、緑茶を飲用することと、その中に含まれている茶カテキンをサプリメントなどの濃縮物として摂取することは、安全性の観点から同等ではありません。サプリメントは、茶カテキンを効率的に摂取できるメリットはありますが、健康効果や保健効果を期待して利用すると、茶カテキンの摂取量と摂取頻度が増加し、これまでわからなかった健康被害を受ける可能性があります。実際、因果関係は明確にはなっていませんが、海外では茶カテキンを含むサプリメント摂取との関連が疑われる肝障害の事例が多数報告されています。ただし、日本国内では茶カテキンに関連した肝障害の報告は、今のところ見当たりません。この原因は、日本では茶カテキンを主に飲料として摂取していて、茶カテキンが過剰量で摂取されにくい条件になっているためと想定されます。

 3)医薬品との飲み合わせ

 茶カテキンが鉄イオンと結合して、消化管からの鉄の吸収を低下させることが知られています。そこで、昔は鉄剤の服用者は禁茶にするべきとの考え方がありましたが、実際に調べてみるとそのような心配はないことが示されています。だからと言って、濃いお茶と鉄剤を同時に服用して良いというわけではありません。

 動物実験において緑茶と薬との飲み合わせが良くないといった研究結果が報告されています。それがヒトにおいてどれだけ薬の効果に影響するかは、今後のさらなる検討が必要です。茶カテキンに健康効果があるとの思いから、緑茶や茶飲料を過度に摂取した時、茶カテキンは胃や腸でかなり高濃度で存在するため、まだ知られていない不都合な影響が出る可能性があることは、認識しておいた方がよいでしょう。

情報を見聞きするときに注意したいこと

 

 私たちが情報を見聞きする時は、「良い」「悪い」、「安全」「有害」など、両極端な情報に注目しがちです。両極端な情報はわかりやすいのですが、「誰が、何を、どのような目的で、どれだけの量で摂取するか」によって、茶カテキンは安全で有益にもなれば、有害になることもあります。商品販売が目的となっている場合には、都合の悪い情報は出ていないことも知っておいた方がよいでしょう。

 現在、茶カテキンについては、まだまだわからないことがたくさんあり、国内外で多くの研究がされています。私たちが知っている情報は、現時点で知り得た情報であり、その評価や解釈が、新しい研究結果によって将来変わることも知っておいてください。

 

 茶カテキンや茶カテキンを含むトクホ製品に関する情報の詳細については、以下のサイトを参照してみてください。

 ⇒ 国立健康・栄養研究所 「健康食品」の安全性・有効性情報サイト

 (国立健康・栄養研究所 梅垣敬三)

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国立健康・栄養研究所

国立健康・栄養研究所(健栄研、東京都新宿区)は、国民の健康の保持・増進に関する調査研究、栄養や食生活に関する調査研究等を行う機関。1920年に前身の機関が内務省に創設されて以来、国民の健康・栄養に関する調査研究に従事し、近年は「健康食品」の安全性・有効性に関する調査研究や情報提供も行っている。2015年4月に「医薬基盤研究所」(基盤研、大阪府茨木市)と統合し、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(略称:医薬健栄研)が設立され、現在はその中の組織として位置づけられている。

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