教えて!yomiDr.
医療・健康・介護のニュース・解説
「全国がん登録」スタート…正確な統計で実態把握
がん登録推進法が1月に施行され、国が全国の患者情報を一元管理する「全国がん登録」がスタートした。どんなもので、どんな意味があるのだろうか。
■従来は推計値
「1年間に国内でどんながんに何人かかったか。実は、正確な数字は把握できていないのが現状です」
国立がん研究センター・がん対策情報センター長の若尾文彦さんは語る。
2011年に国内で新たにがんと診断された患者の数は85万人と言われている。しかし、この数字は、がん患者のデータ登録の精度が高い14県の集計値から計算した「推計値」に過ぎない。
わが国のがん患者の登録は1950年代に一部の県で始まり、その後全国に広がったが、これまでは法定義務でなかったため、各都道府県で精度にばらつきがあった。
集計にも時間がかかり、年間新規患者数の推計は5年前のデータが最新というわけだ。
同センターは、この推計を基にその後の人口の動きも計算、15年の新規患者数を98万人と予測している。
一方、年間がん死亡数は、国の人口動態統計からわかり、14年の36万8000人が最新だ。
全国的ながん統計が不十分な中、32のがん専門病院で作る「全国がん(成人病)センター協議会」が、5年生存率などを先駆けて集計、公表している。
■これから
高齢化に伴い、がん患者は増加傾向にある。がん対策を重視する機運が高まり、今年、法に基づく「全国がん登録」が始まった。国内の全病院と一部の診療所は、がんと診断された患者の情報を、都道府県を通じ、国に届け出るよう義務づけられた。性別や生年月日、がんの種類、進行度など26項目を記録する。
今年登録された新規患者数の公表は2年後の18年末の予定。5年生存率は、その5年後の23年中が公表のメドだ。
■意義
正確ながん統計がまとめられることについて、若尾さんは「地域ごとに、がん対策の課題が、より明確になり、丁寧に検討できる」と説明する。
仮に、全国平均に比べ、胃がんの死亡率が高い地域があるとしよう。がん登録データから見えてくる地域の特徴次第で、講じるべき対策は異なってくる。
〈 1 〉 患者発生が多い →地域住民の生活環境・習慣に問題がないか、検証する必要がある。ピロリ菌保有者の割合、塩分の高い食習慣、喫煙率など、発症リスクを高める要因を分析する。
〈 2 〉 早期発見が少ない →がん検診の受診率が低かったり、検診での見逃しが多かったりする可能性もあり、その強化が求められるだろう。
〈 3 〉 患者発生も早期発見も全国平均並み →地域の病院の治療に問題がないか、検証する必要がある。
「統計を毎年継続して見れば、対策が有効だったかも検証できる」(若尾さん)という。
また、「がん診療連携拠点病院」など、がん医療に力を入れる約700病院は、さらに詳しく約90項目を届ける。こちらは全国がん登録と区別し、「院内がん登録」と呼ばれ、各専門病院の診療の質の分析などにも活用される。(高橋圭史)
がん情報をサイトで紹介
がん患者や家族向けに、国立がん研究センターが運営するサイト「がん情報サービス」( http://ganjoho.jp )では、がんに関する様々な情報を提供している。
胃がん、乳がんなど、がんの種類別の特徴や検査、治療法などの基本情報のほか、がん統計などのデータも紹介している。国が指定する「がん診療連携拠点病院」について、一定の治療実績や専門スタッフなどのデータも閲覧できる。
ただ、多くの情報が詰め込まれている分、知りたい情報のありかを探すのに苦労することもある。
平日午前10時~午後3時は、サポートセンターで電話相談(0570・02・3410)も受け付けている。
【関連記事】