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若年性認知症 段階的に支援…各地の取り組み

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若年性認知症 段階的に支援…各地の取り組み

 65歳未満で発症する「若年性認知症」は、高齢者の認知症と比べ、働き盛りで体力のある人が多く、就労継続や居場所作りなどの段階的支援が欠かせない。全国的な施策の遅れも指摘される中、各地の取り組みを取材した。

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「テニスに夢中です」と話す杉野さん(京都市で)

 京都市の杉野 文篤ふみあつ さん(62)は、私立大学の事務長だった2012年夏頃、異変に気付いた。パソコンの操作手順が分からなくなり、書類の管理もうまくいかない。決定的だったのは、漢字が書けなくなったこと。翌春に初期のアルツハイマー型認知症と診断された。50歳代後半の発症だった。

 部下がパソコン操作を助けてくれるなどしたが、「これ以上迷惑をかけたくない」と1年後に退職。定年の65歳まで5年を残した。子はなく、住宅ローンも完済し、経済的に追い込まれることはなかったが、「毎日どう過ごしたらいいか分からず、困惑した」という。

 妻の由美子さん(60)の助言もあり、地元の「認知症の人と家族の会」のメンバーと知り合い、14年夏からは、京都府立洛南病院が実施するテニス教室に参加する。週1回、夫妻で出向き、同じ境遇の仲間たちと汗を流す。テニスは初体験だったが、「すっかりはまった」。自宅でも素振りを欠かさず、最近は錦織圭選手の試合中継に夢中だ。

 昨年暮れに介護保険の「要支援1」と認定されたが、まだ体も動き、サービスを利用したことはない。

 杉野さんは「私は幸い、早期発見・早期診断だったが、一歩間違えれば、『早期絶望』につながりかねなかった。若年性認知症は『まだ動ける』『もっと役に立ちたい』という気持ちが強い。活躍の場や居場所が必要だ」と話す。

  ◇経済的に困窮も

 認知症は、高齢者のものと思われがちだが、若くして発症する場合もある。

 厚生労働省が09年に発表した調査結果によると、18~64歳の認知症は、全国で推計3万7750人。55~64歳が大半だが、50歳未満も5000人以上。発症年齢で区切り、65歳未満を「若年性(若年)認知症」と呼ぶが、特有の症状があるわけではない。

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 ただ、年齢が若いことによる、特徴的な問題が起こりやすい。無料電話相談窓口「若年性認知症コールセンター」を運営する「認知症介護研究・研修大府センター」(愛知)によると、物忘れなどの異変に気付いても、すぐに受診しなかったり、うつ病などに間違われたりして、診断や治療が遅れやすい。一家の生計の支え手が多く、休職や退職で経済的に困窮しがちだ。

 また、体力があるため、仕事を辞めた後の居場所や過ごし方に迷う人は多い。高齢者向けの介護保険サービスの利用に抵抗を感じる人も少なくない。

  ◇就労・社会参加

 500万人とも言われる高齢者の認知症に比べて、若年性認知症の数は少なく、社会的な理解も不十分だ。国は昨年1月に策定した国家戦略の柱の一つに、若年性認知症の支援強化を掲げた。全都道府県に相談窓口の設置を目指し、就労や社会参加の支援に力を入れる。ただ、取り組みには地域差があるのが実情だ。

 先進地として知られる滋賀県で、中心を担うのは、藤本クリニック(守山市)。若年性認知症の本人・家族を通じて、産業医や職場の上司らと面会し、電話やメールで継続的に連絡を取り合うなど相談に乗っている。配置転換などで本人の就労継続につなげるのが前提だ。県も企業向けの研修などで意識改革を図っている。

 休職・退職後の支援として、クリニック併設の「仕事の場」で、企業から請け負った軽作業も提供する。週1回、若年性認知症を中心に30~40人が参加し、交流の場にもなっている。

 クリニックの藤本直規院長(63)は「若年性認知症と診断されると、突然のことに本人も家族も混乱する。一定の期間を経ながら、経済的・精神的な準備を進め、納得して次の段階に移行できるよう、支援していきたい」と話している。

  <若年性認知症の主な相談先>

▽若年性認知症コールセンター(0800・100・2707)

▽認知症の人と家族の会(0120・294・456)(075・811・8418)

▽若年認知症サポートセンター(03・5919・4186)

▽東京都若年性認知症総合支援センター(03・3713・8205)

 (小林直貴)

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