心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
何となく不具合、ことごとく不具合…「不定愁訴」で片付けないで
ぶどう膜とは眼球を囲む膜のうち真ん中にある虹彩、毛様体、脈絡膜を指し、ここに何らかの原因で炎症が生じた状態を「ぶどう膜炎」とよんでいます。
その中に原田病という病があります。これはいわゆる急に両目の視力低下が生じ、視神経乳頭が腫れ、網膜剥離が出現する、目や全身の色素をターゲットにした自己免疫疾患です。
比較的改善しやすいとされてはいますが、「見えなくなってはじめに読む本」(大活字)を
作家の森まゆみ氏は原田病にかかった体験を記した「明るい原田病日記」(ちくま文庫)で、こう述べています。
――なんとなく不具合、ことごとく不具合、そういうとみんな、ああ不定愁訴ね、という。その一言で片付けられる。
こうも書いています。
――(先生は)「もっと悲惨な患者さんはたくさんいます」とおっしゃるのだが、先生はたくさんの症例で比較考量なさるとしても、私にとってみれば一回きりの固有な経験であり、とうてい完治したとは思えない。これで十分不具合で、問題だらけで、つらいのだ。
患者が不調を訴えているのに、「この病気の治療としては十分うまくいっています」とか「もっと悲惨な患者さんはたくさんいます」という医師の発言は、何だか子供の口答えのようでもあります。毎日毎日、痛がり、
私の外来の原田病患者の多くは、「明るい原田病日記」の中に私の名前を見つけて来院した方々です。ある女性は、その治療後間もなく復職しました。その数か月後、急に会社に退職者が出て、穴埋めのため異動になりました。これまでの慣れた仕事から、一転仕事量が増え、責任も重くなりました。そうこうしているうちに、眼は疲れ、体は重くなり、気力が低下しました。
心配した彼女は、予約を前倒しにして来院しました。炎症はごくわずかで、再発というほどの所見はありません。
でも、これはまさに「なんとなく不具合、ことごとく不具合」という状態。今の仕事量が病後の彼女にとって負担がかかりすぎているのだろうと判断し、とりあえず、1か月の休職を指示しました。眼科のプロたる私という人間が、可能な限り想像力を全開にして下した判断です。会社にも、同じように想像力を働かせてほしいと思いながら-----。